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独身男性が東京の銭湯を勝手に評価する(その13)

新年度1発目の銭湯紹介シリーズ、今回は東京北区の渋い銭湯を取り上げます。

※新型コロナウイルス感染症の影響で、営業日や営業時間を一時的に変更している銭湯が多くなっています。
本稿では最新の情報の発信を心掛けておりますが、実際の営業についての確認は各銭湯にお願いします。

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■ 滝野川稲荷湯(北区)・・・尋常でないあつ湯の古き良き銭湯【70点】

都営三田線西巣鴨駅から徒歩10分弱、江戸時代に整備された「五街道」の1つ中山道と、その裏道である旧中山道との間の路地に立つ銭湯が稲荷湯だ。
映画「テルマエ・ロマエ」のロケ地としても知られる宮造りの建物は昨年3月、都内の銭湯としては2件目となる国の有形文化財に指定された。
(1件目は台東区の燕湯)。

(参考)燕湯の紹介記事

大正時代から営業しているという老舗の建物は入口に「わ」板*が掲げられ、
正月には松飾り、春には桜と季節を感じさせる装いで彩られる。

玄関。右側に「わ」板

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*小さい板に平仮名で「わ」と書かれた板。湯が「わ・いた」=湧いた、すなわち営業中を示す洒落。閉店中は裏返して、湯を抜いたことを示す「ぬ」板になる。

室内入ってすぐ、中央に番台が置かれ、高く開放感ある天井やレトロな体重計は雰囲気抜群。小さい池に面した縁側に椅子が置かれ、入浴後に軽く休憩することもできる。

浴室は30程度のカランがあり、最近では珍しい木の桶が使われている。浴槽は奥に3つ並んでおり、右から順にぬる湯→あつ湯→超あつ湯という風に温度が分かれている。

ぬる湯は30℃台後半と、かなり温度が低い。入浴剤を入れているためか白濁しており、長めにゆったり入ることができる。打って変わって白湯のあつ湯は42~43℃と、しっかり熱めだ。

そして稲荷湯の名物といえば、左端の超あつ湯である。温度はなんと46℃(水温計の記述が正しければ。常連曰く、もっと熱いのではとのこと)。これほどの温度の浴槽は前述の燕湯、蒲田の蒲田温泉など、ごく一部でしかお目にかかれない。

常連でもほとんど入っている人は見当たらず、我慢して入っても1分が限度。それ以上は体の重要な機能が失われそうな気配がする

筆者は昨年北区に引っ越したところ自宅の徒歩圏内にこの銭湯が存在することに驚喜したものだ。通い詰めて常連になってやろうと意気込み、しばらくは週に何度も通っていたが、当面遠慮しようと思っている。

元々常連が多かったと思われるが、昨年の重文指定も追い風となったためか、コロナ禍にあっても相当数の人が訪れ、浴槽のキャパシティに対して人が多すぎるためだ。

先述の通り3つの浴槽のうち1つは超あつ湯で、なかなか入るに入れない。そのため残り2つの浴槽に人が集中してしまう。特にぬる湯は回転率が悪く、いつ入っても芋を洗うような混みぶりである(さらに言うとぬる湯は透明度の低い白濁色のため、意図せずして他人と体が触れ合ってしまうのが個人的には非常に不快)

また、番台の男性もよく言えば昔気質、悪く言えば愛想がない。ぶっちゃけ建物の雰囲気を抜きにすれば、単によくある昔ながらの銭湯である。北区や板橋区にはほかに高品質な銭湯がいくつもあるため、敢えてここに入らなければならない理由を探すのが残念ながら難しい。

近年、観光資源に人が増えすぎてしまい、環境悪化や現地住民の不利益を招く「オーバーツーリズム」が問題視されているが、稲荷湯にもそうした状況が出来している。観光地として1度訪れるだけならいいが、住民として普段使いするにはちょっと躊躇してしまう。観光と地域生活の両立の難しさを、期せずして問う銭湯である

滝野川稲荷湯
住所:〒114-0023 東京都北区滝野川6丁目27−14
営業時間:15:00−24:30
定休日:水曜日

■ 滝野川浴場(北区)・・・東南アジアかはたまた実家の風呂か。エキセントリック味溢れる銭湯【84点】

地図を頼りにこの銭湯を初めて訪れた時、老朽化で閉鎖したのだと思った。
都営三田線の西巣鴨駅から徒歩3分程度とアクセスがよいのだが、建機が敷地内に何台も停まっており、裏口には解体作業の看板も出ていたためだ。

最初にこれ見ちゃったら、もう「終わった」と思うでしょ

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ダメ元で反対側に回り込んでみると、入口らしき場所を見つけたので入ってみる。

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外にも内にも足場が組まれていた(20年12月末)

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玄関。牛乳石鹸の暖簾がいい感じ。

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番台で愛想のいいお母さんに聞いてみると、老朽化に伴って外装、内装を色々修繕中とのことでひとまずは安心したが、中は実に衝撃的だった。

