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左官の聖地

一泊二日での社員研修旅行で伊豆の松崎町に行った。この場所は伊豆の長八美術館がある、いわゆる左官の聖地である。美術館は建築家石山修武氏によって設計され、来年40周年を迎えるのだが、内容としては江戸時代にいた入江長八という左官職人を記念する美術館だ。館内には長八だけでなく様々なコテ絵作品が展示されている。ちなみに今でも街の中には長八が作ったコテ絵を見ることができるので街歩きをしていても面白い。

入江長八という人は、いわゆる今でいう壁塗りだけをする左官屋さんではなく、まるで浮世絵師のような絵心があり西洋の壁画の如きコテ絵を描いた人である。コテ絵など今の家づくりの現場からは完全消失してしまっているが、でもそれをやりたいという若者はいるようで、ものつくり大学には学生の手による大きな壁画が展示されている。建築とアートの融合とはよく言われるが、経済至上主義の世の中ではなかなか実現しない理想だ。ちなみにハウスメーカーの家にある天井の石膏装飾の如きものは大抵は新建材でできている。昔の洋館建築では左官職人が石膏を型取り天井に固定したり、型を引きずって漆喰のモールディングを作ったりしたものであるが、今ではこんなことをするのは文化財の仕事だけなのだ。

松崎町は田舎ゆえに現代社会から消え去った理想が未だ点在していて、下の写真のようなコテ絵を街中で見ることができる。おそらく現代の左官職人さんが作ったものだが、2匹の龍が天を舞う様子が見事に倉の扉の裏に描かれている。数年前に訪れた時はこの扉の前で左官屋さんが座り込み壁画を直していた様子を見た。今回の旅でも二人の職人さんにあったが、「俺らは松崎で十分食っていけるから他の街へは行かない」と言っていた。小さな地方のコミュニティーの中で優れたクラフトマンシップが生きている、なんだか奇跡的な様子を目にすることができたような気がする。これを現代社会で実現するには・・・、左官の復権について暫し考えた。

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