『月刊群雛』2015年08月号 感想

この感想については、ポリシー2015年版をご参照ください。

『月刊群雛』2015年08月号

ゲストコラム『個人メルマガから見えた「これからの出版に必要なこと」』西田宗千佳(ジャーナリスト)

……「いかにして自らの原稿を人々に届けるか」はいつの時代にも共通のテーマでしょう。そして、メルマガはその一つの解決策。ただ、メルマガの有料化によって、メルマガの濃さ、文字量が求められるようになります。それが読みにくくなる原因にもなっちゃう。届くはずの原稿が、届きにくくなっていくわけです。

 そこでまとめるためのKindle本というわけ。

 雑誌の原稿料で食べていきながら本を書く、という時代は終わったのでしょうか。有料の記事をつくり、さらに自分で電子書籍にするのは理想的なようだけど、誰でもができることではなさそうです。

 また、こうして作られた本は、著者のプロモーションに注ぐパワーによって売れ行きにはっきり差が出る現実も指摘されています。


波野發作『オルガニゼイション4 鋼鉄の羊』〈連載第2回〉

……連載2回目でタイトルに『オルガニゼイション4』。なぜ「4」になっているかといえば、その前に2本を単発で掲載していたかららしい。

 珍しく冒頭が重くめげそうになりました。結果的には波野ワールドとしてうまくまとまっているのですが、途中でめげた人への救済措置も必要かと思いました。


小林不詳『とある陛下の遺言状』〈読切〉

……魔王はすべてを知っているのでしょうか? そうではなく絶望させるだけの機能しかないのでは? この作品での魔王は人格者になってしまい、いろいろ不都合なことが起こりそうだなと思いました。あまり小説っぽくない作品です。


くろま『リアリストの苦悩』〈連載第1回〉

……いろいろとテーマが盛り込まれていて、それがこの長さではうまく伝わらないのではないかと心配です。タイトルはエッセー風、それでいてミステリアスな部分があって、ホラーな要素も出てくるので。彼女の存在が救いになっています。


竹島八百富『絆』〈読切〉

……信じられない話はリアルな描写があっても信じられないものだ、と感じました。できれば、信じたくなる話になっていたら、なお楽しめたかと思います。


晴海まどか(文)×合川幸希(イラスト)『ギソウクラブ』〈連載第5回〉

……最終回にたどり着きました。

 何を求めるでもなく、ただ読み進み、最後まで読めて楽しめて、なおかつ、何かしらの余韻が残り、登場人物たちの誰かのことを自分のことのように考えたりできる。それが小説のおもしろさですよね。つまりこれ。


初瀬明生『あなたとは関係のない世界』〈読切〉

……アイデアは悪くはないと思います。ですが、このアイデアでこの長さはむしろ長すぎる気がしました。新たな展開があるのかと読み進めてしまいました。ちょっと説教くさく感じてしまったのですけども。


くみ(文)×魅上満(イラスト)『井の頭cherry blossom』〈連載第6回〉

……最終回となって、ハライチじゃないけど「宇宙関係なくなっちゃった」的な印象です。何万キロも離れ、命の危険もあったにしては、とてもマイルドな終わり方でびっくり。


淡波亮作『光を纏う女』〈読切〉

……一人称を選んだところでムリが生じているような気がしてなりません。若い主人公に若さを感じられないのも残念。後半の説明をなぜ突き止めたのか、ちょっとわかりにくかったなあ。冒頭の古典的なムードとストーリーもちょっと合わないような感じもするのです。いろいろ惜しい。


あへあへっど〈表紙イラスト〉

夏祭り・金魚すくい・浴衣

■■■■今月の気づき■■■■

 作品を読んでいてメインにすべきキャラが脇になってしまい、メインには向かないキャラが延々と語っていたりすると、ホントに残念です。違うキャラをメインにするだけですごくおもしろくなるのに、と思ったりしちゃうんですよね。

 これはおそらく、書きやすいキャラをメインにしているのかもしれません。だけど、それにふさわしいストーリーならともかく、キャラは万能ではないので向いていないストーリーにまで関わると残念なことになっていきます。

 これはストーリーだけが悪いのではなく、誰をメインに描くかを間違えたためです。

 着想として浮かんだキャラが、本当にそのストーリーを語るのに適しているかどうかは、よくよく考えた方がよさそうです。展開がうまくいかない場合、ふさわしくないキャラで書いていることが多いのではないでしょうか。

 刑事ものだからといって、刑事をメインにする必要はなく、たとえば密着取材をすることになった女性記者をメインにして描くこともできます(こうすると捜査の基本などの解説を入れやすいかも、とかね)。

 江戸時代にタイムスリップしてきた21世紀の人を主人公にするとしても、その人の視点で描くのと、その人に出会った江戸時代の人の視点で描くのとでは、おもしろさもかなり違ってくるでしょう。

 このあたりは書いたあとにも「ホントにこれでいいかな」と思って見直してみると新しい発見につながると思います。

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かきぶろ」もよろしくお願いいたします。