変死体に対する解剖率向上に向けて


 死因究明の解剖率の地域格差は非常に大きい。2018年現在、死因について医学的な見識が必要となる警察が扱った遺体の内、解剖された遺体の率(解剖率)について、最も解剖率が高かった神奈川県(41%)に対して、広島県(1%)であった。また、全国平均は遺体数約17万人に対して、2万344人の12%であった[1]。このように、全国的な解剖率の低さ、また解剖率の地域格差が非常に大きいのが現在の死因究明の現状である。この解剖率は、スウェーデンの90%、アメリカの50%と比較しても非常に低水準である。

 なぜ、日本での変死体に対する解剖率は国際的に低水準なのであろうか。第一の原因として、法医学者の絶対数が足りないことが考えられる。人口100万に対する法医数は日本は1.3人に対し、米国3.2人、英国14.5人、ドイツ6.3人[2]と、日本における法医数は対人口比で足りていないのが現状である。現在日本に存在する法医学者数は120名である。解剖率を仮に米国の水準の50%を目標とするとして、現状から380名多い500名の法医学者が日本に必要となる。高齢化社会を迎え、日本の死亡率が上昇していく社会的兆候の中、法医学者の育成は急務である。

 変死体に対する解剖の需要に対応するため、法医学者を増やすにはどのような変化が必要となってくるのであろうか。社会的貢献度も高く、需要のある法医学者が少ない原因は、その道を死亡する医学部生の数が少ないことに問題があると推測される。法医学分野への大学院進学者数は非常に少なく、東北大学において毎年2名弱である[3]。これは、法医学という進路に特有の所得の低さ、扱う事柄の特殊性などによる。医学部を卒業し、勤務医や開業医として働く場合と比較して、相対的に年収が低い。更に、医師を志した動機に関する統計データにおいて「人を救う仕事に興味を持って」という理由が33%と高い数値を示す[4]様に、「治す」医者を死亡する医学生の割合が高いことも理由として考えられる。このような法医学における現状において、法医学に対する処遇の改善は今後必ず必要となってくる変化の一つであろう。現在、警察から検案医に支払われる謝礼は3000円程度と非常に低い。検死の労力に見合う謝礼は必須である。さらに、医学における進路の細分化も今後大局的に考えられるのではないか。法医学者を専門的に育成する学科の設立なども手段として考えられるであろう。そのような意味でも、最近のメディアにおける法医学に関連する番組やドラマなどにより社会的な認知度が向上することも非常に大切な活動の一つである。

 遺体を扱うという法医学者特有の事情をどの様にして改善していくか、社会全体で考えて行く必要がある。


【参考文献】


[1]死因究明の解剖率に地域格差 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASM8Z76KMM8ZULBJ00P.html

[2]犯罪死の見逃し防止に資する 死因究明制度の在り方について 警視庁

https://www.npa.go.jp/sousa/souichi/gijiyoushi.pdf

[3]法医学分野への医師入学者数 東北大学提出資料 内閣府

https://www8.cao.go.jp/kyuumei/investigative/20130620/houkoku1-3.pdf

[4]医師を志したきっかけ 医学部専門予備校メディカルラボ調べ

https://www.medical-labo.com/news/reason.html

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