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2023/10/21「円都LIVE」感想

2023/10/21にKURKKU FIELDSで行われたライブに行ってきた。あまりにも感動が大きかったので、記憶が薄れる前に残しておこうと思う。ライブからもう2日ほど経つが、いまだに少しでも気を抜くと感動が強烈に蘇ってくる。

まずは、私がどのような態度でこのライブに臨んだのか記載しておこうと思う。

■YEN TOWN BAND

以前に「キリエのうた」の感想でも書いたが、「スワロウテイル」は私の人生を音楽に傾かせた映画だ。「MONTAGE」が出た当初は聴いていなかったが、高校生か大学生ぐらいになって、自分が追うべきは小林 武史だと確信してからはこのアルバムを聴き倒した。

ただ、アルバムが発売されたのは1996年だったので、当然企画モノのバンドはもう活動しておらず、ただの私を構成する1枚を出したバンドとして認識していた。

だから2015年の復活は本当に嬉しかった。
・小林 武史のMr.childrenプロデュース終了
・「スワロウテイル」20周年
・新潟での「大地の芸術祭」開催
など、色々なタイミングが重なった奇跡に心底感謝した。

その時は既に小林 武史が出るライブには行くという姿勢になっていたので、下記のYEN TOWN BANDのライブに参戦した。
・2015/9/12 大地の芸術祭@まつだい「農舞台」 ピロティ
・2015/10/28 JFL presents LIVE FOR THE NEXT@Zepp Namba 
・2016/7/31 Reborn-Art Festival 2016 × ap bank fes 2016@石巻港 雲雀野埠頭

2021年にKURKKU FIELDSで行われた映画25周年のライブでは、2ndアルバム「diverse journey」の曲や劇伴のインスト曲を演奏したりしていたので、今回その辺りにも期待していた。

■Lily Chou-Chou

先にSalyuにハマっていたので、Lily Chou-Chouの「呼吸」は遡って聴いた気がする。

岩井 俊二が伝えたであろうイメージから、ここまでダークでサイケデリックで、いかにも狂信的な信者を生みそうな音楽を作り出せる小林 武史は本当に凄い。

「呼吸」も「MONTAGE」同様、飽きるほど聴いたし、いまだに聴いている。私を構成する1枚だ。

Lily Chou-Chouに関してはライブの存在が微妙で、Salyuのライブの中に織り込まれていて、完全にLily Chou-Chou名義の公演というのはほとんど無かったのではないか。数年に一度、何かあった時にやる程度なので、私は一度も行けていなかった。Lily Chou-Chou名義でのライブは初体験だ。

映画が終わって以降、Lily Chou-ChouのボーカルはSalyuとしてデビューする事になるのだが、デビューから15年間ぐらいは、小林 武史が最も力を入れて自身の感性を託したシンガーだったのではないかと考えている。

Salyuのライブはおそらく人生で一番多く行っていると思う。バンド形態やピアノ1本の伴奏によるminima、小林 武史と名越 由貴夫との3人体制など、行けるものは全て行った。

そんな私でも、2010年に中野サンプラザで行われた「Lily Chou-Chou 2010.12.15 Live "エーテル"」に行けなかった事は本当に後悔している。セットリストや小林 武史のコーラスなど、今となっては体験出来ないライブをYouTubeの限定配信で観た時は悔しかったし悲しかった。

そんな想いが少しでも救済される事に期待して、このライブに臨んだ。

■Kyrie

アイナ・ジ・エンドについては完全に素人だ。BiSHは知らなかったし、そういう尖ったアイドルグループがいるらしいな程度の認識だった。当然ソロ活動も知らなかった訳だが、一度だけ生歌を聴いた事があった。2021年にぴあアリーナMMで行われたジェニーハイのライブだ。

ジェニーハイについてもそんなに知らずに行ったので、コラボの事も知らなかった。コラボ曲で出てきて、えらくハスキーな歌声だけど、やたら上手い子だなと思った記憶がある。それでもようやく名前を覚えた程度だった。

