見出し画像

神様の国

関連投稿

0:序

タクシー運転手の自分は元々乗り物好きだが、休日や隔日勤務明けの日は自動車は気分転換のために自動車を全く運転せず、バスや列車で出かけることが多い。
しかしながら、特に各地のタクシーやバスは経営危機に直面しているという話題を目にしたり耳にすると、自分たちの将来について危機感を覚えるようになった。
以前ネット掲示板かXかで目にしたが、鉄道会社の通勤定期券利用者の推移から鉄道会社は将来の利用客の推移を見極めようとしている、という話題があった。
2023年に新型コロナウイルスパンデミック対策が『日本版ウィズコロナ』に移行し、事態の推移がある程度見えてきたところで、特にバス・タクシーの乗客が2019年に比べて20〜30%ほど減少しているという話題も流れてきている。

今回はバスを中心に話を進めていきたい。

1:バスの乗客減少・減便・運賃値上げ

当地・福岡市とその周辺の福岡地方では、西鉄グループの路線バスが2024年1月から運賃値上げや定期券の発売額値上げを行っている。
参考リンク(FBSニュース)

リンク切れになっているが、2023年秋のニュースでは、西鉄バスの乗客がパンデミック前に比べて30%減少したという記事もあった。

あくまでも日々路上を観察しているだけの印象でしかないが、パンデミック前に比べると
・マイカー利用者は2割増
・タクシー利用者は2割減(夜間は半減〜7割減)
・自転車やスクーターなどシェアサービスの拡大
・営業エリアの住民の高齢化(→遠出よりも買い物や通院といった短距離・近所までの利用がメインになる)
という傾向がみえる。

西鉄グループに限らず日本全国のバス運転手が減少傾向にあり、バス事業者が設定していた運行ダイヤでの運行が難しくなっているという。
休日出勤や超過勤務でしのいでいるとも聞くが、2030年代には都市部以外のバスのあり方は2020年代まで見慣れたそれとは大きく変わっていることも想定しておく必要がありそうだ。

2:民間主導で発展した地方交通

日本の交通機関は、黎明期には各地の資産家から地域への還元や新規投資の対象として見られてきた。
明治期の薩長土肥藩閥の中央政府や地方政府は財政難(金欠病)に悩まされてきたと聞く。
事実上の『小さな政府』で公営事業まで運営できる余力はなかったのだろう、地方の名望家・資産家が公共交通機関を運営する事例が多く、その名残が2020年代にある。
もっとも分かりやすいのは、
・国会議員の林芳正氏やその父の芳郎氏の一族が経営してきた山口県のサンデン交通
・岩崎家が経営してきた鹿児島交通グループ
・岡山県の資産家である宇野家が運営してきた宇野バス
だろう。
参考リンク(のりものニュース)

時代は進み、地方経済の低迷や大都市への人口流出、マイカー社会化…などで地方の交通機関の利用者は減少し、地方交通事業者が採用してきた『ミニ阪急モデル』も
・イオンモールなどの郊外型大型店の隆盛
・都市のドーナツ化現象
・現役世代の利用減少
のダメージが効き始めている。

岡山電気軌道の低床車と宇野バス。岡山市内にて。(2024/01)
天満屋との連絡橋より見た天満屋バスステーション(2024/01)
同上
天満屋バスステーション北側より(2024/01)
天満屋岡山店(2024/01)


地方交通事業者からはより待遇の良い事業者へ労働者が流出しているという話もある。
(福井鉄道→ハピラインふくい、熊本市交通局→他社局など)

3:『お客様は神様』なのか

ここまで述べた、マイカー社会化や人口減・流出や地方経済の衰退以外にも、サービス業としての公共交通機関が冷遇されている(特に現場の労働者)という大きな問題点が、バス業界などで生じている現象に強く影響しているのではないか、と思い始めている。

『お客様は神様』という言葉がある。
しかし、近年『お客様は神様じゃない』という意見がネット(特にX)を沸かせることがある。
乗客やサービス業の利用者(以下、客)が往々にして従業員を召使いや使い走りの手下扱いすることが問題になっていて、客が現場で直接、または事業者の問い合わせ窓口にクレームをつける事例が従業員に大きな負担を強いる問題がある。
参考リンク:


このような客からの嫌がらせに対して、今なお『お客様は神様だから神様のおっしゃる通りなしなければならない』
『なんとか穏便に済ませよう』
『従業員が悪い・従業員に非があるから客がクレームを付けるんだ』
という管理者・経営者の発想が強く、従業員の味方になるのはXユーザーの一部だけ、という状態である。
労働組合もあるところはまだマシだが、労働組合すら『御用組合』化し事なかれ主義に陥っていたり、そもそもないところもある。

参考リンク1

参考リンク2


さらには、バスやタクシー、トラックなどの運転手にとって厄介なのは他の道路利用者や道路交通法だったりする。
法令の規定や運用、基本的な思想が半世紀前の『神風タクシー』『交通戦争』時代のままで、個人のモラルハザード(俗語の意味で)に対応できていないのではないかと思う。
旧態依然の交通取締・規制、事なかれ主義、モラルハザード…現場労働者は事業者にとって
・代えはいくらでもある
・嫌なら辞めればいい
という『一山いくら』の人の価値が安かった時代から変わらないものなのだろうか。

4:神様の望み

2020年代のこの公共交通機関の危機に伏線があるとすれば、それは
・1970年代の国鉄労使紛争時代の労働組合の失敗
・1990年代の政権交代・細川内閣の時代の『官』バッシング
だと思っている。
後者の名残りは、故・青木雄二氏の生前の自著における公務員観や、橋下徹氏の公営バス叩きに見られるが、特徴的なリンクを紹介しておく。

2007年6月の神戸新聞の記事を紹介したブログ

2005年5月にアップされたブログ(2004年の毎日新聞の記事の紹介)


自分の記憶の中からたどるしかないが、国鉄労使紛争問題があって1970年代〜中央省庁の接待問題や細川内閣誕生があった1990年代〜小泉ブームが吹き荒れた2000年代初頭まではこれらのような公務員厚遇批判が世論を席巻し、その後は地方政治においては橋下徹氏・大阪維新の会が大阪市営バス(現在の大阪シティバス)の厚遇・勤務状況の問題を取り上げて公務員バッシングを繰り広げ、公務員以外の人たちの様々な不満を自らの勢力拡大、公営事業の縮小・解体・民営化につながっていった。
結果だけ見れば、これは本当に良かったのか、労働者を苦しめ、運転手など運輸職を苦境に追い込むことになっただけではないか、そして、その結果が今現れていると思うべきではないか、と思わざるを得ない。
だが、当時は右も左もこぞって公務員バッシングに走り、労働条件の切り下げが良き事とされてきた。このムーヴメントに異議を申し立てたのは、おそらく共産党くらいだったのではないか。
特に小泉構造改革の時代はバブル崩壊から就職氷河期を迎え、多くの人たちが個々人の生活の安定よりも企業・役所が切り詰め・コストカットが正しいと考え、ワイドショーも激安競争を煽り、ニュースでさえもそれを煽ってきた記憶がある。

結局のところ、『お客様は神様』意識にあぐらをかき、思い上がってきた一人ひとりの国民が望んだ結果がバス運転手の減少・バスの減便という形で表れている、と言えるのではないか。

(随時写真など追加していきます)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?