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【無料】小説『またあした1』~ユーモア・ミステリー~|第3回|

「ここんとこ、笑ってないなあ」
というあなたに!
ユーモア小説 ケンちゃんシリーズ『またあした』を週1回ぐらいのペースで10週ほど連載します 第1回はこちら

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超・一人称小説『たあした』第一巻
【なッ アッタマいいだろ】連載第3回


その二

 そんなこんなで九月に入って、それも中旬ってころ。
 いきなり事務所に、新藤さんが顔を出した。
 久しぶりだったからビックリしたけど、新藤さんは、前と変わんない様子でニヤッと笑ってさ。
「おう、ケンちゃん。メシでも食おう」
 こっちは、いつもの新出来町の味噌カツ屋だと思ってついて行った。ところが、その日は今池の焼肉屋に連れてってくれて。
 そう、香味苑な。そんで、遠慮せずに何でも食えって。
 いろいろ訊きたいこともあったけど、目の前の上カルビを夢中で食ってたら、新藤さんが切り出した。
「ケンちゃん。ちょっと仕事を、手伝ってもらいたいんだがな」
「仕事って、何ですか」
 もうオレは興味津々なわけ。
 だって、カシラと一緒にぷいっと出てっちゃって、とつぜん戻ってきたら仕事を手伝ってくれだろ。これはもうデカイ話に違いないって思うよな、フツー。出世のチャンスだってね。
 やっぱり庭の掃除とか、ブチに散歩させてるだけじゃ、出世するわけないもん。オレだってバカじゃないからさ、それぐらいは分かる。
 すると新藤さんは、胸ポケットからパーラメントを取り出して一本抜くと、パッケージにトントンと当てて。
「ちょっと、ノミ屋の仕事を手伝ってもらいたいんだ」
 ダンヒルで煙草に火を点けると、ゆっくりと吸い込んだ。
 それ見て、またビックリよ。
 新藤さんは、ムショに入ってたときに、煙草はやめたハズなんだ。だから、煙草を吸ってんの見るのは初めてだしさ。
 目の前には、いつもの定食屋の味噌カツと違って、はじめて見る香味苑の上カルビだろ。それに、余裕かましてパーラメントをふかしてる新藤さん、まるで幹部組員みたいにな。
 ノミ屋の手伝いとかいっても、実は相当でっかい仕事に違いない。誰だって、そう思うじゃん。だろ、マスター。
 競馬で、オレたちが絡むでっかい仕事っていやあさ。
 えッ、売上金をたっぷり積み込んだ現金輸送車の襲撃?
 いや、そりゃないよ。そんな荒っぽい仕事は、服部さんのポリシーには合わないし。
 やるなら、もっとスマートに八百長だろ。だから、大掛かりな八百長を仕掛けるんだろう、ってオレは踏んだのよ。 

 それから、中京競馬が開催されている日は、新藤さんと一緒に競馬場に通うことになった。ああ、オレが新藤さんのポンコツを運転してな。そう、まるっきりスピードの出ねえスピードスターをね。
 競馬場に着くと、新藤さんはオレにカネを渡して。あとは、パドックにへばりついて馬の様子を見てる。
 ノミ屋ってのは、客の注文どおりバカ正直に買ってたんじゃ、胴元のJRAとおんなじで、売上の二十五パーセントしか儲からない。
 新藤さんとこは、テンパー引きだから、そのぶん儲けが減って十五パーだろ。
 だから、どうせ来ないと踏んだ馬券を、どれだけ呑めるかが腕。それで、儲けがデカくなるらしいんだ。
 パドックで馬を見て、客からの注文と照らし合わせて考えがまとまると、どの馬券をいくら買うかケータイで連絡する。出走間際になると、オレは馬券売り場の窓口近くに居て、その指示どおりに馬券を買うわけ。
 ノミ屋の手伝いったって、ポンコツの運転とレースが終わってから賭け金の回収、あとは勝った客への支払いだろ。場内じゃ、馬券を買うぐらいだから、ヒマでしょうがない。
 自分で馬券を買ったりもするけど、うちの事務局長の佐藤さんから毎月もらうカネだって、少ないしさ。そんなには、賭けられねえ。
 それに、どの馬が強いとか、出走馬の父馬がなんとかで母馬がかんとかでって、そんな話も面倒臭いほうだから。たまに馬券を買うにしたって、ヤマカンで運試しっていう買い方しかできない。
 だから、ぜーんぜん当たらねえわけよ。