ところがである。ここにきてハマった。「キリエのうた」を鑑賞してからというもの、映画関連の楽曲はもちろんアイナ・ジ・エンドの歌声を聴き漁った。BiSHでは「プロミスザスター」という曲が非常に気に入った。

もともとハスキー過ぎる歌声には苦手意識があったのだが、慣れるとハマるものだ。色んなインタビュー記事や音声も確認した所、もともとダンサーでBiSHの振り付けを担当しているという事も知った。岩井 俊二がやたらと「手の表現が凄い」と褒めていたし、映画でのバレーのシーンもとても良かった。

私はダンスを見る目は全くないのだが、そんな自分でも体の表現で感動できるものだろうか?と不安と期待を抱えていた。

■岩井 俊二

主要な岩井作品はだいたい観ていると思う。
中でも特に思い出深い、自分にとって特別な作品は「リリイ・シュシュのすべて」だ。

「リリイ・シュシュのすべて」は好きな映画ではあるが、初鑑賞後は1週間ぐらい人間不信になるぐらい落ち込んだ。それから1~2回は観たが、観るたびに自分の精神状態やスケジュールを気にして鑑賞に挑まなければならないような映画だ。

「キリエのうた」公開記念で、岩井 俊二の過去作がいくつかYouTubeで無料公開されていたので、勇気を出して久しぶりに観てみた。

なんとなく見始めたのに、気付いたら1時間ぐらい見入っていた。というのが良い映画の条件の1つだと考えているが、「リリイ・シュシュのすべて」も間違いなくそうだった。

高橋 一生おるやんという発見もあり、改めて鑑賞してみて良かったと思った。

「好きな映画監督は?」と問われれば「岩井 俊二とか」と答えるが、リアルタイムで映画館で観た作品はほとんどなかった。しかし、彼の映画は何度も観てしまうし、あの何とも言えない映像の質感が、小林 武史の音楽制作哲学ともマッチしているようで好きなのだ。

さて、この奇跡のスリーマンは一体どういった順番で登場するか予想してみる事にした。

1.Lily Chou-Chou
2.YEN TOWN BAND
3.Kyrie

1.YEN TOWN BAND
2.Lily Chou-Chou
3.Kyrie

このどちらかだろうと予想した。今回は「キリエのうた」公開記念という名目が大きいので、プロモーションのためにもKyrieはトリで来るだろう。また、色んな歌手が出る時の小林 武史は、安牌のSalyuを一番手に置きたがる傾向がある。となると1つめの順番が濃厚か?などと考えていたら、高速バスはKURKKU FIELDS入口に到着した。

■KURKKU FIELDS

アイナ・ジ・エンドのオタクがいっぱいいた。私にも現場経験があるので分かるが、アイドルオタクというのはどうして一目で分かってしまうのか。特にそれと分かるTシャツやグッズを身に付けていなくても感付いてしまう自分に少し悲しくなった。

KURKKU FIELDSで行われるライブに来る人種といえば、(ミスチルを除いて)そこまで一般的に大人気という程でもない歌手のファンなので、大人しく少し特殊な趣味の大人が集まるというイメージだった。

至る所でアイドルオタク同士の「あ!●●さんだ!この前はどうも~」みたいな挨拶が交わされていて、ライブ本番の客席に一抹の不安を覚えたりもした。

場所が山奥なせいか人が多すぎるからか、電波状況は最悪だった。LINEの通知は来るのにLINEを開いてもメッセージが表示されない。とか、画像付きツイートが出来ないといった不具合が発生していた。

