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鯛飯目指して風雨の山越え~四国一周の旅2日目後半~

四万十川沿いの食事処で鮎の塩焼きとごり丼に舌鼓を打った僕は、台風のコースを不安に思いながら、タクシーで土佐くろしお鉄道の中村駅に戻って着た。

15時10分、特急あしずりで中村駅を出発。今回は、宇和島に行く予土線に乗るために、行きに素通りした久保川駅で下車。付いたのが15時49分で、予土線が出発するのが16時58分。再び訪れる暇な時間…。駅の休憩室でしばらく座っていると、あれっ?奥の方からかすかに音楽が聞こえてくる。もしかして。そちらに行くと、思った通りドアがあった。そして開けると、

 「いらっしゃいませ。」

よかった!喫茶店があった!席に案内してもらい、ホットコーヒーを注文。数分後出て来たコーヒーは、なぜか紙コップに入っていた…。1杯300円。これで、乗り換え時間をのんびり過ごせるんだから、ありがたい。

さて、一休みして、ホームに戻る。予土線と思われる停車中の気動車に乗ると、
 
「お客さん!」
 
運転士さんが慌ててやってきた。
 
「この列車、今運転を見合わせてるんですよ。」

えっ?どういうこと?運転士さんによると、既定の風速地を超えたため、安全が確認されるまでは列車を走らせられないという。ついに、台風の影響を受けてしまったか…。そういえば、さっき乗ったタクシーの運転士さんも「予土線は四万十川沿いをはしってるから、よく止まるんだよね」って言ってたっけ…。

列車は今は指令待ちで、もしかすると、今日は運航しないかもしれないとのこと。今日中に宇和島のホテルにいけないと、明日の予定が全部狂ってしまう。どうしよう。

乗り換え検索をすると、この後の特急で高知駅まで戻り、そこから高速バスで松山駅まで行き、さらに特急に乗ると、深夜0時ごろに宇和島駅に着くらしい。げっ!まじか!でも、やむを得ないか…。

ダメもとで、駅員さんに「宇和島のホテルを予約してるんですけど、今日はもう走らないですかね」と尋ねてみる。

「ちょっと厳しいかもしれないですね…。」
まあ、そうだよね。とりあえず、さっき調べた高速バスを使うルートを説明して、高知駅までの特急の指定席を発券してほしいと伝える。

「はい、これ特急の指定席です。でも、代行輸送ができないか上と相談するので、特急が来るまで待合室にいてください。」

台風が近づいてるこの状況の中で、代行輸送などしてくれるのだろうか。雨はまだ降ってないが、風邪がどんどん強くなってきた。これから天候が回復することはまずないだろうから、予土線は運航しないだろう。駅舎とは反対側のホームに止まっている予土線の気動車の音を遠くに聞きながら、待合室に戻るのでした。

てか、高知駅まで行ったとしても、高速バスや松山からの列車は運航するのだろうか。
 徐々に不安が募る。そろそろ特急が到着するだろうからと、ホームに戻ろうとしたところに、

 「お客さん!宇和島までタクシーで代行輸送できることになりました!」

絵っ!ほんとに!ありがとうございます!すごく助かります!!

久保川駅からの乗客はほとんどいなかったようで、タクシーに乗車したのは、僕と30代ぐらいの男性の二人だけ(ちなみに、年代は声で判断)。

タクシーが走り出して数分後、次第に雨音が強くなってきた。雨音が強くなるにつれ、社内の沈黙が際立つ。

「僕、今四国を鉄道で回ってて、これから宇和島に行くんですよ。今日はどちらまで行かれるんですか?」沈黙に耐え切れず、隣の男性に話しかけてみる。

「僕は、高知の実家からの帰りなんです。いつもは、車で来るんですけど、今日はたまたま列車を利用したら、台風で運休になっちゃって…。」

おおっ。地元の方か。これは地元の情報をゲットするチャンス!

「宇和島駅の近くで夕飯を食べたいんですけど、何かお勧めのものってありますか?」
 
「やっぱり鯛飯かじゃこ天かな。」
 
「おすすめの店とかありますか?」
 
「いや、僕食べ物にはぜんぜん興味がなくて…。栄養が摂取できれば何でもいいんだよね。営業の仕事をしてるけど、その土地の名物とかに興味を持てなくて…。東京に出張に行く時も、マックで済ませちゃったり(笑)」
 
食べるのが大好きな僕にとっては信じられないけど、本当に食べ物に興味がない人っているんだ…。

でも、この男性、新婚旅行でハワイに行って、帰国後一睡もせずにそのまま出社したり、今度も奥さんと1歳の息子さんと土日で広島旅行に行く予定だった李なんかアクティブ。
 「いやあ、僕はインドア派なんだけど、妻がアクティブで(笑)。」