まず、浴室の出入口に金魚の泳ぐ小さな池が作られている。水槽ではなくちゃんと石で囲まれた池になっていて、大きな石灯籠まで設置されているという本格派。

銭湯という水を扱う仕事上、ロビーや浴室に水槽を置いている銭湯は少なくない。例えば板橋区のときわ健康温泉はロビーに水槽が置いてあるし、大田区の改正湯も浴室内に水槽がある。

(参考)改正湯の紹介記事

しかし改正湯は頑丈なアクリル板で仕切られており、当然入浴客は触れられないようになっている。一方こちらは仕切りも何もなく、剥き出しなのだ。はじめて入る客はまずこの仕掛けに驚くこと間違いない。

また、20年末ごろから老朽化した施設の修繕工事が断続的に入っており、
初めて入った時はちょうど浴室内に足場が組まれつつも、通常営業していた。

ふつう銭湯が中普請(内装替え)する場合は一定期間休業することが多いと思うのだが、鉄パイプの足場が床から天井に所狭しと組まれた中で風呂に入るというのは初めての経験だった。

最初はどうなることかと思っていたが、21年2月ごろには洗い場のタイルはティファニーブルーの綺麗な色に変わり、木造りの棚も据え付けられて清潔感溢れる空間になった。

ただ、如何せん水道周りだけはどうにもならかったとのこと。シャワーの出が悪く、真冬は1分くらい待たないとお湯が出なかったり、カランのお湯がいつまでもぬるかったり、水温が急に変わったりする。

水だけのシャワーは旅行で行った東南アジアの安宿や、リフォーム前の実家の風呂を思い出してちょっと懐かしい気分になるが、真冬だと正直結構厳しい。ちなみにカランの水がこれでもかというくらい冷たいので、後述の熱いお湯との交互浴にはぴったりだ。

さて、浴槽は奥に広がる横長で、2つに仕切って分けている。浴室入口に向かって左が体感44~45℃と熱め、右が若干温度の低い設定になっている(それでも43℃程度あるから、結局どっちもあつ湯)。

左が2人入ればいっぱい、右は4人程度が入れるぐらいの大きさ。どちらも岩風呂テイストで、温泉旅館っぽい造りになっている。

庶民派銭湯のわりに常連が幅を利かせるでもなく、スタッフの雰囲気も良い。浴槽の作りや綺麗になった内装もかなり水準の高い銭湯だが、見た目の地味さや水道周りの老朽化が災い(幸い?)してかいつも混雑しておらず、ゆったり入れる。

シンプルな浴槽構成であつ湯オンリーのため、短時間で効率よく温まれる。個人的には北区に越してきてもっともよかったと思える銭湯の一つだ。

滝野川浴場
住所:〒114-0023 東京都北区滝野川3丁目17−5 東石ビル能登マンション
営業時間:16:00~23:00
定休日:火曜日

■ クアパレスゆうゆう(北区)・・・テレビの見られるジェットバスが大人気【87点】

JR板橋駅は埼京線の線路を挟んで板橋区と北区の区境になっているが、その北区側に5分程度歩いたところにある銭湯が「クアパレスゆうゆう」(以下、ゆうゆう)である。

玄関。コインランドリーも隣についたビル型

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週ごとに男湯と女湯が入れ替わり、番台向かって左側は露天風呂×1と10人程度入れるサウナ×1、右側は6~7人程度のキャパシティの温度違いのサウナ×2という構成が異なるほかは、白湯にジェットバス、エステバス、水風呂など共通している。

さて、ゆうゆうの最大の売りは大画面のテレビを見られるジェットバス。一人用のジェットバスの真向かいにスクリーンが設置されていて、風呂に浸かりながら野球やバラエティ番組が見られるという、銭湯ラバー最大の贅沢が実現する。

画面の周りはいつも人が集まり、洗い場の椅子をちょろっとはみ出させて画面の見えるところに陣取る常連の姿も微笑ましい。

番台でサウナ券(400円)を買うと、サウナ鍵のほか、バスタオルを2枚とフェイスタオルを渡してくれる。

このバスタオル2枚が結構ミソで、1枚は通常の体を拭く用のタオルとして、もう1枚はサウナマットとして使う想定になっている。

サウナ券にタオルセットが含まれる銭湯はそこそこあるが、バスタオル2枚くれるところはゆうゆう以外にはよくできたスーパー銭湯くらいしか覚えがない。コロナ禍にあってもサウナを楽しめる気配りが素晴らしい。

サウナも広めで密になりにくく、入口に水風呂を配置した抜かりない動線配置で交互浴が捗る。

暑がりな自分は、低温サウナのある側が男湯になっているとお得な気分になる。いや、左側の露天風呂も小さいながら岩風呂で、特に日のあるうちだといい風情だしな…

という感じで甲乙つけがたいほど浴室空間の充実した駅近銭湯。番台のスタッフもみな愛想がよく、古いながら掃除の行き届いた施設も魅力的だ。

クアパレスゆうゆう
住所:〒114-0023 東京都北区滝野川7丁目11−8
営業時間:14:00~24:00
定休日:金曜日


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