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人生は伏線のないロードムービー

ゴールデンウィーク3日目。
体調も戻り、コロナの自宅謹慎も解除されて家から出られるようになった。

朝はいつも通り6時からロードバイクに乗って札幌の道路を走る。いつも走っている手稲山は流石に病み上がりではきついので、近くの小林峠という少し低い峠を登ってきた。桜の花びらが舞う、朝の気持ちいい空気の中をのんびりと走る。北海道らしい気持ちの良い初春の晴天。

しばらく家にこもりっきりだったので、午後は久しぶりに近くのミニシアターに映画に行った。妻は映画を見ないのだけれど、「トイレ掃除の映画をみてくる」と言ったらなぜか興味を持ったようで久しぶりに二人で映画館へ。久しぶり過ぎて、この前二人でみた映画が何かお互いに思い出せない。たぶんそうだろうとなったのがパイレーツオブカリビアン。東部東上線の成増駅前のシネコンでそれを観たのが最後だろうということになった。2003年の映画だから、二人で映画をみに行くのは21年ぶりと言うことになる。ずいぶん昔の話だ。

トイレ掃除の映画というのはヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演「PERFECT DAYS」。カンヌ映画祭で役所広司が最優秀男優賞を受賞した。

映画の中で役所演じる平山は、近所の老人がほうきで道路を掃く音で目を覚まし、布団をたたんで着替え、缶コーヒーを飲み、車に乗ってトイレ掃除の仕事に行き、昼飯は神社のベンチでサンドイッチを食べ、ベンチから見える木々の木漏れ日を白黒フィルムカメラで撮影する。仕事が終わったら自転車に乗って銭湯に行き風呂に入り、地下鉄脇の居酒屋でチューハイを飲む。家に帰って本を読んでいるうちに眠くなり、電気を消して寝る。翌日近所の老人がほうきで道路を掃く音で目を覚ます。

映画ではこのシーンが延々繰り返される。
平山はそうやって同じことを同じように繰り返して生きている。

そんな日々のなかで、それぞれはなんのつながりもない人たちが彼の近くを通り、そして過ぎ去っていく。

そんな映画。

起承転結もないし、伏線もない。ただある時唐突にささやかな何かが起きて、そして過ぎ去っていく。もしくは何も起きないまま、ただ同じ場所に残る。別にそれが何かを暗示しているとか、そういうほのめかしさえない。中年の男が同じ場所で同じように生活をしながら、人生を歩いている、それだけの話だ。

役所広司もインタビューで「一度見たらもう二度と見ないんじゃないかな」と言っていたけれど、一度は見る価値があると思う。

人生には伏線なんてないし、波乱万丈なイベントなんてめったに起きない。それでこそ人生だし、そうあってほしいと私は心から思っている。

同じ場所で同じ繰り返しのような日々を生きている、そんな人生でも一本の映画になるくらい、人生には生きる価値がある。どこにも行かなくても、同じ場所にずっといても、ロードムービーのように、あらゆるものが近づいては過ぎ去っていき、そしてあるものはしばらくそこに残る。

私達は、あまりにいろいろなものを見つけようとして彷徨さまよいすぎているのかもしれない。

神社のベンチに座って、毎日木漏れ日を眺める。
その木漏れ日は毎日全部違う光で、そのすべてがとても美しい。

そんな人生に
私は強くあこがれる。

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