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ページをめくって考えたこと

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書評、というほどきっちりした体裁は取っていませんが、本を読んで、一応かみ砕いて考えたことを文章にしています。
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【雑記】或る作家の死

急にどうかしちゃったタイトルで申し訳ない。 ほんとうにたまたま知ったことだが、今日11月23日は、昨年亡くなった作家の小林泰三(こばやし やすみ)氏の1周忌にあたる。 氏はホラーでデビューし、その後ミステリー、SFなど多彩なジャンルで活躍した。大阪大の大学院の工学系修了、メーカーで開発者として勤務するなど、理系の深い知識に裏打ちされた「リアリティのある突拍子のなさ」が魅力だった。 筆者は中学のころからホラー小説大好き人間で、特に中学・高校の頃は今よりずっとたくさんのホラ

【書評】銭湯文学を読む:「不動明王の憂鬱」(北森鴻)

銭湯の出てくる映画や小説など、気の向いたときにぼちぼち紹介していきます。 ■□━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・・・‥‥‥ 2010年に夭折したミステリ作家、北森鴻氏。代表作の一つが、京都・嵐山の古刹、大悲閣千光寺(だいひかくせんこうじ)に勤める寺男の有馬次郎が探偵役として活躍する連作短編集「裏(マイナー)京都ミステリー」だ。 なお千光寺は嵐山に実在する由緒正しい寺で、松尾芭蕉によって「花の山 二町のぼれば 大非閣」という句にも歌われている。筆者も昨年聖地巡礼とし

【書評】ダン・シモンズ「カーリーの歌」(1985):ホラーの枠を超えて社会の原理を問いかける佳作

■ はじめにダン・シモンズの「カーリーの歌」(原題:Song of Kali)。1985年に発表され、世界的に権威ある「世界幻想文学大賞」を勝ち取った作品だ。 あえてこの本について書く理由は以下の通り。 ①単なる娯楽小説の垣根を超えたテーマに挑んでいるという点、 ②そして作者が挑むテーマはまさに今考えられるべき話題である点 シモンズは「ハイペリオン」シリーズなどで知られる、米国を代表するSF作家だ。いわゆる重厚長大型の本格作品を書く人だと思って敬遠していたのだが、作家の風

現役コンサルがおススメするビジネススキル本5選

現役コンサルタントの端くれが、読んで仕事に役立ったビジネススキル本を紹介します。 ■ 世はビジネススキルブームロジカルシンキング、仮説思考、PDCA…この数年のビジネス本ブームは収まる気配がないように見えます。一説には2009年の「もしドラ」が火付け役になって平易な記述のビジネス本が広まったとも言われますが、キャリアアップのための転職が一般化したことや、AIやロボットの興隆で仕事がなくなるかもしれないという危機感が増したことでスキルアップのニーズが伸びているためでしょう。本

【ホラー書評】澤村伊智「ぼぎわんが、来る」

読書の秋。 自分の中のホラーブーム(3年ぶり4度目)の起爆剤となった、とあるホラー小説を紹介します。 (そしてまた変な投稿シリーズを増やして自分の首を絞めていく…) =============== 澤村伊智「ぼぎわんが、来る」(2015年、KADOKAWA/2018年、角川ホラー文庫) 【あらすじ】幸せな新婚生活を営んでいた田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。取り次いだ後輩の伝言に戦慄する。 それは生誕を目前にした娘・知紗の名前であった。原因不明の怪我を負った後輩

【雑記】読書メーターを止めようと思った3つの理由

はじめに突然に、読書メーターを止めてみようと思った。 昔は公私問わず読んだ本をWordとかメモ帳で管理していたのだけど、1年ほど前から、読書メーターに移行して、読んだ本について備忘録がてら感想を公開するようになった。 それを当面止めてみようと思った。 理由は大きく3つあって、①ページ数で格付けする意味がないから、②255文字という制限が短すぎるから、③本当に自分が周囲に薦めたい本ほど埋もれるから。 他にも、ページ遷移が遅いとか、UIがショボいとか、どうしても仲間内で星

【書評】世界の果てを目指す物語(森見登美彦・「ペンギン・ハイウェイ」)

※森見登美彦「ペンギン・ハイウェイ」(角川書店・2010年)の書評です。 ==================== これは、世界の果てを目指す物語だ。 日本SF大賞の本作だが、読んだ人は、果たしてSFなのかと首を傾げることだろう。そもそもSFに疎い私でも、異色の作品であることは理解できる。 主人公アオヤマ君の住む郊外の街に突如現れたペンギン。何も食べなくても平気、車にはねられても無傷、街を離れると消えてしまうなど、どうやら普通の動物ではないらしい。 そして時を同じく

【書評】京都に行きたくなる短編3選

※2/4 画像を追加。 昨年の後半は仕事で毎週のように京都に行っていたため、読む本もおのずと京都を舞台にしたものが多かった。そんな中から、読むだけで京都に行きたくなる短編を紹介します。 =============== ①有栖川有栖「除夜を歩く」良い素材に良い調理だけで、小説はじつに面白い。 遡ること30年前以上前、1988年の大晦日の京都を舞台にした短編。 ハッキリ言ってしまえば、本作は実にゆるい。 京都市の今出川にある架空の大学「英都大学」(作者の出身校の同志社

【書評】読み返したくなる3冊の本

■ はじめに昨年、転職してから仕事に関係しない本をあまり読まなく(読めなく)なったけれど、仕事やキャリアに関係しなさそうな、いわば「遊び」の本が逆に印象に残ることが多くなりました。 近ごろ外出自粛で家にいる時間が圧倒的に増え、図書館も閉まってしまったので、家にある本を読み返したのですが、その中で特に読み返したくなる味わいのある本たちを紹介します。 ■□━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・・・‥‥‥ ① 堀江敏幸「雪沼とその周辺」新潮社、2003架空の町「雪沼」に住む