好きな人と旅行に行けるってうらやましい!4か月前に彼女と別れた僕は、将来素敵な奥さんと旅行ができることを願うのでした…。

その後も、仕事の話、趣味の話と盛り上がり、50分位であっという間に男性の自宅近くに到着。男性は、土砂降りの中、タクシーを降りていきました。

タクシーの乗客は、僕一人になってしまった。雨と風がますますひどくなってくる。山道、連続するカーブ、まさかの倒木…。

 「倒木があったってことは、あそこももう少ししたら通行止めになるだろうな。」

タクシーの運転手さんがぼそりとつぶやく。ぎりぎりセーフだったってことか。

 「こんな山道で、雨風が強くて怖くないんですか?」

 「怖いけど、予土線は時々止まるから、こうやって代行輸送したことが何度かあるんだよ。」

なるほど。そして、突然、
 
「さっきの土佐清水ワールドって人入ってるの?」

一瞬ポカンとしてしまった。そういえば、さっきまで一緒に乗ってた男性に、
 
「昨日、ひろめ市場でカツオの藁焼きを食べたんですけど、めちゃくちゃ美味しかったです!前に会社の先輩に新橋にある土佐清水ワールドっていう居酒屋に連れて行ってもらって、カツオを食べて美味しいなって思ったんですけど、やっぱり高知で食べた方が美味しいですね。」
みたいな話をした。そのことだろうか。

 「はい、カツオ以外にも海鮮が美味しくて、けっこうにぎわってましたよ。」

 「そっかあ。土佐清水っていうのは、高知の地名なんだよ。なるほど、あそこから仕入れたものを出してるのか。高知は魚が美味しいからなあ。」

なんか一人で納得してるけど、とりあえず県外での高地(というか、土佐清水)の評判が気になったらしい。まあ、にぎわってるって聞いて喜んでくれたからいいけど。タクシーの運転手さん、地元愛が強いみたい!

そんなこんなで、18時50分宇和島駅到着!って、あれっ?乗る予定だった列車が宇和島駅に到着する時間は19時15分だから、20分以上早く着いちゃったんですけど…!台風をすんなり切り抜けられてほっとしたというか、拍子抜けしたというか。そして、鉄道より車の方が速かったということに、乗り鉄として悲しいというか。ちなみに、1時間半弱タクシーに乗っていたから、おそらくタクシー代は2万円ぐらいなのでは?代行輸送で、もちろんJR四国が負担してくれるから、タクシーを降りる時にお金のやり取りはなかった。バースデイ切符が1万3千円だったから、なんか申し訳ない。というか、JR四国、親切!おそらく、鉄道単体での収益は潤沢ではないと思うが、めちゃくちゃハートフル。実際、最終日も台風の影響でいろいろあったが、また乗りにきたいと思った。どんな時でも、少しでもいい旅の思い出を持って帰ってほしい。JR四国のそんな心意気を感じた。絶対にまたきます!そして、こんどこそ予土線にも乗ります!

今日の宿は、宇和島駅隣接の「JRホテルクレメント宇和島」というステーションホテル。入り口を入ると、あれっ?フロントがない。しばらくうろうろしてたら、フカフカの階段があったので、2階へ上がってみる。

 「いらっしゃいませ。」

よかった、フロントがあった。ちなみに、今回の度のホテルはすべてジャランのアプリで予約した。スマホの音声読み上げでも使いやすいから、けっこう重宝してる(ポンタポイントも溜まるし!)。

無事チェックインを済ませ、フロントにいた人に部屋まで案内してもらっている途中、鯛飯を食べたいのだけど、どこか美味しい店はあるかと尋ねると、ホテル1階のレストランで食べられるという。しかも、宿泊客は2250円でコース料理を提供してもらえるらしい。そりゃ行くでしょ!

部屋に荷物を置き、そのままレストランまで案内してもらった。
 
前菜、そして早速じゃこ天搭乗!魚のうま味がぎゅっと詰まってる。これ、ご飯にも合うが、小腹が空いた時にも食べたくなる味。

次に出て来たのは、天ぷら!しかも、鯛の天ぷらもある!これ、美味しくないわけないじゃん!サクッとした衣の中から、ホクホクの鯛!幸せ!

そして、いよいよきましたよ!鯛飯!なんか、鯛や薬味、卵、タレなどいろいろ準備が必要らしく、これはまっしーがやると本来の美味しいものにならない木がしたので、店員の方にやっていただくことに。ちゃんとご飯に盛り付けながらも、今何をトッピングしてるのか解説してくれるのが嬉しい(時々、淡々と盛り付ける人がいるんですけど、何をしてるのか教えてもらえると食事への期待度も増して嬉しいです!)。

 さて、一口。

なにこれ!鯛にこんな食べ方があったの!淡白な鯛の刺身にコクのある卵がからみ、少し甘みのあるタレとホカホカのご飯!最高級の卵かけごはん!鯛を食べる時って、出汁や醤油のイメージがあったけど、まさか卵が合うとは!
 
このホテル、内装もきれいだし、スタッフの方も親切だし、コースも美味しかった!しかも、駅の真横でアクセスも抜群!次回の予土線の度では、このホテルもまた利用しようと決めたのでした。

 ポーー。

かすかに列車の警笛の音が聞こえる。雨はいったんやんだようだ。
 
四国旅行2日目、台風の影響で思わぬ予定変更もあったが、その分で会えた人もいた、聞けた話もあった。なにより昼は川の幸、夜は海の幸を味わえた。

旅先を四国に選んだことを改めて正解だったと思いながら、明日に備えて早めにベッドに入るのでした。