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46 納得する技術・させる技術

小さな島の小さな集落に住んでいると、近所のオジィやオバァの話を聞く機会が多い。オジィやオバァは話が長い。「要するに何なの?」と聞きたくなる事しきりであるが、しかしそのダラダラした部分の中にこそオジィとオバァにとっての真実が含まれているのも事実だ。
しかし企業や組織活動の報告やプレゼンでこんな事をやっていたら大変だ。「だから何なの?!」と怒鳴られてしまう。説明や報告には端的さが求められる。そのための基本的な技術のひとつとして、"So What?"・”Why So?”というのがある。ロジカル・シンキングの基本だ。これは人に納得させるための技術であると同時に自分が納得するための技術でもあり、また、人に誤魔化されないための技術でもある。「So What?」は「だから、したがって」と結論に導き、「Why So?」は「なぜなら」と根拠の明示を促す言葉だ。以下に話を単純化して説明してみる。

「小学校の徒競走で誰が1位になったのか?」と問いを立てる。そこに「ウチの子が徒競走で1位になった」と言う結論があったとする。人を納得させるためには根拠を示さなければいけない。そこで「Why So?(なぜなら)」を使う。

「なぜなら(Why So?)、ウチの子が最初にゴールテープを切ったからだ」「さらに、計測結果もウチの子のタイムが一緒に走った他の5人よりも上回っていた」「観戦していた父兄全員が目撃していた」「本人がそう言っている」と5つの根拠が上がった。しかし誰かを納得させるためには、これだけでは不十分だ。一つ一つの根拠に対して「So What?(だから、したがって)」が成立するかどうかを確認して初めて「不備の無い説明」が出来上がる。では「So What?(だから、したがって)」を適用してみよう。

「ウチの子が最初にゴールテープを切った」だから(So What)→「ウチの子が徒競走で1位になった」との説明は成立する。「ウチの子のタイムが他の5人よりも上回っていた」だから→「ウチの子が徒競走で1位になった」これもOKだ。「観戦していた父兄全員が目撃していた」だから→「ウチの子が徒競走で1位になった」これも疑念を挟む人はいないだろう。問題は次だ。「本人がそう言っている」だから→「ウチの子が徒競走で1位になった」どうだろう?これを聞いた人は納得するだろうか。仕事の都合で運動会に来られなかった父親でさえ疑う事があるのではないだろうか?「本人がそう言っている」の周囲には「ほかの人は何と言っているのか?」との相対的な疑問が発生する。これは「So What?」が成立していない事になる。つまり説明に不備がある。

「So What?」と「Why So?」は新聞記事を読む事でも習得が可能だ。新聞記事は客観性が求められるため、取材した事実が羅列されている。それらの事実が要するに何を意味するのかを把握するには「So What?」「だから何なの?」と問うてみる作業が欠かせない。それによって初めて新聞記事が自分の中で内面化される。しかし、その結果得られた「つまりこう言うことである」と言う解釈を誰かに伝える際には、必ず自分の中で「Why So?」が成立するかどうかを検証してからでなければ、「曲がった情報」つまりデマを流してしまう事になりかねない。

テレビのワイドショーなどでは未検証の「だから、こうなんじゃないの?」という解釈が多く流されている。強引に物事を推し進めたい人の手法もまた、未検証の「だから」を押し付ける作業である事が多い。誰かの意見を瞬時に「So What?」と「Why So?」出来る瞬発力をつけておく事は、マス・メディアや上位者の横暴から自分自身を守る力にもなる。

トレーニングがてら、「So What?」と「Why So?」を使って、ぜひ今回の日米首脳会談の結末を読み解いてみて欲しい。わが国の首相が米国とファイザー製薬のCEOから子犬の様にあしらわれた姿が如実に浮かび上がって来るはずだ。
 
*今週の参考図書
・『ロジカル・シンキング-論理的な思考と構成のスキル』照屋 華子, 岡田 恵子  2001年/東洋経済新報社

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