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スーツを脱ぎ捨て旅に出た【台湾①-台北市内-】

2018年9月、就職活動という名の正当な言い訳を携えて大学の教授に頼み込み、研究室を約一週間留守にするといって私は一人台湾に向かった。といってもやはり、就職活動を全くしないで一週間まるまる休むのはさすがに憚られ、言い訳程度に一社だけ企業説明会を受けるついでに台湾旅行を行うという強攻策に打ち出たのである。赤坂での企業説明会を終え、私はその足で成田空港へ向かった。スーツは空港のトイレで脱ぎ捨て、スーツケースへと押し込んだ。
格安の航空会社の窓口でチェックインを終えて飛行機に乗り、台北についたころにはもうすでに日付が変わろうとしていた。

私の考える台湾の魅力は、日本から近く異国感を味わえ、それでいて日本語も少し通じるのでハードルが低く気軽に行けるという点である。

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そして、アジア特有の洗練された都会と雑多な路地裏というコントラストが私にとってはとても魅力に感じる。

台北一人旅初日、朝早くに起きた私は、スーツケースの奥底に押し込められたリクルートスーツとビジネスシューズを尻目にTシャツとスニーカーを身に付け台北の街へと繰り出した。
早朝にも関わらず気温は28℃、少しジメッとした空気と埃っぽさが混ざったような台北特有の雰囲気を味わいながら宿の近くの公園へと向かった。食べたかった朝食のあるお店の開店にはまだ時間があったので、公園内を見て回ることにした。
学校の体育の授業のようにきれいに整列をしながら揃った動きで太極拳をしている地元民の横を通りながら、改めて自分が異国に来たと言うことを実感した。旅先において、こうして地元特有の空気を感じながら歩いていると、徐々に自身の体に空気が馴染んで来るような気がしてくる。現地の人にとっては当たり前の日常でも、旅をする身としては何もかもが新鮮に映り、現地の生活に触れられている感覚は旅の醍醐味であるとしみじみと思った。
そんなことを考えながらぶらぶらと時間を潰していると目的のお店の開店時刻が近づいてきたので、メトロに乗って向かうことにした。地下鉄の駅で3Dayのフリーパスを購入し、お店の最寄り駅である「西門」へと向かう。台湾の良いところは地下鉄が充実していることと、漢字から標識の意味がある程度予測が可能である点である。


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目的のお店に近づくにつれて、食欲を刺激する香りが漂ってきて、お店の前には朝が早いのにも関わらず名物の素麺を食べる人が多く見られた。
とろみのついた鰹だしのスープに素麺、モツが絡み合っておりパクチーのアクセントが何とも言えない。サイズもちょうどよく、朝のすきっ腹に抵抗なく落ちてゆく。地元の人たちと並んで素麺を無心にかきこんでいると、旅をしているという実感が一層増していった。素麺で腹を満たした後は、再び台北市内を中心に散策を再開した。特に目的もなく見知らぬ街をふらふらと歩いていられるのが一人旅のいいところである。

気の向くままに路地裏を探索していると、おしゃれなレターショップを見つけた。旅先から家族へ手紙を送ることをいつもやっていたので、今回の旅でも送ってみようと立ち寄ってみた。エレベーターで上がっていった狭いビルのワンフロアにはこじんまりとしていたが、かわいくておしゃれなレターショップがあった。若い女性の店員さんが流ちょうな英語で説明をしてくれた。10年後の自分宛に手紙を書くこともできますよと言われたのだが、絶賛就活中で一年後の見通しもできていなかった私は、おとなしく予定通り家族への手紙を書くのみにした。しかし、台湾にきてまだ一日も経っていないので書けることなど限られており、いかに私がこの旅を満喫するかといったような意気込みと、体に気を付けてといったなんとも無難な内容にとどまってしまった。

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昼食にはぜひとも中華調理を思いっきり食べたいと意気込んでいたのだが、さすがに一人で高級店に入る勇気もなく、町の中華料理屋さん的な食堂に入ることにした。店先には池があってきれいな錦鯉が泳いでいて、店の前にはおそらく小学校があり校庭で子供たちが元気に走り回っていた。そんな健全な光景を尻目にやや、否、ごく僅かに罪悪感を感じながら昼から飲んだビールは格別であった。調子に乗って頼んでしまった麻婆豆腐は山椒が効いた好みの味で最後までおいしく食べることができた。

中華料理を欲望の赴くままに堪能した私は、さすがに歩く気力はなくなってしまったので、少し足を延ばして電車で猫村として有名な猴硐へと向かった。

②へ続く

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