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父の人生を変えた『一日』その96 ~生き字引~

その96 ~生き字引~
 高校なり大学を経て当社に入社する。そうすると必ずある部門に配属される。社会人はそこから会社人生の第一歩が始まる。私は学歴偏重者ではないが、今までの経験からすると高学歴の人の方が社会順応に早いような気がする。まず、管理職になるまではその与えられた任務の中で実力を出して行かねばならない。管理職になったらその時点で今後の会社人生を考えるべきである。重役・取締役になって会社運営にあたるか、あるいは技術・経理マンとしてそのまま務めるかである。
以前に私が長岡に戻ってからある女性を重役に抜擢したことがある。この女性は私が質問すると5分以内にすべてが分かるようなすばらしい女性であった。当時、コンピューターが入り始めた頃だったがコンピューターより早く「結論・資料」が出てきたのである。会社内の生き字引のような女性であり全く如才なかった。
 その女性は長岡大手高校普通科を卒業しそれから社会人になって経理を勉強し、そして経理部長を務めた。親戚でも親族でもないまったくの赤の他人であった。社長が求めるもの、社長が考えることを、前もって自分から必ず用意していた。仕事上は「一分の―隙」も無かった。間違いと言う間違いは決してなかった。確認事項については右に出る人がいなかった。いかつい男子社員にも堂々と理にかなわぬと噛みついた女性であった。田舎の小さな会社にも女傑はいるのだと当時は思って非常に嬉しかった。苦しい時の資金繰りを痩せる思いでやりきり無借金になっても金の苦労がしみじみと身体にしみこんだ彼女にはおごりは無かった。中小企業でも「生き字引」みたいな人いると当時は思った。私の行動力の側面援助する頼りがいのある側近であった。


~倅の解釈~
 この女性の方とは私も小さい頃から面識があった。孫のように可愛がって頂いた。祖父、親父の側近を経理面でつとめ、弊社の発展に大いに寄与していただいた方である。親父がこれほどに誉める方は今まで居なかった。この女性の方と私自身は一緒に仕事をしたことがなかったが、今思い返せば、少しでもいいからご一緒させて頂きたかった。
 生き字引、番頭と中小零細企業にも凄まじい武士のような人財はいる。大手企業と中小零細企業との大きなキャリアアップの差としては中小企業では間違いなく「やる気」があればどこまでも頂点へ上りつめることが出来るということだ。大手では競争、競合も多く、更には上から邪魔をするような方々もいて、なかなか、本質的な人事が遂行されないと思う。50人以下の中小零細企業は社長がすべてのスタッフとのやり取りを行うので、分かりやすい。
 ただし、「ゴマすり」してくるスタッフに騙されやすいのも確かだ。私が「社長の倅」として水澤電機に入社した際に、厳しく指導してくれる本質的な親父のブレインの方々と私の代の時を考えて、徹底的に私を甘やかした方々と明確に分かれた。勿論、今は後者の方々は一切いない。
 専務時代に会社経営にひずみが出てきた時期に経営コンサルタントを入れた。役員会議で決まった事なので私自身の反対は受け入れてもらえなかった。勿論、私にその経営をする能力もなかった。ただ、1社のコンサルタントが終わると、また次の別のコンサルタントを採用するから社長、専務と会ってほしいと依頼があった。そこで、あるコンサルタント会社の専務さんからの言葉を聞いて激怒した。
 「水澤専務、我々が入ったらあなたの仕事楽になりますよ!」と。
 この発言に頭に来て、親父に猛反対をして、このコンサルタントを入れることが中止となった。その後、一度もコンサルタントは弊社に入っていない。
 今、思い返すと、「生き字引」の方々に本当に厳しく育てて頂き、心から感謝している。当時、生意気な発言に対して、生ぬるい考えに対して、厳しく叱って、優しく導いて頂き、そのおかげで今の自分がある。親父の経営者としての帝王学と同じぐらい重要な学びを得ることができた。


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