見出し画像

安いニッポン・西へ東へ


パンデミックが『落ち着いている(実際にはウイルスは変異し次の波を待っているようなもの)』とみんなが思い込んでいる2022年秋、西と東で『お得な切符』が発売されたので、独り身で時間だけはそこそこある俺は遠出してみることにした。

1:マック指数

まずは今回は西に向かった。
九州地方と山口県の高速バスと路線バス(一部例外あり)に使える『SUNQパス』の秋のキャンペーンに乗っかり、期間限定の北部九州用2日券で熊本や長崎を巡った。

2日目の夕方、夕食用として佐世保市内で『佐世保バーガー』を買った。

地元で上位の評価が出ている『バーガーボーイ』でベーコンバーガーセットを買った。
価格は1,250円(2022年10月時点)。

マクドナルドのハンバーガーのセットと比べると倍近い価格である。
これを単に高いと言っていいのか。
マクドナルドの場合は、出店している世界各国でもほぼ共通のメニューや食材を使っており、調理・販売のシステムもほぼ共通である。
それゆえに、世界各国の経済的な実力を測るために『ビッグマック指数』が使われるほどである。
マクドナルドが比較的安価でハンバーガーなどを販売できるのは、大量生産・販売、徹底したマニュアル化による生産費の抑制ゆえであり、『佐世保バーガー』のような地域の小規模事業者のやり方とはやり方が違うと言うべきだろう。

ちなみに、『ビックマック指数』から国の購買力・為替水準を比べると、日本は米国より約30%ほど『安い』とされている。
参考:『安いニッポン』(P38-40)

だが、安価なマクドナルドの食品に慣れてしまったことで、佐世保バーガーが時には高いと日常の食生活から縁遠くなってしまうのは良いことだとは思えなくなってきた。

本来ならば、経済成長に連動した賃金上昇・経済の低迷期の経済のテコ入れとしての賃金上昇あるいは安定確保が図られるべきだろう。
だが、平成バブル後の『就職氷河期』や『小泉構造改革』の時期は、人件費を抑える(つまり賃金を上げない/下げる、雇っている従業員を減らす、解雇もどんどんできるようにする)ことで企業の利益を出すことが優先されてきた。
つまり、目先の利益を上げることしかやってこなかったということである。
それを煽ってきた大手マスメディア(朝日新聞やテレビ朝日など『リベラル系』も然り)が、今や冷ややかに見られているのは、残念ながら必然だろう。

2:満室だらけのホテル、『密』の東北新幹線

1872年10月の日本の鉄道開業からこの2022年で150年を迎えたが、この記念行事の一環として10月中旬〜下旬の期間限定でJR東日本が『JR東日本パス』を発売した。


これで秋の旅行にお出かけになった方もそれなりにいらっしゃるだろうが、これ以前に日本政府が旅行業界の救済策(もっと言えば、業界やパッケージ旅行に行ける時間や資力がある中間層以上の利益=国税・地方税の山分け・分捕り)『全国旅行支援』が始まり、これを利用して行楽に出かけた方が相当多かったようである。
その影響を受けたのは、東日本だと特に東北地方だったようである。
エクスペディアを使ってホテルを確保しようとしたが、手頃な(1泊10,000円以内のビジネスホテル)が地域によってはほぼ満室で、かろうじて空室があったのは青森駅周辺の1泊11,000円のホテルだった。
ここで確保できたのはセミダブルの部屋で、オプション料金(一食1,500円ほど)だった朝食バイキングは青森県の特産のりんごやねぶた漬けも選べるものでとても美味しかったのでよしとしたい。

2022年夏の豪雨で東北地方のJR線が分断され、10月中旬の時点で今回見物した五能線(東能代駅〜深浦町〜川部駅)のうち一番風光明媚な区間が分断されていた。
この五能線の人気観光列車『リゾートしらかみ』が青森から朝の1往復しか出ていなかったため、青森駅近くのホテルを確保したのである。

『リゾートしらかみ』自体は比較的空いていたが、これが秋田まで全区間運行していたら満席だったろう。
今回は途中の鯵ヶ沢(あじがさわ)駅まで列車で、その先の能代まで代行バスがリレー形式で運行されていた。

