2 ニブラ

 ある時気づくと、そこは見知らぬ山岳地帯の不毛の大地だった。太陽の軌道をたよりになんとか方角を大まかに把握した。西にそびえる最高峰のおかげで、日没は早めにやってくる。現在地という概念を成立させるために、僕は最初に一本の杭を打ちつけた。荒野に打ち込まれた杭は、空間把握のための基準に最適だ。数学の始まりがゼロの発見であるように。杭はまさにゼロと同じことだ。単位は、基準なしには実用性を持ち得ない。人間社会に根付く先入観とバカの壁。レッテルは致し方ない人類社会の性だ。ストレスや違和感。精神的な消耗は、意外にも、レッテルをはられたり、ストレスを感じる側の先入観が一役かってしまっているのではないかと思う。これらはやむを得ない双方の盲点だ。

 広い荒野に杭を打て。思い込みの種になり得ても、打たないことには自分はいつまでも自称自分のままだろう。憲法は自由の原則を堅持する。自由を得たはずの民衆は、その恩恵に授かるだけの条件を満たせないケースが多い。原因は恐らく、一本の杭を打たないからだ。

 個人いったいどこにいるのだろうか。自称自分は、いつまで同じスタイルを確立できずにさまよいながら進むのだろうか。


フィールドに出よう。
持ち物は頑丈な鉄杭一本と、重めのハンマーで事足りる。

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