今思えば、入場ゲートで電子チケットが表示出来たのは奇跡だったのかもしれない。

新潟での「大地の芸術祭」でもそうだったが、ステージが野外なので、リハの音で盛大なネタバレが行われていた。聴くともなくリハの音を聴いていると、ふと耳に「スワロウテイル」の劇伴である「Tatto」が聴こえて来た。あの映画の劇伴の中でも特に好きな曲で、映画25周年のライブで生演奏された時は震えた(実際には生ではなく配信だったが)。今日も演るのか?・・・と興奮していたのだが、演らなかった。私の聴き間違いか、ただのサウンドチェック音源だったのだろう。

もう一つのネタバレとしては「キリエ・憐れみの讃歌」だ。この曲を演るのは当然なのだが、アウトロの転調の後さらに転調する特別アレンジが聴こえてしまったのだ。野外イベントなのでこういうのはいたしかたない。

当日は色んな飲食ブースが出店していて、興味の沸くものがたくさんあったのだが、どこも並び倒しているし、落ち着けるテーブルも埋まっていたのでビールだけ飲みながら封鎖されていないエリアをウロウロしていた。

私の電子チケットの入場整理番号はTから始まるものだった。先行では取れず一般で何とか取ったため、かなり番号が後ろになってしまったのだろう。にしてもTって・・・後ろ過ぎるだろう。

などというのは私の勘違いだった。てっきりAから始まってのTだと思っていたのだが、入場を整理しているスタッフのアナウンスによると、他にはEとNだけがあるらしかった。「円都(えんと)=ENT」という事のようだ。

■ライブ本編

自分が入場出来たタイミングでもまだ割と前に行ける感じだった。特に小林 武史が良く見える上手側は人が少ない。だいたいみんなボーカル目当てで真ん中に集まってくれるので、こういう時は非常に助かる。

KURKKU FIELDSでのライブといえば、白いテントが張ってあるだけの簡素な舞台をイメージしていたが、今回はガッツリステージが組まれていた。

舞台中央には幾何学的な形の白い網で出来たドームのようなステージがあり、バンドは上手下手で互いに見えないという異質な構成だった。それと、ステージの規模には不釣り合いな大型ビジョンも設置されていた。

小林 武史の機材を観察した。今回のメインはNative Instrumentsのキーボードのようだ。ap bank fes'23 ではYAMAHAのMONTAGEだったようだが、今回は使用する音色の都合でNative Instrumentsにしたんだろうか。いずれにしてもCP80が登場しないのは本当に寂しい。私は小林 武史とCP80の組み合わせが大好きなのだ。

さらにYEN TOWN BANDをやるというのにギターが置かれていない。「Mama's alright」「してよしてよ」は演らない、とか演るけどギターは弾かないという事か?こんな事は初めてだ。

OPムービーが始まった。
オリジナルの音楽を背景に、色んな性別・言語の人達が象徴的な単語を発音した音声をサンプリングしてコラージュした音楽だった。実はこの時点で私の感動ポイントがあった。

そのBGM自体も既成曲のコラージュのような作りだったのだが、楽曲の冒頭と締めくくりがHARUHI「ひずみ」のAメロをピアノで弾いたものだったのだ。

小林 武史が劇伴と主題歌の制作を担当した「世界から猫が消えたなら」の主題歌だ。映画も主題歌も売り上げは大した事が無かったので、知らない人がほとんどだと思う。

最初に映画のティザーでこの曲を聴いた時はモロ小林 武史やんけと軽く笑ってしまった記憶がある。しかし私はこの曲が好きだ。そして、大した評価も受けておらず岩井 俊二に全く関係がないはずのこの曲を、ここで使うぐらい小林 武史自身もあのメロディーを気に入っているのだろうという事が物凄く嬉しかった。

OPムービー前後に「アイナー!」という呼びかけがいくつか起こっていた。これはちょっと悲しかった。たしかに舞台に立つのはアイナ・ジ・エンドなのだが、今回はKyrie名義での出演なのだ。このライブは、もしKyrieが現実世界でライブをやっていたなら・・・?もしくは、もし私たちが映画の世界に入り込んでしまったとしたら・・・?という体を楽しむ疑似体験コンテンツでもあるのだ。