『全国旅行支援』の影響もあって宿が確保しづらくなった中、ホテルの宿泊料が比較的高くなっていたことへの批判がネット言論空間で巻き起こっていたと聞いているが、ふと考えてみると、(ぼったくりとか暴利は論外として)例えば東横イングループの過去の価格設定が異常だったのではないかと思わないのだろうか。

東横イングループは以前プサン旅行に行った時にエクスペディアで確保したことがあるが、朝食付きでも比較的安かった。
一時期かなり宿泊料を下げていたと聞いており、また、従業員にとってはキツイ職場だという噂も聞いている。

1泊10,000円でも痛くも痒くもないくらいの所得・賃金水準に持っていくのが政治の仕事だったんじゃないか。
それが利益や権益の分捕り合戦という少なくとも中近世(室町時代〜安土桃山時代)以来続いてきた『この国の(まつりごとの)かたち』をアップデートしないまま21世紀に入り、もう4分の1が過ぎようとしている。
22世紀になっても、人々の暮らしよりも利益分捕りをこの国の政治が繰り返すだろうことは容易に想像がつくが、それを改めさせるのは国民の仕事のはずだ。

ちなみに2020年秋の『GOTOキャンペーン』については、2020年暮れにダイヤモンド社が電子版の記事で批判しているので会員の方だけでもご一読をおすすめする。

3:『安いニッポン』

今秋前半読み終えた『安いニッポン』について簡単に触れることにする。


本書は2019年12月の日本経済新聞の連載をもとに、連載への反響を受けてパンデミックの中新書化された。

ある家電量販店幹部は
「彼ら(電化製品を買いまくっていた訪日外国人)は日本が素晴らしいから何度も来ているんじゃない。
お買い得だから来ているんだ。」
と取材班の前でこぼしていた。

そして、デフレ・縮小均衡・日本の『買い負け』により日本が世界の中で置いてけぼりになり、今や『ジリ貧』になっている。
今後は、
・人材の流出の加速(例えば、勉強好きでも日本では就職にありつけない博士課程卒業者や技術職の人達の諸外国との待遇差からの、海外への『頭脳流出』)
・日本人には手が出ないリゾート施設やリゾート地の食事の顕在化(東南アジア諸国のリゾート地のような状態)
は起こりうるだろう。

平成バブル崩壊〜就職氷河期〜小泉構造改革期に(もっと言えば、その前の国鉄労使紛争や、中曽根行革とその一環の国鉄分割民営化)労働組合が『男性正社員クラブ』化してしまい、
・『非正規労働者』
・外国人労働者
・中小零細企業の従業員
などを取り込めない(あるいは排除してきた)まま、『クラブ』『サロン』『大企業ムラ社会』の『空気』に安住してしまったこと、そして、『クラブ』『サロン』の安定した集票組織の上に乗っかってきた左派・『リベラル』党派も結局は非正規労働者など『ムラ社会』の外の人達を十分に取り込めないまま今に至っている。

日本人の、日本の組織にありがちな
・みんなで一緒・横並びであることが一番大事
・上の決めたことには不承不承でも「決まったことは仕方がない」と従う
・社会の問題などで声を上げる人や(例えば採用面接など)お金のことを言う人を面倒臭い人間として煙たがる・敬遠する
という現象を、保守派や日本の主流派のみならず、対抗馬となるはずの左派・『リベラル』派でさえ克服できていない。
特に政治の世界は、右を見ても左を見ても党派間闘争が目立ち、声なき声・小さな声を拾い上げるよりも政敵間の攻防が政治だと思っている人が目立っているようにみえる。
たとえ小さな声が拾われても、敵を攻撃するための道具に堕しているようにしかみえない。

こういうことの積み重ねが2022年の今だということを、各界の『声の大きい』人達は多分分かっていない。
左右問わず。
それが、声なき声の人達・ノンポリの人が政治に失望してきた原因のひとつではなかろうか。

また、2000年代の小泉構造改革の先導役だった日経新聞が『安くなっちゃったね、ニッポン』なんていうのも、正直言えば『お前が言うな』というところだし、『安いニッポン』に小泉構造改革の主導者を出しているところで『まぁ所詮日経だわ』という感もある。
それでも、『安くなったニッポン』の現実を知ることは大事なことである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?