説得と納得を会得する:松井ゼミ15期生卒業論文集の「まえがき」として

 卒業論文を書き終えた今、どんな気持ちですか? 達成感に満ちた人もいれば、満足する内容でなくほろ苦い気持ちになっている人もいるでしょう。指導において、くどいくらい強調しましたが、論文は読み手を説得して納得させてこそ存在意義があるものです。つまり、説得と納得がない文章は書いても意味がないのです。
 しかし説得と納得は、論文に限ったことではありません。友達を食事に誘うとき、家族に自分の意見を受け入れてもらうとき、仕事で取引先や上司や部下の心をつかむとき、どんな場面においても、人は説得をして相手を納得させる必要があります。
 卒業論文の主要な目的は、大学での学びの集大成として、専攻分野についての自分なりの見解をまとめることです。これに加えて、論理を構築して、証拠となる事実を提示し、それを文章でまとめていく作業を試行錯誤することで、どのように説得すれば相手が納得をしてくれるのか、その勘所をつかむトレーニングの機会でもあります。
 2年間(もしくは4年間)のゼミでは、皆、いつも積極的に学びのプロセスに参加してくれました。特に『ジャパニーズハロウィンの謎:若者はなぜ渋谷だけで馬鹿騒ぎするのか?』(星海社)出版プロジェクトでは、ゼミ以外の多くの時間を割いてくれました。それぞれの強みと個性を活かしたチームワークを発揮して、この大規模プロジェクトを成功裡に終えました。とても素晴らしいことです。
 卒業論文のような個人プロジェクトでも、『ジャパニーズハロウィンの謎』のようなチーム・プロジェクトでも、良いプロジェクトとは完成したプロジェクトです。質を追求するがゆえに納期までに完成せず日の目を見ないプロジェクトは、世の中にはたくさんあります。もちろん質については妥協してはいけませんが、それ以上にダメなのは、質を追求したつもりで完成させず、成果を世に出さないことです。成果を世に問うても、質が十分でないため厳しい批判を受けるかもしれません。しかしそれでも、相手からフィードバックをもらった、という意味では成果を得たと言えます。なぜならば次に活かすことができるからです。
 皆さんは、ゼミで2つの大きなプロジェクトを終えました。終えた、ということは、つまりは良いプロジェクトを2つも実現した、ということです。さらに言えば、説得と納得を会得する大きな経験を2つしたとも言えます。ですので、たとえ成果に満足していない人も、実は成果をあげたんだ、と考えてみてください。
 これから皆さんは、ライフステージの要所要所で公私を問わず莫大の数のプロジェクトに取り組むことになります。松茸会で再会した際には、その時に直面しているプロジェクトの悲喜こもごもについて、お互い共有しましょう。再会を楽しみにしています。

2020年1月3日
研究室にて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?