見回り

コマ兄と境内の掃除をしていると、タカシくんが来た。
「1日、2日はバイトで来れないからね」
そう言って年末の挨拶をし、話が世間話になる。
学校がどうだ、とか、バイトがこうだ、とか…そして…
「そういえば、最近、この町でウルトラマン関連グッズが売り上げ伸ばしてるらしいけど知ってる?」
「いや…クリスマスシーズンだからとかじゃなくて?」
そういえば、なんとなく聞いた覚えがある。
今月初めくらいから急激に売り上げが上がっていると…
「どうも魔除けらしいんだよね」
「魔除けぇ!?」
オレは思わず吹き出した。
するとコマ兄は真剣な顔で言った。
「あのね、ウルトラマンは怪獣退治の専門家と言われてるけど、物の怪の類と戦うことも結構あるよ。
そもそも初代の段階ですでにウーとかヒドラとか…」
「いや…それはわかってるんだが…グッズが魔除け扱いって…」
そのとき、ふと思い出した。
12月初めのある出来事を…
「どうした?」
「顔色変わったよ?」
「多分、アレが原因だな…」
二人は顔を見合わせる。
「アレってどれ?」
「何か知ってる?」
「覚えてないのか、コマ兄…」
そこでオレは、あの恐ろしい出来事を語ることにした。

狛犬組合は、悪霊が悪事を働かないように月に2回、夜中に見回りをしている。
当番が回ってくるのは年に2回、あるかないかだ。
今回は12月初めの土曜日がうちの当番で、オレはその日に合わせて帰って来た。
すると何やら、家の中から凄まじい怒りのオーラを感じる。
その出所はコマ兄だった。
近寄りがたい雰囲気を感じたが、一応聞いてみる。
「どうしたんだコマ兄…何かあったのか?」
「…ない…」
何もないのに怒っているのか?
「スパイラルバレードが付いてないんだよぉぉぉぉぉぉおぉ!!」

「あ、護兄ちゃん、おかえり。
コマ兄はさっきからずっとその状態」
そう言って美子ちゃんは温かいお茶を出してくれた。
「最初はるんるんで帰って来たの。
で、中身を見てからそうなった」
美子ちゃんは説明してくれた。
「この怒りをっ!誰にぶつければいいんだ!!」
そこへ女神様も帰って来た。
神様達の定例会議だったそうだ。
「あ、覚えてるとは思うけど、今日は2人とも見回りだよ」
コマ兄はその瞬間、凶悪な顔でニヤリとした。

夜11時、見回りが始まる。
今日、見て回るのは4箇所。
そしてコマ兄の機嫌は悪いままだ。
20分くらい歩いて、最初の目的地に着く。
そこは大きな交差点。
地縛霊がおり、進んで悪さはしないのだが、ふとしたことで事故を誘発してしまう。
お地蔵様が設置してあり、それからは大きな事故は起きていないが、地縛霊に対して注意喚起は必要との判断。
行ってみると…

地縛霊が必死にお地蔵様を拭いていた。

あぁ…コマ兄のことが伝わってるんだな…
何か申し訳ないような気の毒なような…
しかも、必死でなんとか見つけて来たような古い布…所々穴があいている。
それを見てコマ兄は怒鳴り声をあげる。
「おいお前!
お地蔵様は新品のタオルで拭け!
マナー違反もいいところだ!」

そう言うとコマ兄は新品のタオルを鞄から取り出す。
地縛霊は泣きながらタオルを受け取り、お地蔵様の掃除を続ける。
「えっと…じゃぁ…次に行こうか…」
一緒に見回ってた狛犬さんが言う。
「…そうだな…」
コマ兄がこれ以上怒らないようにオレたちは急いで次に行った。

次は山の麓の草原。
ここに集まった幽霊達は色々と怪しげな儀式をしている。
過去に1度、とんでもない物の怪を呼び出し大騒動になったことがある。
儀式は控えるように見に行くのが今日のお仕事。
行ってみると、幽霊達は円になっていた。
また儀式かと思い近づくと…
「女神様バンザーイ!」
「女神様バンザーイ!!」
…コマ兄のことが広がっているのは間違いない…あからさまに機嫌取りに来ている…
コマ兄はそこへズカズカ近づき…
「お前達…」
幽霊達は振り返った。
コマ兄の顔を見て凍りつくもの、半泣きになるもの…色々だ。
「精進を怠るでないぞ」
幽霊達は安堵の表情に変わる。
「も…もももももちろんでございます」
「女神様のために祭壇を作ろう!」
「女神様にお供えものを」
…ここは何とか大丈夫かな…ふと見ると近所の狛犬さんも安心した様子だ。
しかし次の瞬間…
「女神様のためにパレードを」
コマ兄の顔が変わった…
「パレード…バレード…スパイラルバレードぉ!!」
幽霊達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「1匹たりとも生かしては帰さん!」
追いかけようとするコマ兄を3人で必死に止める。
「落ち着けコマ兄…あいつらはもう死んでいる」
幽霊だからなぁ…
「…そうか…そうだな…」
こうして2箇所目も終わる。
次はどうなるか…頭が痛くなってきた…

