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『舞妓さんちのまかないさん』ドラマ化が予想に反して大成功でした

「児童労働を管轄する国際機関はどこでしたっけ?」という会話が普通に出てきて、さすが是枝裕和監督だなとうなりました。そこらへんの問題は完全に見て見ぬふりするしかないと思っていたのに、この手があったか!まさかのドラマ化大成功です。とてもおもしろかったですし、成立さえしてしまえば、外国人受けが良いことは約束されたモチーフなので、Netflixが投じたであろう莫大な制作費は十分に回収されることと思います。

漫画版の『舞妓さんちのまかないさん』は週刊少年サンデー連載開始当初から読んでいて、不思議な空気感の漫画が始まったなと読んでいるうちに、大好きになりました。ただ、完全なファンタジーの世界というか、漫画だから成立する世界観だなと思っていました。だって、舞妓さんの世界が美しいばかりなわけないですから。それに、青森から仲良し二人で舞妓さんになろうと京都に来て、一人は脱落してまかないさんとして生きていくことを受け入れるなんて、そんな子、3次元にいるわけない!

と思っていたら、森七菜さんの化け物じみた演技力で、キヨの3次元化に成功していました。二人で京都に来た幼馴染すーちゃんが、舞妓としての才能をどんどん開花させていく様子を、横でまかないさんとしてニコニコしながら見守っているほんわかした女の子キヨが、間違いなく存在していました。キヨって、舞妓としての才能がないと烙印を押されるくらいどん臭いので、とてとて歩くんです。3次元でとてとて歩いていて、それをあざとく見せない女優・森七菜、怖ろしい子!!あと、料理の手際の良さたるや!

もう1つの大問題は、舞妓さんの世界が美しいばかりなわけない問題です。これは、「今だけ成立しているという時間の制約」と、「花街でだけ成立しているという場所の制約」という、2つの制約が鍵でした。制約を明確にすることで、今だけ、ここだけ、そんな美しい世界もあるかもしれないと納得させてくれていました。

時間の制約については、漫画は何年連載が続いても時がほぼ止まっているファンタジー世界たりえることに対して、ドラマ世界は時間が容赦なく過ぎ行く3次元の現実であることを視聴者に意識させまくっていました。わざわざドラマ版オリジナルキャラであるところの松坂慶子演じる先代女将を登場させ、常盤貴子演じる女将がいて、時は過ぎ行き、いつまでも同じではいられないことを強調しまくっていました。

また、画面の色味も、ファンタジーの対極というか、強烈な生々しさ、フィルムっぽさを意識している気がしました。五社英雄っぽさというか、『吉原炎上』っぽさを感じました。なのに、描かれているのは、なんとものんびりとしたまかないの女の子キヨというアンバランスさ!一方で、100年に1度の舞妓になるかもしれないすーちゃんを演じる出口夏希の、ドキッとさせる艶やかさ!だけど、キヨと一緒にいるときは、青森から来た純朴なすーちゃんに見える不思議!奇跡的なバランスで今だけ成立している儚さを強烈に意識させることで、「今はまだ」美しいばかりの世界なんだね、という説得力を勝ち取っていたのでした。

場所の制約については、出戻り芸妓・吉乃や、女将の娘で普通の高校生である涼子といった、ドラマ版オリジナルキャラが重要な役割を担っていました。花街の外に行って帰ってきた立場、外にいる立場から、花街という場所の特殊性を際立たせる役割です。花街という特殊な場所を全肯定するわけではなく、そこにはいろんないびつさが隠れていることを認めつつ、でも、そこが自分の居場所だと信じて必死でもがいている人がいる現実も認める。「特殊な世界をこの角度から見るのなら」美しい世界だよね、というぶっちゃけ方をされてしまうと、納得するしかないわけです。

いやはや、本当に良いドラマを見せてもらいました。とにかくキャスティングが神懸かっています。とくに、スーパーエース芸妓・橋本愛の美貌の説得力と、出戻り芸妓・松岡茉優の世慣れた感じの説得力、そんな二人が同期として語り合う微妙な距離感の尊さ!実年齢も、ほぼ同い年な二人なんですよね。『あまちゃん』で知名度を上げたのも一緒ですし。是枝裕和監督の手法として、フリーで演技させている部分もいっぱいあると思われ、日本の女優の天下一演技大会な感じでした。ぜひ!