 そんなことを何週かやって。デカい仕事は、一体いつ動くんだろうと思いはじめたころ。
 あれは第十二レースだったから、その日の最終レース。
 いつものように窓口のそばで、連絡を待ってたら、馬券は買わなくていいっていう指示でさ。
 新藤さんは、とうぜん結果を確認しなきゃならないけど。オレは、やることもなくなっちゃったんで、そのへんをうろうろしてたわけ。
 中京の場内には『百円コーナー』ってのがあってさ。ホットドッグとかフランクフルト、おでんやジュースなんかを売ってるんだ。
 まあ、歩き回ってたって面白くないし。腹も空いてきたんでフランクフルトを一本、それに紙コップのホットコーヒーを買った。
 その日の大一番。メインレースをトッた奴らは、儲けたカネを懐に、もうとっくにスシか焼肉、そうじゃなきゃソープにダッシュだろう。
 ところが、それに引きかえ、百円コーナーはスッちまった奴らばっか。
 ああ、顔みりゃ分かるよ。見事に全員、冴えないツラしてるもん。どいつもこいつも、すっからかんのオケラ野郎でさ。耳に赤ペンさして、眉間に縦皺をよせてな。
 苦手なんだよ、そういう重っ苦しい雰囲気って。だから、この最終レースが終わって、早く新藤さん戻って来ねえかなと思ってたのよ。
 そしたら、いきなり。
「さあ、ゲートが開いて各馬いっせいにスタート。まず予想通り一枠二番のヤマゼンスキーが、勢いよく飛び出していく。第二コーナーまで三馬身そして四馬身のリード。さわやかに晴れ渡った秋の中京競馬場。その秋空のもと、馬群が向こう正面に入ってゆったりとしたペースですすむ」
 なんか、ラジオ放送みたいなハリのある声が聞こえてきた。
「さあ、第三コーナーに差し掛かり、先頭のヤマゼンスキーと二番手グループとの差が詰まってきた。好位置につけた三枠五番ショウワタイショウ、五枠九番マチカネショウリ、そして一番人気の四枠七番ナスノタイショウがじりじりと差を詰めてくる。そのすぐ後ろには、やはり四枠八番、二番人気のマグナムボーイ。ナスノタイショウの鞍上・黒田。マチカネショウリの早川騎手。ともに手綱を引き、抑えて抑えて、脚をため、ゆっくりとゆっくりとしたペースで、平坦な中京競馬場の第四コーナーを回ってくる。さあ上がってくるのは……」
 まわりを見ても声の主の姿は見えない。
 首ひねりながら、百円コーナーのカウンターの仕切り板を回り込んでみると、そこに蝶ネクタイをした白髪の爺さんが立ってた。
 なんだろう、と思ってさ。
 だって爺さんの前には、カウンターがあって。そこに分厚い大学ノートと紙コップに入ったコーヒーだろ。目の前には、摺りガラスみたいな仕切り板だけ。それに向かって、一人で実況をやってんだぜ。
 しかも、まだスタートしてない最終レースの。
 ちょっとアタマがいかれちゃってるのかな、ってまじまじ見ちゃった。
 でも、見た目はパリッとしてるんだ。白いジャケットに臙脂の蝶ネクタイ。カウンターにはステッキが掛けてある。百円コーナーにいるジャンパー姿のオッサン連中とは、ぜんぜん違う。
 もうオレは、その爺さんから目が離せなくなってさ。
 どうせやることないし、そばで観察することにした。