3箇所目はこの町で一番大きなビル。
そこには凶悪な幽霊がおり、事故や飛び降りなどを進んで起こしている。
何度か行ってみたのだが、うまく隠れており、なかなか捕まらない。
見回りを始めて、事件・事故は激減しているのだが、毎回コースに入るほどの危険地帯。
そのビルの前で、ヤツはニヤニヤしながら待っていた。
コマ兄を挑発する気だ。
しかし、コマ兄と目があった瞬間、青ざめ、半泣きでビルの前の清掃を始めた。
「…チッ」
「コマ兄、今舌打ちした!?」
「してないよ」
「でも今『チッ』って…」
「してないよ」
「…あ、はい…そうですね…」
最後にコマ兄は悪霊の方を一睨みした。
悪霊は泣きながら必死に掃除をしていた。
…それにしてもスパイラルバレード1本でそんなに怒れるものかね…
「弟よっ!スパイラルバレードはいいものだ!付属しないのはおかしいと思わないか?」
心の中を読まれた!?
「えっと…おっしゃる通りです」
これはもう無心で仕事を終わらせるしかない…
近所の狛犬さんもガクブル状態だ。
「とにかく次に…」
「そうだな」
オレ達は足速に次へ向かった。

最後は商店街。
ここは悪事を働くというよりよくパーティをしており、とにかくうるさく、また、近隣住民に対してはそれがラップ音など心霊現象という形で影響する。
静かにするように注意喚起が仕事だ。
行ってみると静かにお茶会が開かれていた。
「いやぁ…静かなお茶会もいいものですなぁ」
「お茶に羊羹はいいですねぇ」
和やかに見えながらかなり緊張感がある。
間違いなくコマ兄を意識している。
まぁいい。
ここが終われば帰れる。
このまま何も刺激せずにいてもらえたら結構だ。
「最近何か面白いことあった?」
「そういえば映画に備えてアニメを一通り見直して」
何事もなく終わりそうな雰囲気…映画…?
「何て映画だい?」
「スパイファ「スパイラルバレードぉおぉぉぉっ!」
コマ兄がキレた。
恐ろしいほどキレた。
ちょっと泣きたい。
幽霊達はすでに泣いている。
「お前ら…スパイラルバレードがついていないというのによくもまぁそんなことが言えたもんだなぁ」
お茶会の雰囲気が凍りついている。
みんな震えながら小さくなっている。
「もしかしてお前らのせいか?
お前らが呪ってスパイラルバレード付かないようにしたのか?」
オレは慌ててコマ兄を止めに入る。
「待て…流石に言いがかりがすぎる」
「言いがかりで何が悪い!?
…まさか…」
オレは慌てて首を横にふる。
「滅相もございません」
コマ兄はゆっくりと幽霊達の方に向き直る。
見ると幽霊達は全部白目を剥いて泡を吹いて意識をなくしていた。
すかさずオレは言った。
「スパイラルバレードがないのはアイツらのせいです。
コマ兄が無意識のうちに成敗しました。
ここの見回り終わりっ!」
一緒にコマ兄を引っ張ってもらおうと近所の狛犬さんの方を向くと…


こっちも白目を剥いて泡を吹いて倒れていた…

あぁもぅ…何でこんなことになるんだよ!
「コマ兄、温かいお茶を買って来てくれ、2人に飲ませる」
「え?あぁ、そうだな」
コマ兄は慌てて自販機を探しに行った。
その間に2人を起こす。
「おい、生きてるか?」
「あぁ…何とかな…」
2人は立ち上がると体についた砂をはらう。
そこへコマ兄が戻って来た。
「大丈夫かい?
はい、お茶」
「あぁ、ありがとう」
そこでオレは言った。
「見回りは終わったし2人は体調良くないみたいだしもう解散しよう」
こうして見回りは終わったのだった。

「それは…幽霊達もびびって逃げるw」
タカシくんが言った。
「あぁ…それでか…」
コマ兄は1ヶ月近くたってようやく納得した。
「でも、コマの機嫌はどうやってなおったの?」
「オレが帰る前に女神様にメールしたんだが…
帰った途端に女神様と美子ちゃんでチルソナイトソード大絶賛よ。
そしたらコマ兄も『チルソナイトソードついてるからまぁいいか』と納得してな」
タカシくんは爆笑している。
確かにあの日は苦労した。
しかし結果として今年の12月は平年より治安が良かったのも確かだ。
なんだかんだでオレはコマ兄に感謝はしている。

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