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インプラント治療の闇~歯周病の治療法ではありません!

インプラント治療をしようと思っている方へご忠告いたします!
インプラントは歯周病の治療法ではありません!
この記事をよく読まれてご判断ください!

1.インプラント治療とは
インプラントは体内に埋め込む医療機器や材料の総称で、一般的には歯科治療として使用される口腔インプラントのことをいいます。
インプラント治療はなんらかの理由で欠損した歯の代わりとして、顎骨(あごの骨)にチタンやジルコニア製のインプラントを埋め込み、それに人工の歯を取付けるものです。
長期にわたる機能性と見た目の美しさから、ブリッジや入れ歯と比べ、生活の質の向上が図れるとともに、残っている歯に負担をかけずに人工の歯を固定できるという特長があります。
しかしながら、インプラントを埋込むための外科手術が必要となるため、患者の口腔内のみならず、他の疾患、服薬などを含めた全身状態の把握が重要となります。
また、治療内容によっては静脈内鎮静法や全身麻酔などが行われることもあることから、設備やスタッフの充実、術後のフォローアップなど、相応の診療体制を整える必要があり、通常は保険適用外となるため高額な治療費がかかります。
【インプラント治療条件】
① 顎骨
インプラント治療では顎骨に直接、インプラントを埋め込むため、十分な量の健康的な骨が必要であり、骨粗鬆症や骨密度が低くなっている高齢者は注意が必要です。
② 持病がないこと
心疾患、糖尿病、腎臓病、肝臓病、高血圧、貧血等の持病がある場合は主治医との相談が必要です。
③ 歯周病がないこと
歯周病に罹患している場合はインプラント治療を始めるまでに歯周病の症状を安定化させておく必要があります。
④ 治療後のフォロー
インプラント治療後は定期的にインプラントの状況を観察し、適切なメンテナンスが必要となります。
【インプラント治療歯科診療所】
全国の歯科診療所68,609施設のうち24,014施設(35%)でインプラント治療が行われています。
※ 厚生労働省『平成29年(2017)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況』より
【インプラント治療費】
50万円未満:30%、50万円~100万円未満:24%、100万円~:46%と、100万円前後の治療費が必要となります。
※ 独立行政法人国民生活センター 2019年3月14日プレスリリース資料『あなたの歯科インプラントは大丈夫ですか-なくならない歯科インプラントにかかわる相談-』より

2.インプラント治療指針
日本におけるインプラント治療は1983年から始まり、優れた治療法として取組む歯科医師が急増したものの、治療に必要とされる全身的な診断能力や口腔外科治療に関する知識や技術、関連する治療技術などを十分に修得せずに行われている場合がみられたことから、公益社団法人日本口腔インプラント学会が2012年6月に『口腔インプラント治療指針 2012』、2016年3月に『口腔インプラント治療指針2016』、2020年6月に『口腔インプラント治療指針2020』を、特定非営利活動法人日本歯周病学会が『歯周病患者におけるインプラント治療の指針 2008』、『歯周治療の指針2015』、『歯周病患者における口腔インプラント治療指針およびエビデンス2018』を発刊するなど、歯科医師がインプラント治療に先立つ歯周治療の重要性やメンテナンスも含め、インプラント治療を行うためのガイドラインを策定し、注意喚起を図ってきました。
一方、厚生労働省は2013年3月に日本歯科医学会編集の『歯科インプラント治療指針(歯科医療従事者向け)』、2014年3月に『歯科インプラント治療のためのQ&A(歯科医療従事者向け)』、『インプラント国民向け情報提供(一般向け)』を発行し、医療面接からメンテナンスまで適切で確実なステップを踏んで行うこととし、治療には手術を伴うことから、全身や局所状態の把握が重要であり、服薬、既往症、血液検査等にもとづくリスク判断や、安全で的確な診断と治療のためCT撮影による三次元的な診断が必要であること、インフォームドコンセントについて、患者の状態、必要な検査、治療法、予後、リスク、費用、治療期間等が記載された治療同意説明書を必ず作成のうえ患者にもわかりやすく詳細に説明し同意を得る必要があること、そのさいは家族等の立合いが望ましいこと、インプラントの維持には歯周病の治療が欠かせないことなどを記載しています。
※ 独立行政法人国民生活センター 2019年3月14日プレスリリース資料『あなたの歯科インプラントは大丈夫ですか-なくならない歯科インプラントにかかわる相談-』より

