『月刊群雛』2015年06月号 感想

 

この感想については、ポリシー2015年版をご参照ください。

『月刊群雛』2015年06月号

山本ゆうこ『誰の手にも自由な出版を!』〈ゲストコラム〉

……「編集者に出会わずとも本を作って公開できるサービスが作れるとしたらおもしろいことになるのではと思い」BCCKSをやろうと手をあげたという。「『プロじゃなくてもそれらしい本がつくれる楽しさ』を多くの人に届けたい、という思い」でスタートさせたサービスである点がユニーク。月刊群雛も、聖地書店プロジェクトもBCCKSで編集・印刷されているのは、こうした姿勢に共感できるからでもあるのだと思いました。11月21日にはセミナーに登壇されるそうなので、このコラムは読んでから参加したいところです。


川畑愛『ない』〈読み切り詩集〉

……虚しさの中身を覗いてみよう。詩は言葉が詰まっているね。「しびれろ くちびる」にしびれました。


見星昌嶺『荒神、再臨セリ。』〈読み切り小説〉

……冒険小説的ワクワク。「唐突にヘリのエンジン音が途切れた。」でテンションが上がります。冒険のはじまりだ! そして、そこにはあるはずのないものがある……。

 脱出ものを期待したのですが、この長さでは難しいでしょうね。


竹島八百富『運命』〈既刊小説・再録〉

……運命の出会い。それはありきたりなようで、実はとんでもないことだった、というお話。冒頭に登場する重要アイテムについては、もう少し描写がほしいと思いました。これだけの運命をつなぐアイテムですから。


晴海まどか『ギソウクラブ』〈連載小説・第3回、編集〉

……第三話の語り手は戸越歌奈。カナサナと呼ばれる双子。そして彼女たちのどちらかに好意を寄せている男がいるらしい。それは誰なのか。どっちが好きなのか。そこからアイデンティティの問題へ。

 今回はちょっと重い印象でした。双子という魅力的な設定、その二人の心の変化をある男子の告白を通して描いています。この文字数では表現したりないものが入っているのかもしれません。 

合川幸希(晴海まどかコラボ)〈連載挿絵・第3回〉


くろま『念力少年』〈読み切り小説〉

……導入の昔の話が途切れて残念。そのまま昔の話が読みたかったなあ。引き込まれますが、細かい部分でわからないところがあって、ふわっとしてしまうのが惜しい気がします。


神楽坂らせん『恋、未満。』〈読み切り小説〉

……母親とケンカして本気で家出をする彼女が出会ったもの、わかったこととは。

 夢のような、現実のような。その境界をふらりと行く不思議な作品。


有坂汀『二つの時代の罪と罰』〈既刊評論・再録〉

……ロシアと日本でドラマ化されたドストエフスキーの『罪と罰』を見ての評論です。

「なんとかしてニヒリズムからくる自己、および世界を破壊する衝動を緩和、回避できるすべはないのかと、そんなことを考え続けています。」という著者の今後にも期待。


くみ『井の頭cherry blossom』〈連載小説・第5回〉

……宇宙船の打ち上げ。そして2人は宇宙と地上に。おそらく、環境が違えば考え方も変わっていくのではないか、と思われます。食堂の話はどうつながるのでしょうか。

魅上満(くみコラボ)〈連載挿絵・第5回〉


幸田玲『伝説の古寺』〈既刊小説・再録〉

……「バス停から古寺にいたる石畳の参道を歩いた。」からあとがとてもよかった。と思ったら唐突に終わってしまった印象です。


神谷依緒『屋根までのぼって』〈新作描きおろし・表紙イラスト〉


■■■■今月の気づき■■■■

 エンターテインメント小説と純文学小説にはかなり違いがありますし、実はそれほど違いはないとも言え、境界はあいまいだと思います。

 書く姿勢などのほかに、読者として私が感じる違いとは、エンタメは「必ず原因と結果がはっきりしている」必要があると思います。ミステリーはその典型ですが、不条理な殺人はエンタメでは扱えません。不条理な殺人に見えて、ちゃんと合理的な解決がなければエンタメとして成立しにくいのです。

 今回の作品でも別に作品にとって大きな問題ではないのでしょうが、エンタメと思われるのに、結果のみ表記されて原因が不明なままで最後までいく作品がありました。

 いくら著者が「そこは本筋とは違う」と思ったところで、この原因と結果の関係がよくわからないと、読者の想像はふくらみ、いつまでたっても「どうして?」が残り、解消されないままだったときは不満に感じます。

 一方、純文学では、不条理でもなんでもありなのですが、必ずきちんと描写しなければなりません。

 たとえば「彼は怒りをおぼえた」とか「泣きたくなった」といった言葉だけで終わらせてはダメで、その「怒り」や「泣き」を前後の描写から、より鮮明に浮かび上がらせる必要があります。エンタメはこういうことをやり過ぎると「面倒くさい本だな」と思われますが、純文学作品はその部分を飛ばすわけにはいかないと私は思うのです。

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 「今日の気づき」はありませんが、私のブログ「かきぶろ」にも感想は掲載しています。ほかにも電子書籍などの記事もあります。よろしければどうぞ。