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プー太郎日記:「ムツゴロウの海」の光と影

2021年10月、あいだの探索・実践ラボ(小林 泰紘代表)のフィールドワークとして、「森里海連環学」の権威の田中 克先生の素晴らしいナビゲートで有明海周辺を巡った。ここで、日本の環境問題のシンボル的存在である諫早湾干拓事業について、小生にとっては初めて直面することになった。

有明海の干潟は日本一大きく、日本一干満差が大きい(6m)こともあり、多様な生態系を産んでおり、日本で有明海だけでしかない生物体はムツゴロウなど23種類、世界でも有明海しかいない生物体は6種類ある。(佐藤2014、肥前鹿島市2021)

1、「ムツゴロウの海」の光: 佐賀県肥前鹿島市

佐賀県肥前鹿島市はラムサール条約湿地に登録し、干潟の「保全・再生」、「賢明な利用」、「交流と学習」(肥前鹿島市 2021)にマジメに推進しているし、更に発展できると思った。鹿島市の干潟交流館で水着に着替えてドロドロになって干潟で遊び、学ぶ施設もあり、地方創生の拠点になりうる。絶滅危惧種のムツゴロウやワラスボの珍味を食して良いのか迷う処だが、「ラムサール条約湿地」スティッカー付き商品は1円寄付することになるということで購入した。

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市職員が作った生態系学習ツール

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道の駅で販売している「ムツゴロウ」と「ワラスボ」の珍味(醤油タレつけ) 醤油味が強く味は普通。

2、「ムツゴロウの海」の影: 諫早干拓事業

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水の色が潮受け堤防の外と内で異なることがわかっていただけると思うが、潮受け堤防による干拓により干潟の生態系が大きく崩れて、生物生産力が大きく下がり、生物多様性が失われている状況になっている。(佐藤 2021)

宮入先生(宮入 2021)の2006年のシュミレーションでは、インシャルコスト諫早干拓事業総工費2460億円、社会的費用5613億円(漁業被害費用4229億円、水質悪化費用1384億円)に対して農水産省推定妥当投資額2125億円(災害防止効果など)ですので、費用対効果(実質投資効率)は、0.27になる。また、ラニングコストの直接費(有明海再生事業費・調整池浄化事業費など)は宮入先生(宮入 2021) の集計によれば2015年から2019年で総計1106億円(年平均74億円)である。干拓地での農業生産額は推定で年間40億円と伺ったが、鳥害や気象不順により干拓農地はビニールハウスが増えており、敢えて干拓地で農業をする必要性が減っている。ラニングコストの間接費として環境悪化コストがあるがこれはきちんとシュミレーションされていない模様である。

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今回のフィールドワークでは、潮受け堤防の水門閉門により、海と流れ入る川・森が断絶され、蟹などの生物体の多様性・個体数が大幅に減少していることを教わった。このようなコストがきちんと把握されていないように思われる。


3、「ムツゴロウの海」の新たな光 ー 見える化と対話

今回、漁協の方のお話も伺ったが、干拓事業で賛成派と反対派で長年分かれて市民間の対話がなくなっていたが、漸く対話をしよう(酒を呑み交わそう)という機運が漸く芽生え始めたと伺った。また、地元の高校生がSDGの観点で対話しようとしている。また、認定非営利法人アースウォッチジャパンなどが調査に協力することを計画している。

小生は、サンクコスト(sunk cost)の概念が大切であると思う。恩讐を超えて、みんなで現状を見える化し、未来について何がベストなのか市民レベル、県レベル、国レベルできちんと対話をしていくべきだろう。制限開門調査については、裁判の動向は分からないが、過去をひきずる農林水産省よりCOP15 の観点で環境省が主導的役割を果たすべきではないか。 開門の効果についての知見は、三重県英虞湾、宍道湖中海干拓事業など十分集まりつつある。この問題こそ、私たちのSDGへの取組み、Regernerative Leadership が問われている。

今回ご指導戴き、このチャレンジに長年ご尽力されてきた田中先生、佐藤先生に感謝申しあげます。

<参考文献>

佐藤 正典(2014) 「海をよみがえらせる」岩波ブックレット、岩波書店

佐藤 正典(2021)「諫早湾の干潟生態系の価値とその復元の可能性」JEC諫干検証委統合報告書 、日本環境会議

第一回森里海を結ぶフォーラム(2021) 2021/10/1-3のYouTube 中井徳太郎環境省事務次官スピーチ部分他 https://www.youtube.com/watch?v=jxG9bcJR_H8

田中 克(2021) 「ムツゴロウ目線の有明海再生論:森林海を結ぶ」

肥前鹿島市(2021) ホームページ「ラムサール条約湿地「肥前鹿島干潟」https://www.city.saga-kashima.lg.jp/main/9198.html

宮入 興一(2021) 「諫早湾干拓事業 ー その経緯と問われる行財政の公共性」JEC諫干検証委統合報告書、日本環境会議



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