主催者の意図を汲み取ってそこは「キリエー!」と叫ぶべきだろう。没入して叫んで欲しかった。新潟の「大地の芸術祭」では、特に主催者が諭さずともCharaが現れた瞬間「グリコー!」という声援が飛び交っていたのを私は勝手に喜んでいた。皆ちゃんとそういう体で来ているんだ、と。認識が共通している事が嬉しかったのだ。

日も沈み始めた頃にOPムービーは終わり、歓声が上がった。歌姫達は下手から登場するようで、ドーム状の舞台に立つまで私には見えなかった。というか暗すぎて舞台に立ってもなお照明が当たらなければ見えなかった。

最初に現れたのはまさかのKyrieだった。私の予想は完全にハズレ。
上は白ベースの服で下は膝が大きく空いたダメージジーンズといういで立ちだった。てっきりキリエブルーのワンピースか青を基調とした衣装で出ると思っていたので、かなり意外だった。

会場でもキリエブルーを基調とした服で来ているアイナオタクをたくさん見かけた。そこを映画とシンクロさせないのは演出として微妙だな~と考えていた。

アコギのイントロから「キリエ~序曲」が始まった。実を言うとこの瞬間に私はちょっと泣いていた。なかなか過酷だったライブ会場までの道のりがようやく終わりを告げたからなのか、久々のライブだったからなのか分からなかったが、今にして思うと、肉眼で見える距離にアイナ・ジ・エンドがいる事に感動していたのだと思う。

既に夕暮れで気温は低く、前日Mステに出ていたというのに、全く疲れを感じさせない圧倒的な歌声と、繊細なのに大胆なダンスに見惚れ続けた。

セットリストをはっきりと覚えていないので、印象だけの話になるのだが、「キリエ~序曲」以降はバラードが続いていた。予習で「DEBUT」は何周かしていたのだが少し甘かったかもしれない。

たしか「前髪上げたくない」で舞台からはけたと思う。かなり意表を突かれた。「キリエ・憐れみの賛歌」を演らないのはあり得ないので、また後で出てくるのだろう。3人の歌姫が出たり入ったりするのか?普通のスリーマンではない不思議な構成だ。

ここまでKyrieのショーを見て、キリエブルー問題の答えが出た気がした。
これはメジャーデビューして普通にアルバムツアーをしているKyrieを切り取って見せられているのではないか?という考えが浮かんだからだ。

真緒里の死を乗り越えて、音楽業界の大人達の詭弁も飲み込んで、それでも自分のために、姉(希)のために舞台に立っているその瞬間を見せようという試みなのではないだろうか。

だとしたら、映画とのシンクロが甘かったのは私の方だ。何がキリエブルー問題だ?Kyrieが青い服を着ていないと納得出来ない理由は、「劇中で青い服を着ていたから」だけだ。この手のイベントの宣伝文句で劇中から飛び出して来たなんて表現をよく目にするが、本当に飛び出して来ていたのだ。

劇場で上映された178分だけを全てだと思っていた自分の浅はかさが恥ずかしくなった。

完全に音が止んで次の歌姫が登場する頃には辺りはかなり暗くなっていた。
ドーム状のステージに上がってきたのは真っ黒なカラスのようなシルエットだった。過去の映像で黒髪ロングのウィッグに真っ黒なドレス姿というのは知っていた。伝説の歌手Lily Chou-Chouだ。

Lily Chou-ChouだけはWeb上にセットリストが記録されていた。

1.飽和
2.エロティック
3.飛べない翼
4.アラベスク
5.回復する傷
6.エーテル
7.グライド

「飽和」で始まるのはとても珍しい。Salyuのライブでも中盤か終盤に演奏される事が多いからだ。私はこの曲がとても好きだ。音源でのちょっと特殊なエフェクト処理や、唇が触れ合う瞬間という極めて短い距離について歌っているにも関わらず「南回帰線」という壮大な単語が出てくるギャップにたまらなく惹きつけられてしまう。