「さあ、第四コーナーを曲がる。二枠三番のトウカイジロー、鞍上・藤騎手が、やや重のウチを衝いて仕掛ける。先にやらせて、その外からショウワタイショウが追う。ナスノタイショウ黒田騎手の手は、まだ動かない。トウカイジローの藤騎手が鞭を使う。速い、速い、速い。一馬身、二馬身。さあ最内強襲なるか。マチカネショウリに鞭が入った。追う、追う、追う、追う」
 力が入ってきたのか、だんだん色白の顔が赤くなってくる。
「さあっ、あと二百を切った。いっせいに動く。マチカネショウリ早川の手が動く。一番人気ナスノタイショウは、まだ来ないッ。どうしたナスノタイショウっ。トウカイジロー逃げる、藤が逃げる、逃げる、逃げる、逃げるッ……ゴール!! 勝ったのは、なんとトウカイジロー。二着にはマチカネショウリ、そして三着には、しぶとく二の脚をつかったショウワタイショウ」
 そう喋り終わると爺さん、フーッと大きなため息をひとつ吐いて、上着のポケットから取り出したハンカチで、額の汗を拭いた。そしてカウンターの上に広げた大学ノートに万年筆で、単勝『三』、連複『二―五』、三連単『三―九―五』って書き込んだんだ。
 思わず横から覗き込み、オレは窓口に向かってダッシュ。
 ケータイの時間を見ると、爺さんの予言していた最終レースの発売締切まで、あと六分しかない。
 そう。もうオレの頭んなかは『三―九―五』の一点のみ。
 第十二レースの投票カード、マークシートの『三―九―五』を塗りつぶし、窓口前のいちばん短そうな行列に並んで、ジリジリしながら待った。
 ところが、窓口まであと一人ってなったときに。オレのすぐ前の男、白い長靴を履いたコックみたいな奴なんだけど、こいつがヘタレでさ。こまごまと、三百円とか五百円とか買っていくんだな。
 そりゃ、いいんだけど。五百円買っちゃ迷い、別の馬券を三百円買っちゃ迷いってかんじで、なかなか決めやがらねえ。
 もうイライラしてくるわけよ。締め切り時間が迫ってるしな。だから、つい怒鳴った。
「オイ、いいかげんにしろやッ」
 長靴のにいちゃんが、クルッと振り向いて。
「エラそうな口きくんじゃねえ、小僧」
「いつまで迷ってんだ、時間がねえんだよッ」
「じゃあ、何がくるかてめえに分かんのか」
 睨みやがる。
「おうッ。三―九―五に決まってんだろ、このタコ」
 すると長靴野郎、窓口に向かって。
「三―九―五」って、まるでオウムな。
 窓口のおばちゃんが「いくらにします」
 長靴野郎は、どうしようって顔をしてオレを振り向く。
「千円いっとけッ」
 そんで、もう時間がなかったんで。
「おなじく三―九―五。一万円ッ!!」
 後ろから叫んだ。

