『月刊群雛』2015年07月号 感想
この感想については、ポリシー2015年版をご参照ください。
── Wordから5分で電子出版
鎌田純子『ロマンサーで推敲、のススメ』〈ゲストコラム〉
……Wordから5分で電子出版ができる「ロマンサー」の紹介。そして、長年新しい出版に携わってきたボイジャーならではの視点もあります。特にタイトルにあるように「違うフォームで推敲するのは良い原稿への近道です。」という指摘。タテのものをヨコにしたり、ヨコのものをタテにすると景色が変わり、新たな発見もありますからね。
ただし「作品全体を扱うときはあらかじめWordを使って準備した方が結果的に短時間で電子本を制作できます。」と。原稿段階でどこまで詰めておけるかは、あとあと大きな差になります。
また編集者について「商業作家が原稿を作り上げる際の伴走者の役割」に加えて「本を広めるマーケティングの力」さらに「当然デジタルを使った方策に精通することも求められています。」とのこと。だけど現実としては「当然」じゃないんですよね。
── 第一話からずっとギソウしてました。
晴海まどか『ギソウクラブ』〈連載小説・第4回、編集〉
……会話の良さとスピード感のあるストーリーは、しっかりと敷かれたレールの上だから楽しめるのかもしれない。ネタバレになりそうなので、なにも言えません。最終回が楽しみ。
合川幸希〈連載挿絵・第4回〉
── 安らぎよりも、素晴らしい試合
和良拓馬『幸福すぎる90分間』〈読切エッセイ〉
……観戦記ですが、少しノンフィクション風に仕上げています。構成が工夫されています。ただし、主役はこれでよかったのか、という気持ちもわきました。経験した者にしかわからないことを、文章を通して私たちは素晴らしいとは思うものの、わからない部分も残ります。
── トースター? いや、ポースター。
くにさきたすく『ポースター』〈読切小説〉
……おもしろい作品。なるほどねえ。アイデアを具体的におもしろい作品にするのは大変だと思います。いろいろな遊びが仕掛けられているのも楽しい。気が効いてます。
── 私は君の中で生まれた。
王木亡一朗『ライトセーバー』〈読切小説〉
……自分というものを等身大で見ることは難しい。過大評価は世間が叩くので気づくこともあるでしょうが、過小評価は誰にもわかりません。解決できるのは自分だけだ。そんな気にさせる清々しい話。おりしも『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が間もなく封切りというこの時期、直接的には映画とは関係ない話ですが、ある意味のフォースを感じさせてくれます。
── 遭難した宇宙船。商人たちに救助は来ない。
波野發作『オルガニゼイション』〈連載小説・第1回〉
……商売と宇宙。見事に融合した未知の世界。シチュエーションコメディ的でありながら、ギャグでお茶を濁さない。かっちりしたエンタメです。多数の登場人物(人ではないか?)の覚えられない名前が笑いを誘います。声に出して読みたい作品。オチも楽しめました。とくにドラマとして大切な「葛藤」をとても早い段階で出してきたのはさすがです。
── ね? 先生。
青海玻洞瑠鯉『Professor』〈読切詩集〉
……ちょっと感傷的。思い出はたいせつなもの。「忘れない呪文」か。それを忘れちゃったのかもしれないなあ、私は。
── 疑惑を秘めた恋。イヴの夜に何かが起きる?
きうり『うさぎ』〈読切小説〉
……話の運びはとてもいいので、最後までひきつけられました。サスペンスのようにも読めますが、確証はもてません。エンディングがもう少し鮮やかならなおいいとはいえ、このモヤモヤ感が意図したものなら、それもありでしょう。
── 受け継がれていく血と魂と
澤俊之『Timber!』〈読切小説〉
……1930年代のアメリカ。五大湖地方。謎の日本人。おもしろい話が始まりそうだ。というところで終わるので、残念。昨年あたりよく流れていたピット・ブルの「Timber feat.Ke$ha」とは関係なさそう。
── 今そこにある夏
もりそば〈表紙イラスト〉
■■■■今月の気づき■■■■
小説を含めた表現する行為は、葛藤から生まれてくることが多いと思います。
また、読者が作品に身を乗り出すのは、なにかしらの葛藤の渦の中に自分も巻き込まれたような気になって、「自分ならどうするだろう」「この主人公はどうするのだろう」という点に興味を持つからでしょう。
行為(アクション)それ自体は大宇宙を舞台にした冒険活劇だろうと、男と女の間の気持ちのすれ違いだろうと、つまり派手でも地味でもいいのですが、この葛藤の強さ、それによって生まれる魅力的な状況は、読者を強く作品と結びつけるはずです。
短い作品ほど、この葛藤が早い段階でわかりやすく提示されることが望ましいのですが、なかなかうまくいかないときもあります。
著者によってはその意識が希薄で、せっかくおもしろそうな状況が見えているのに、そこには踏み込まないまま終わってしまう場合もあります。
さらに、状況をさらっと地の文で示してしまい、それだけでいいとしてしまう書き手もいます。
どちらも、もったいないな、と思います。
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