ビジョンには押井 守の劇場版攻殻機動隊に出てくるようなアンドロイドが歌っている映像と共に歌詞が表示されていた。これも最近結成されたという「Butterfly Studio」なるアーティスト集団?の作品なんだろうか。

これは本当に本当に私の正直な気持ちなのだが、Lily Chou-Chouの演奏を聴いていてSalyuは終わったと思ってしまった。本当に悲しかった。

別にSalyuの悪口を書きたい訳ではない。当たり前だ。Salyuのライブには何十回と行っているし、心底惚れ込んだボーカリストだ。だからこそ正直に言わずにはいられない。

音の話なので言葉では何とも説明しがたいのだが、いつからか声を張った時にヒュルンと裏返るようなひっくり返るような声になってしまった。ポリープなのか声帯の変化なのか加齢なのかは分からない。一時期のYUKIも同じような声になっていたのを覚えている。

ライブでたまに出る程度なら「今日は喉の調子が悪いのかな?」と思うかもしれない。実際私はそう思っていたが、「Android & Human Being」ではレコーディング音源でも普通にその声が入っている。もう録り直すとかそういうレベルではないのだろう。

「Android & Human Being」のツアーでも客席にいてちょっと辛かったのを覚えている。

今回のライブでも、また声がひっくり返るんじゃないかと、聴いているこっちがヒヤヒヤしてしまう感覚が正直耐えられなかった。

多分高音で声を張るとアレが出るのだと思うが、Salyuは昔の曲のキーを下げるどころか上げて演奏してしまうので、怖くて怖くて聴いていられなかった。小林 武史の演奏でLily Chou-Chouの歌を聴けるなんて、貴重極まりない機会なのに、早く終わってくれないかとすら思ってしまっていた。

いや、楽器隊の演奏や演出は素晴らしかった。特に「飛べない翼」のイントロで強烈な逆光になる照明演出は本当にカッコ良くて痺れた。やっている事自体は単純なのかもしれないが、演奏と相まって音と照明と演者の姿が一体となって強烈な感動を与えた。

しかし、「アラベスク」のイントロは、ピアノにアコーディオンをレイヤーで重ねた音色を使用していたが、あれはちょっと外したんじゃないかと思う。たしかレコーディングではProphet-5を使用したとどこかで読んだ。毎回同じようなアナログシンセではなく、新たな可能性に挑戦したかったのだと思うが、正直あまり馴染んでいなかったし、気を遣いながら演奏しているように感じられて良くなかった。

「グライド」でシメてくれたのは良かったが、やたらキーが高くて、「グライド」特有の陰鬱とした感じが台無しになってしまっていた。

本当にこんな事は書きたくないのだが、Salyuは歌手として終わってしまったのだと思えて悲しくなった。小林 武史もSalyuへの関心が低下してしまったのだろうという事が、このライブの構成に表れているように思えてならない。

続いて登場したのは当然グリコだ。
YEN TOWN BANDのライブが始まる。伝説のライブが始まるんだと興奮した。

一曲目はもちろん「Sunday Park」だ。
興奮を抑えきれない観客達にまあまあ落ち着けよと言わんばかりの暗い演奏が始まる。これがこの後の「Mama's alright」へのフリだと分かっているのがまたたまらない。・・・そういえばギターは?

と思っていたら「Mama's alright」が始まる直前にローディがいつものジャガーを小林 武史のもとに持ってきた。ああ、やっぱりギター弾くのね。

「Mama's alright」が始まる瞬間は最高だ。
どんな空気だって空間だって、一瞬で下世話なライブハウスに一変させてしまうのだ。小林 武史は相変わらずギターがクソ下手だったが、それが確認出来た事もまた嬉しかった。

演奏面で驚いたのは「She Don't Care」だ。
今まではアナログシンセで物凄く攻撃的な音色を出していたのだが、今回はクラビネットをメインとしたバッキングだった。今までに聴いた事のないパターンで、「グライド」と違ってこれは良い挑戦だったと思う。

