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歩き遍路の記録_12【宿〜鍋岩ルート】

4日目① すだち庵〜

2022年5月6日
前日あまりにも早く(午後9時頃)に床に入ったから、空が白んできた頃に目が覚めた。4時ぐらいだったろうか。
布団の中でダラダラした後、身支度を整え朝ごはんを食べる。
トーストと目玉焼きソーセージとかだったように記憶しているが確かではない。

午前7時頃
同室の女性や宿のご主人に挨拶をして出立する。
今日は徳島駅までの約35kmを歩く予定だったので、なるべく早く出立したいと思っていた。
道中の水分補給用の水だが、このあたりには店も自販機もないので、宿の冷蔵庫に入ってるスポーツドリンクを買った。初めて見るプライベートブランドの品だった。

ところでこれは宿の近くにいた猫ちゃん。

しばらく歩いてから宿に菅笠を忘れていることを思い出す。「うわ最悪」と呟いてすぐに引き返した。歩いていると同室だった女性とすれ違って「忘れ物したー」と笑いあった。先に行きますって言って出たのに結局私のほうが遅くなって恥ずかしい。

宿に着いて女性のスタッフに事情を説明して部屋に入ると、自分の編笠と自分のではない白衣がハンガーに掛かっていた。同室の女性も忘れ物をしたらしい。
さっきすれ違ったばかりだからすぐに追いつくだろう。二人分の忘れ物を持って改めて宿を出た。

しばらくして追いつき白衣を渡して「お互い疲れてますね〜」と再び笑いあった。

とある政治家の実家

昨日、日帰り温泉へ送ってもらう車中で宿のご主人から遍路道の道案内を受けた。
なんでもよく間違われるルートがあって、時々とある政治家の実家に行ってしまう人がいるらしい。そこは道の突き当たりなので引き返さないと駄目だから気をつけてね。目印が有るから見落とさないでねと言われていた。

焼山寺から大日寺へ行くルートは2つ有る。
平坦な車道を行くが山を迂回して遠回りになる『神山ルート』と、山を突っ切る『玉ケ垰(たまがたお)ルート』。
※峠じゃないよ垰だよ。垰:山の尾根の低くくぼんだ所。

私は時間も惜しいし古い道を歩きたいので玉ケ垰ルートにした。
このルートは未舗装路から始まり、舗装されているがあまり手入れされていない道を通る。未舗装路にはうらぶれたお社や廃屋があって不気味な雰囲気だ。この辺りはあまり道案外が見当たらないので不安になる。
1番札所の頃はやたらめったら道案内が出てたのに、同じ場所に3つもシールがあるとかザラだったのに、数メートルおきにシール貼ってたのに!
地図を持っていないことを後悔していた。
しっかり道案内を確認しながら進んでいた。進んでいたつもりだった。

シャガが一面に咲いて綺麗だなあ…。

あれ…某政治家と同じ名前のお墓が有るぞ…
まさか…

行き止まりだった。
間違えた!ここ噂の政治家の実家や!もう無人になってるっぽいけど!
引き返さな!
さっきの忘れ物といい、急いでるのにまた時間のロスをしてしまった!
大した時間ではないけどなんか精神的に来る。
多分疲れて判断力が落ちまくっている。

なんかもう嫌になってきた。ため息をついて引き返す。笑けてくる。
分岐点を探しながら歩いていると前方から同室の女性が歩いてきた。
この人もまた、道を間違っている。
「道間違ってますよ〜。某政治家の家行っちゃいました〜」と伝え、お互いに注意力下がってますね。と三度笑いあった。
二人で引き返している途中、同じ宿だった男性も間違った方向に向かってたのでかなり見落としがちな道らしい。

しばらくして道のカーブに差し掛かって分岐点を発見した。

この奥の沢沿いを行くのである。
ここ道案内ちゃんと出てて、しかもちゃんと目にしてたんだよな。
でもこのまま舗装路だろうと思いこんでしまっていた。
よく間違われる場所らしく、めちゃくちゃ道案内が何個も有るんだけど、まさかこんな沢沿いだと思わなかった。
あぶねーあぶねー。

