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[2024/03/23] ジャカルタ寸景(10):一日の断食明け前、活気溢れる屋台街(横山裕一)

~『よりどりインドネシア』第162号(2024年3月23日発行)所収~


刻々と様子を変える屋台街

イスラム教徒にとっての断食月は日中飲食できない分、日没から夜明け前にかけて通常月よりも食事量が増え、全体の食品消費量も増加するといわれている。特に一日の断食明けでは一般にタクジル(Takjil)と呼ばれる軽食、そして夕食と続くため、断食明け直前に手軽に購入できる屋台は繁忙期でもある。

南ジャカルタの国鉄ドゥレンカリバタ駅近くに、中間層が多く住む高層アパートの団地がある。居住者約2万人で隣には住宅街も広がるだけに、アパートと線路に挟まれた通りには日常的にカキリマ(リヤカー式の移動屋台)がずらりと並び、百数十メートルにわたって朝昼晩の食事時には屋台街が出現する。人気商品の揚げ物をはじめお粥、ジャカルタ定番のナシウドゥック(ココナッツミルクで炊いたご飯)やナシクニン(黄飯)、串焼き、麺など一通りのインドネシア料理の食べ物が揃う。

断食月の日中の屋台街の通り
夕方の賑わい

断食月に入ると日中は需要がなくなるため、この時期だけは通りはがらんとした光景が続く。しかし夕方が近づくと、一日の断食明けでの飲食物を求める客目当てにカキリマが一斉に集まり始める。カキリマの列は断食月以外の時よりも長く、普段は屋台が並ばない線路脇の道路反対側にも屋台がびっしりと並ぶ。

屋台は午後4時頃から準備を始め、午後5時頃には客も来て本格的な商売が始まるが、断食月のため通常よりも若干早い仕事帰りの帰宅ラッシュと重なる。電車を降りた仕事帰りの人をはじめ、オートバイ、さらには自動車も通る。このためただでさえ広くない屋台街の通りは両脇の屋台、買い物客、オートバイ、自動車でこの上なくごった返す。さらにはオートバイが停車して買い物を始めるため渋滞も起き、屋台街の通りは収拾がつかない様相を呈する。週末は週末で、在宅者が多いことからアパートからの買い物客が、さらに周辺の住宅地からはオートバイでやってくるため、ウイークデー以上の混雑ぶりを見せる。

買い物客やオートバイ、車で入り乱れる屋台街の通り

こうした雑然としたなかでも、自分の欲しいものを購入しようと人波やオートバイをすり抜けて歩き回る人々の表情は、屋台で順番待ちをする人を含めて空腹が極限に来ているはずにも関わらす、総じて穏やかであることが印象的だ。断食はイスラム教徒にとって、飲食を断つことで貧しい人の気持ちを理解し、平静を保って神と向き合うことが反映しているようだ。かつて断食月中にムスリムの友人に冗談で少しからかった際、友人が笑いながら「おっと怒っちゃいけない、我慢我慢、断食月、断食月・・・」と話していたのを思い出す。

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