 そんなこんなで、なんとか馬券を買ってスタンドに戻った。
 とたんに、パンッていう例の乾いた音がしてゲートが開き、第十二レースがスタート。だけど、オレは双眼鏡なんて持ってないからゼッケンが読めない。帽子の色は分かるけど、なにしろ三連単だから枠だけじゃしょうがねえ。
 えッ、それにしちゃあ一点買いで一万も突っ込んだりして、自信満々? 
 だって、勝負なんて決着がつくまで、どうせ誰にも結果は分からないわけだしさ。
 そのうち、馬群が第三コーナー、第四コーナーを回って中京の正面に戻ってきた。場内は騒然としてくる。まあ、当然だよ。ゼニがかかってんだから。
 場内の実況放送の声が、いちだんと早く、でかくなる。ときどきトウカイジローって声が聞こえる。ナスノタイショウって叫んでる。でもオレには、まだ、どれがどの馬か分かんない。
 騒然としたなか、ゴールに向かって馬群が走り抜けてく。
もう、あっという間。いきなりゴールよ。
 電光掲示板を見ると単勝は『三』番、連複に『二―五』、そして三連単のところに、なんと『三―九―五』って一瞬灯った。
 でも、すぐ消えた。
 あれっ。どっちなんだって思ってると、何回かチカチカ点滅してから、それがとまって。やっぱり『三―九―五』で確定。
 その瞬間。
 中京競馬場の場内が、ウオオーーーーッってどよめいた。
 と同時に、オレは血の気がスウーッと引いてって。頭ん中が真っ白になった。
 マジかよ、と思ってさ。
「大番狂わせだな」
「こいつは、まいったね」
 オッサンの声が聞こえる。
「こりゃデカいわ」
「ひょっとしたら、三万いったかもな」
 その声が、遠く聞こえんのよ。飛行機で着陸するときみたいに、鼓膜がへんになって。歩いてても、ふわふわしてんだ。地べたに足がついてない。
 競馬でさ。トッたのは、もちろん初めてだったんだけど、なんか身震いしたね。でも、慌てて買ったんで、実際にいくら付いたのか分からない。
 するとケータイが鳴って。
「ケンちゃん、今日はこれで帰るぜ」
「新藤さん、トリましたッ!!」思わず叫んだ。
「えっ、何いってんだ。最終レースは全部呑んだよ。大正解だよ」
 まさかオレがトッたなんて、これっぽっちも思ってない。
「いや、いまの『三―九―五』オレがトリましたッ」って言ったら、一瞬間があった。
「本当か、おいッ。万券だぜ」

 その日の晩飯は、はじめてオレが奢らせてもらった。
 スシだよ、スシ。もちろん、くるくる回らないスシ屋な。へっへっへっ。
二万八千円もついたから、なんとマスター、二百八十万円ナリ。そう、まさに夢の万馬券だよ。
 スシ食いながら新藤さんに、ヘンな爺さんの話をしたらさ。
「ああ、教授か」
「あの爺さん知ってるんですか」
「あの人は中京じゃ、有名人だからな」
 なるほどな。みんな爺さんの予言で儲けてんだ、と思ったらさ。
「しかし、俺もけっこう中京に通ってるけど、教授の予想通り買って、実際に馬券をトッた奴ははじめて見たな」って笑うんだ。
「とにかくあの爺さん、徹底した穴党だからな」
 てことは、オレがラッキーだったってことだよな。でも、爺さんアッタマよさそうだったもん。やっぱ教授か、と思って。
「どこの大学の教授なんッスか」
「なんでも、名古屋大学の数学の教授で、確率論の偉い先生だって話を聞いたことがある」 
 へーえ、って感心してると。
「しかし教授ってのはたんなる渾名で、八事あたりの土地をくさるほど持ってる大地主だって話も耳にしたしな。どっちも、ほんとうかどうかは分からんが」
 ふーんと聞いてたら。
「ケンちゃん。悪いことは言わないから、もう自分のゼニで馬券は買わない方がいいな」
 そう言われても、万馬券をトッたばっかりだろ。そんときは、もう毎日でも競馬場に通いたい気分だったからね。
 だけど、新藤さんは真顔でオレを見てさ。
「いいかい、ケンちゃん。この世は、どこだって賭場なんだ。商売してたって、百姓してたって、もちろんヤクザだってな。たとえ賭場に出入りなんかしない真面目なサラリーマンだって、会社の仕事のために自分の時間を毎日使って、人生の何かを賭けてるわけだろ。だからな、会社だって賭場なんだよ」
 新藤さんは、コハダのネタを箸でつまんで、醤油に浸してる。
「人間には、自分のゼニを張る奴と胴元、この二種類しかいない。それで、自分のゼニを張ってる奴は、いつかは必ずスッちまう」
 コハダをシャリに乗っけると、美味そうに食べた。
「だから、絶対に胴元側につかなきゃダメだぜ」
 えッ? 
 意味は分かったけど、いまいちピンとこなかったな。
 なにしろ、そのときオレの頭んなかは、新しいクルマとトモちゃんとのデートのことでいっぱいだったしさ。

