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雨天順延(『文房具たちの共鳴』)




 晴れた日に死ぬと、白鳥が微笑む。
 
 しかし、今日は雨。燻んだ匂いは、誰かを不幸に導いてくれるし、誰かを幸運にも導く。
 
 晴天に傘をさす私だが、雨の日には両手をポケットに突っ込んで、雨を浴びながら歩く。生憎の雨。恵の雨。お天道様の涙。色々あるけど、私は頭の中でてるてる坊主を恨む。晴れにしてくれよ。じゃないと、死ねないじゃん。
 
 空中を、一台の飛行機が水平に進んでいく。私はそれに向かってデコピンする。パン、それは姿を消す。
 
 さすがに、私を愛してくれた人が死んだ街で生きている理由はない。探しても出てこないヘアピンみたいだ。ねえ、何で死んだ? 私は一人で問いかける。私を置いて死ぬなんて、罪だよ。でもさ、人って結構呆気なく死んじゃうんだよね。そう、2023年の冬。枯れた植物が一斉に刈られる時期だ。事務的に、バッサリと逝っちゃうんだ。
 
 それにしたって残酷よ。私もあなたと一緒に行きたかった。でも、私は遺された。神様か仏様か、それともご先祖様か。知らないけど私をこの世に残した。生きなさいって命令しているみたいに。
 
 雨天順延。私の心には永遠の雨が降り続けている。きっとこの世が真っ青な晴れ模様になっても、私の胸の奥で雨が止むことはない。
 
 死ねないね、これじゃ。

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