3.国民生活センターへのインプラント治療相談状況
国民生活センターへはインプラント治療についての相談が毎年60~80 件程度、届いており、年齢別では50歳代が21.5%、60歳代が31.1%、70歳代が17.4%と高齢者が中心で、症状別では『痛み』、『ぐらつき』、『脱落』、『撤去』、『腫れ』、『化膿』、『炎症』、『麻痺』、『痺れ』、『噛み合わ』が多くなっています。
症状が発生した時期は70%が術中、直後であり、症状が継続した期間は1年から3年がもっとも多く、長期間にわたって症状が継続していることがわかります。
具体的な相談事例は以下のような内容です。
(1) 治療前の検査や確認が不足しており、治療指針に沿わないと思われる事例
【インプラント治療のリスクが上がる骨粗しょう症の薬を服用していたが治療された】
数年前、歯科医師の勧めで健康な歯を抜き、すべての歯をインプラントにした。昨年、定期検診を受けたときに、レントゲン画像をみた歯科医師から「何か薬を飲んでいるか」と聞かれた。骨粗しょう症の薬を飲んでいると伝えると「自分の手に負えなくなった。大学病院に行ってくれ」と言われた。歯科医師には手術前にお薬手帳を提出していたが、薬について聞かれたことはなかった。大学病院では「顎の骨が腐食し始めている」と診断された。
(2) 歯科医師の技術に問題があると思われる事例
【インプラント体の埋めこみが浅く外してやり直した】
インプラント治療後に頭痛がして、顎が腫れ痛んだ。歯科医師から勧められた耳鼻科を受診したが、耳や鼻には問題がなかった。他の医療機関でインプラント体の埋め方が浅いことが分かり、外してやり直した。
(3) 手術で生じた不具合への対処に問題があると思われる事例
【手術直後から痛みや痺れが生じたが経過観察とされた】
去年、下顎にインプラントの土台を作る手術を受けた際に下顎や、唇、歯茎に強い痛みが生じ、それ以降、下顎等の痺れや頭痛が続いている。歯科医師から痛みが引いてから手術を進めると説明され、1 カ月に 1 回ほど通院して経過を見たが、症状に変化はなく先が見えない状況である。
(4) 日頃の口腔清掃や定期検診が重要な理由が説明されていない事例
【定期検診が重要な理由を説明されずデメリットを認識していなかった】
自宅近くの歯科医院へ行き、「丈夫な骨だから、大丈夫」と診断されたので、インプラントにした。デメリットについての説明は何もなかった。3 本のうち 2 本が抜け、抜けた箇所の顎の骨が半分溶けているとわかった。定期検診に行かなかったが、医者からは「定期検査に通うのは常識だ。体質によっては骨が溶けることがある。」と言われた。事前にきちんと説明を受けていればこのようなことにならなかった。
(5) 治療をどのように継続すれば良いのかわからないという事例
【紹介状を書くので好きな医療機関へ行けと言われたがどうすれば良いのかわからない】
骨が薄いため骨を調整しながら6本インプラント治療をすると説明された。手術1週間後あたりから膿うみが出始めた。眼球を抑えても膿が出る。2回目手術後も膿は止まらず、治ると言われ2カ月が過ぎたところで大学病院でもいいから好きなところに行け、紹介状を書くと言われた。どうすれば良いのかわからない。
※ 独立行政法人国民生活センター 2019年3月14日プレスリリース資料『あなたの歯科インプラントは大丈夫ですか-なくならない歯科インプラントにかかわる相談-』より

4.インプラント周囲炎とは
インプラント周囲炎とは歯周病菌によりインプラントの周辺組織が炎症を起こしている状態をいい、インプラントでの歯周病のことです。
インプラントでは虫歯になることはありませんが、天然歯に比べて抵抗力が弱いため、ひとたび細菌感染による炎症を起こすと急速に顎骨の吸収が進行し、気付いたときには重症化していることが多くなります。
日本歯周病学会が行った国内での実態調査ではインプラント治療後、3年以上経過した人267名のうち33.3%がインプラント周囲粘膜炎(骨吸収まで至らない炎症)、9.7%がインプラント周囲炎(骨吸収に至る炎症)を発症しており、約半数の方がインプラント周囲炎に罹患しています。
また、海外の調査ではインプラント周囲粘膜炎の罹患率は43%、インプラント周囲炎は22%との調査結果もあり、時間の経過とともにインプラント周囲粘膜炎からインプラント周囲炎に症状が急速に悪化していくこともわかってきました。
※ 特定非営利活動法人 日本歯周病学会編『歯周病患者における口腔インプラント治療指針およびエビデンス2018』より

5.インプラント治療の闇
インプラント治療は長期にわたる機能性と見た目の美しさから、ブリッジや入れ歯と比べ、生活の質の向上が図れるとともに、残っている歯に負担をかけずに人工の歯を固定できるという特長があり、100万円前後の治療費がかかってでもインプラントにしたいという方も多いのではないでしょうか。
ただ、歯が物理的に折損したり、虫歯により抜歯したような場合には効果的な治療法となりますが、歯周病により歯を失った場合はインプラント治療を行っても数年でインプラント周囲炎に罹患し、インプラントを取り外すのはもちろんのこと、顎骨まで失うことになりかねません。
高額の治療費を支払うわけですので、本来、このようなリスクは事前にしっかりと説明し、コストパフォーマンスが合わない場合があることを患者に理解させなければならないのですが、実際には十分な説明を行わず、歯周病で歯を失った方にインプラント治療を推奨し、高額の治療費を支払わせたうえ、治療後のフォローも不十分なまま放置する歯科医が少なからず存在するため、国民生活センターに苦情が入ることで、たびたび学会から治療指針が出され、注意喚起されてきました。
このようなインプラント治療の闇を放置しておくわけにはいかず、一人でも多くの方にインプラント治療は歯周病の治療法ではないことをお知りいただき、ほんとうにインプラント治療が正しい選択なのか、あらためてお考えいただきたいと切に願います。

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