 そんつぎの日。
 さっそくリリーに行って、もう大威張り。
 そりゃ、そうだろ。なにしろ万馬券だもんね。その日はなぜか、鬼瓦のババアも気味が悪いぐらい愛想が良くてさ。
「あんたは、運がいいね。運がいい男は出世するから」なんて、おだてる。
 マスターも知ってると思うけど、オレは何に弱いって、可愛い娘とおだてにめちゃんこ弱い。だから上機嫌でさ、トモちゃんに訊いたのよ。
「ドライブするなら、どんなクルマがいい?」
「そうね。やっぱり、赤い外車かな」
 いろいろ話してたら、アウディがいいって。
オレは、リリーを出ると、ソッコーで赤のアウディを見に行った。
 でもさ、高いんだよアウディ。
 ショールームに見に行ったら、いいなと思うタイプは、やっぱ八百万とか。ちょっと落ちるやつでも五百万とかな。もうさ、万馬券トッたぐらいじゃ、お呼びじゃないってぐらいお高いんだよ。だけど、まさか「高かったから無理」って言えないだろ、トモちゃんに。
 しょうがないから、大須の狸小路の裏にあるドラゴン・モータースまで行った。うちのカシラ、服部さんのドラゴン・インターナショナルのケーレツ店な。
 カシラんとこは、クルマ金融もやってるのよ。いやクルマのローンじゃなくって、クルマを担保に高利で金貸す商売。
 カネを返せなくなったら、担保のクルマをロシアとか中東に売り払うっていう。まあ、貸す方にしたら、どっちに転んでも儲かるようなビジネス。
 借りる方からしたら、金利はとられるし、下手したらクルマも取られるっていう往復ビンタみたいな、鬼のような高利貸しだよ。
 でも、服部さんの前じゃ、高利貸しとか街金ってのは絶対タブーな。
「ノンバンクって言え」って、いつも言ってるから。
 だいたい、自分のことだって、カシラって呼ばれんのが好きじゃない。
「苗字で呼べ」だもんな、調子狂っちゃうだろ。
 で、狸小路の裏に入ってったら。
 ドラゴン・モータースの店先には、中古車が並んでて。その奥の事務所を覗くと、ちょうど水野さんがいた。そこで赤のアウディってことで探してもらったんだけど、値段が合うのがなかなかない。
「やっぱ、ないかあ」って、がっくりしてたらさ。
「うーん、まったくなくもないけど」
 水野さんが、にやっと笑うんだ。
 どういうことかって言うとさ。
 もし、オーダーするんなら、二週間もあれば入手可能って話なんだな。
「ドラゴン・モータースが、総力をあげて調達するけどね」って。
 うん。そうなんだよ、正解ッ。
「そのかわりエンジンの製造番号とかは、削っとくでね。ヘタな事故車をつかまされるより、こっちの方がぜんぜん安心だわ」
 ってことで、赤ってことと型式だけ決めてハナシをまとめた。まあ身内だから、破格値の百万ぽっきりでね。
 事務所のテーブルの上に、オレが手付けとして半金の五十万を置くとさ。
「ケンちゃん、羽振りがいいじゃん。いい女でもできたな」
 目尻に皺を寄せて、水野さんは笑った。
 納車は、そのわずか三日後。
 やっぱ、ディーラー通しじゃ、こうはいかない。さすがはドラゴン・モータースだよ。クルマを取りにいって、残金を清算して、意気揚々と引き上げてきたんだ。
 で、今池のネエさんとこへ行って、クルマ買ったって話すと、新藤さんがオッて顔をした。
「そうか。じゃあ、ちょっと頼みがあるんだが」
 今度こそデカい話かなって期待したら。
「知り合いに脚の悪い婆さんがいてな。その婆さんを、ときどき大須まで送り迎えしてもらえないかな」
「でも、事務所の用事もあるし」
 慌てて断ろうとしたら。
「いや、週に一度だけだから。それに、事務所の仕事については、服部さんから事務局長の佐藤さんに、連絡しといてもらう」
 そこまで言われちゃったら、もうしょうがないだろ。
 さっそく、つぎの日。
 その婆さんに、引き合わされることになった。
                        (つづく)

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ケンちゃんシリーズ『またあした』1~8巻
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2巻はこちら



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