改めて道を進む。結構急な山道でもう登山はないと思い込んでた身にはキツい角度だ。

玉が垰に到着

玉が垰(とおげじゃない)

8時頃
玉が垰では昨日の親子連れが休憩していた。
道間違っちゃいましたよ〜。と先程の出来事を話すとこの親子は間違うことなくまっすぐここまで来たらしい。

ッチ…

皆が玉が垰で休憩する中、先を急ぐ私は早々に歩き始めた。ここからはもうすべて舗装路なので飛ばして歩く。
その後、この方々とは会うことはなかった。今どうしているだろう。
結願されたかな。

遍路小屋36号を過ぎる。

遍路小屋36号

舗装路だが鬱蒼とした道だった。手入れがあまりされていないし、さっきから全然車も人も通らない。これはあってるのか?と不安になる。道案内もあまり見当たらない。遍路道ではないこところを通ってるのかもしれない。
Google Mapで方向は確認しているから迷うことはないのだが心細い。
遍路道のシールを見つけたが倒木と草で埋まってる道もあった。

やっと人里に出た。
地域の方が作ったかかしの人形が可愛い。

かかしのクオリティーめちゃ高い

駒坂峠を越えて、潜水橋を渡る。
人一人分の幅しかない橋。
渡った先は鶏舎で獣臭がすごい。

しばらくすると後ろからクラクションの音がした。
振り返ってみるとすだち庵のご主人の車だった。
「もうここまで来たの早いね〜」「気をつけてね〜」と言いながら車で追い越していった。

今日はかなり飛ばして歩いていた。
40km歩く予定だったし、出来れば徳島駅なり徳島市内に入ってから徳島ラーメンも食べたい。
少しでも早くと早足で歩いていたので、そう言ってもらえて嬉しかった。

朝から全く見かけなかったお遍路も少しずつ見かけるようになってきた。
逆打ちの人と挨拶したり、道に腰掛けて地元の人と話し込んでいるお遍路さんを横目に見たり。羨ましいなと思った。
今から思うともうちょっとゆっくり歩けばよかったかなとも思うけどその時はそうしたかったんだからしょうがないな。

鮎喰川沿いの車道を行く。
歩道がない。道は曲がりくねっていて見通しが悪い。信号がないからか車の速度も早い。

めっっちゃくちゃ歩くのが怖い。
遍路道って山道とかより、こういう歩道のなくて交通量もそこそこある車道が一番しんどい。自分の注意云々だけじゃ危険を回避出来ない。自分の身を他人の善意の運転に預けるしかないことが一番怖い。
見通しの悪い場所を通るたびヤケクソで「南無大師遍照金剛」と唱えて歩いた。
※ヤケクソで唱えるものではない。

不意打ちのお接待

曲がりくねった道を過ぎてホッとしたのもつかの間、一台の車が目の前でハザードを点けながら停車した。信号はないし、売店や建物などの停車する理由が見当たらない場所である。
不審に思って警戒しながらいると車から初老の男性が降りてきて「どこから来られたんですか?」と聞いてきた。
「大阪からです」と正直に答えると「ご苦労さまです。これでコーヒーでも飲んで」と言って紙に包まれた何かを渡してきた。
すぐに(これお金だ!)とピンときた。「すいません。ありがとうございます」とお礼を言って恐縮していたら「僕には出来ないことだから、お遍路さんはありがたいんだよ」と言って「じゃあね」とそのまますぐに行ってしまわれた。
車が見えなくなってから中身を確認したけど大きいサイズの硬貨が1枚入っていた。

〝有る〟とは聞いていたけど本当に有るんだな。
見ず知らずの、そこらを歩いてるだけの赤の他人に金銭を恵むという風習と言うか文化。普通の優しさとは一線を画す、別の次元の奉仕行為。
この辺りの人にとっては【普通】なんだろうか。
実際に体感すると、思っていた以上に衝撃的だった。

流石に使うのは忍びなくて、未だに紙包みのまま遍路用のポーチの中に入れている。結願の際にお賽銭として入れようと思っている。

長くなったので今日はここまで。
ほなまた。

玉が垰までは山道歩いているのでこのルートの通りではありません。
そっから先はだいたいこんな感じです。

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