「She Don't Care」のアウトロからパターンが変わって、演奏が続く中で再びKyrieが登場した。グリコのイメージを引き継いでか、娼婦感漂う振る舞いだった。

ドーム状のステージセットを使ったダンスに、階段の手すりでポールダンスじみた動きを見せて、魅せてくれた。

この時、これぐらいの長さの黒髪でハスキーボイスというのが、「スワロウテイル」の時のCharaと異様に重なるなと思った。容姿と歌声のみならず、アナーキーというかややエキセントリックなイメージもCharaに重なる所があった。

「スワロウテイル」で異例の大成功を収め、「リリイ・シュシュのすべて」で新境地を開拓した岩井 俊二と小林 武史は、それぞれに次の歌姫を求めていたのだろう。

岩井 俊二はともかく、小林 武史に関しては、この数年の楽曲提供やコラボ歴から、歌姫探しの形跡が見受けられる。言いたくはないが、全てを託せる次のSalyuを探していたのかもしれない。

「キリエのうた」の音楽制作には消極的だったという印象だが、このライブでの扱いや演奏での力の入れようを見るに、アイナ・ジ・エンドの実力に惚れ込んでいるのは間違いなさそうだ。

実際、Kyrieのターンが再び戻って来て思った。歌のピッチやダンスの表現力、声の力強さのどれをとっても今日の歌姫で一番優秀かもしれない、と。安心して感動に集中出来ると思った。

2度の登場で、「DEBUT」で唯一明るい「宙彩(ソライロ)になって」が演奏された。音源で聴いた時は取ってつけたような明るさだなと思っていたが、Kyrieの煽りで手を左右に振る動きが客席と一体となって、救いのようなものを感じた。

また、後半で「ずるいよな」「燃え尽きる月」「キリエ・憐れみの賛歌」等、より深刻度の高いバラードが演奏された。音源で聴いていた時から気に入っていた「ずるいよな」はやっぱり良かった。たしかビジョンに歌詞が表示されていたのだが、映像など観ている場合ではない。情熱的に歌うKyrieとシリアスなピアノを弾くを小林 武史にただただ釘付けになった。

「キリエ・憐れみの賛歌」でも私は泣いていたと思う。
最後の「ために」で転調した後のシャウトが本当にグッと来る。いまだに音源を聴いても泣きそうになるぐらいだ。

「キリエ・憐れみの賛歌」でKyrieがはけた後、グリコが再登場。
「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」でライブは幕を閉じた。全員に前後編がある訳では無かったようだ。Kyrieにだけ前後編があって、シメはやはり「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」という歪な構成だ。

それと、今回のYEN TOWN BANDでは「MONTAGE」の曲しか演奏されなかったのが意外だった。「diverse journey」のアルバム曲も聴けるかと期待していたのだが「EL」や「アイノネ」すら演らなかった。まあ「EL」もアルバム曲なのだが、作りが「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」のアンサーのようだし、Mステでも演奏していたので特別枠として演る可能性は十分にあると思っていた。

これも冷静になってから気付いたのだが、岩井作品の歌姫が集うという趣旨のライブなので、劇中の世界観を考慮して演らなかったのだろうか。それにしても「MONTAGE」は全曲演ってくれたので満足度は高い。

こうしてライブは無事に終わったのだが、自分の感動を記録しておきたいという欲が強すぎてかなり長文になってしまった。ライブには一人で行ったため、帰り道で誰かと感想を語り合うという事もかなわず、高速バスでたまたま隣になった人に話しかけようかと思ったぐらいだ。

このライブを思い出すために「DEBUT」の音源を聴きたいような、ライブ体験を上書きされないために聴きたくないような、いかんともしがたい想いを抱えながら結局毎日聴いている。

このライブはU-NEXTで配信されるそうなので、必ず視聴しようと思う。


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