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合気道マニアック本解説『武道』著:植芝盛平【植芝守高名義】

合気道の古い本というのは内容がわからないものが多い。

『武道』なんかもその類で、そのせいかコピー本が2万円で売られてたり、某フリマアプリではさらにそれをコピーしたやつが2000円くらいで売られていたりする。

本物であればコレクター的な価値は確かにあるけだろうけれど、内容そのものについては出して1000円くらいかなと思う。

というわけで、どういう本なのか解説してみる。


武道の概要と入手方法

『武道』は1938年、陸軍戸山学校に通っていた時に皇族の賀陽宮殿下の要請によって作成された技術書だ。

本来は口伝が主であった中で皇族からの依頼だからこそテキスト化されたというのがあり、大東流の名前を出すわけにもいかなかったからなのか『武道』として作成されたようだ。

当時としては珍しい写真付きの解説で、23歳の塩田剛三をはじめ吉祥丸二代目道主など当時の弟子達が受けとして登場する。

戦後にこの本を見た斎藤守弘はまさしく岩間で稽古していた内容だとして感激したことでも知られているので、昔から続く稽古の体系であることは間違いないだろう。

今なら斎藤先生の解説した方の武道が電子書籍で買えるので、どうしても内容を知りたいならこっちのほうがまだマシだ。

ちなみにこの本、弟子の免許代わりに渡していたという話もあり、ある意味では大東流が巻物を渡していたやつがより現代的になったとも言えるのが面白い。

内容について

いちおう全部読んだ身としては、とにかくめっちゃ読みにくい。

こんな感じ↓

鉄ト雖異物、間隙アリ鍛錬ニ依リテ鋼トナリ刀ト化ス
実ニ曇リナキ正宗ノ銘刀ハ百練ノ賜ニシテ人ニ於イテモ亦然リトス
相互ニ虚隙ナキ如ク錬磨シ斬レバ必ズ斬リ突ケバ必ズ突クノ気ヲ養イ
誠ノ人トナラザルベカラズ

『武道』より抜粋

旧漢字だしカタカナだし、まぁ読みにくい。

あとは思想とかも語られているけれど、いわゆる火と水でカミとか、森羅万象を利用して武を上達させるとか、見える物と見えない物、肉体と精神といった意味での顕幽、つるぎの話だ。

それと道歌がいくつか紹介されていたり、古い道場ではおなじみの『練習上の心得』なんかも載っている。

全身を一致させて入身し中心を取れば敵を滅却できるといった過激な表現も出てくるけれど、お馴染みのスポーツ批判があったりと、植芝盛平の思想は晩年と比べてもブレてないのがわかる。

斉藤先生はあんまり思想面には言及してないので、オリジナル版の良さはそこだろう。が、ほぼ誰も興味ない。

技法について

技法についてもわりと考え方も含めて解説されている部分があって、面白かったところを挙げるなら、敵は神からの賜り物と思えとか、常に複数の相手と戦っていると思えといった部分は今の合気道にも通じる考え方だ。

また今ではあまり言われなくなってきた当身について多く言及されており、崩しと当身、入身と当身がだいたいセットになっている。塩田剛三が当身七分投げ三分といっていたように、当身と動きが一体になっている。

植芝守高『武道』より
第13、14図
入身と同時に当身、敵後方に回って入身投げのような形で倒す

体術

基本となる動きは今とそんなに変わらず半身や転換が紹介されている。

一教が第一法とされており、大東流の一カ条ともまた違う標記なのは面白い。特に「我より進んで攻撃すること」と書かれているのは合気道の成り立ちを知る上では大事なことだと思う。

第一法とかの名称もサラッと書いてあるだけで、そんなに重視されてる様子はない

自ら攻める姿勢で相手の動きを引き出すのは形稽古をする前提としては大事な動きだ。

その他、入身投げ、四方投げではなく『投ノ鍛錬』として四方投げ、一教二教、四教、天地投げっぽいやつ、変わったのでいえば後ろ襟取りの形からの一教や呼吸投げなんかが出てくる。

後ろ襟取りは相手に襟を取られて引っ張られたり押されたりしたものを対処する形だ。

植芝守高『武道』より
第56図、後ノ鍛錬

ちなみに「合気の鍛錬」も出てくるのだけれど、練習の徳によって自然に習得できるから詳細は口授するよ!としか書いてない。そういうものだったらしい。

写真はちょろっとあるけれど、要は相手に手首を握られた状態でそのまま倒したり、両手を掴まれた状態から天地投げのようにして崩すのを合気といっていたようだ。

植芝守高『武道』より
第47、48図合気ノ鍛錬
第49、50図
確かに天地投げには口では説明しにくい要素があると思う

武器技

武器技の解説では徒手対刀での正面内小手返し、入身投げ、当身、短剣や銃剣への入身投げ、小手返し、短刀取り五教、刀対刀での正面打ち入身、入身転換、切り落としなどなど開祖が演武でやっていたような剣の技。

珍しい銃剣への突き入身投げや1教表裏は杖での対応と同じことらしい。一応槍にも同じ想定で行ける的なことが書いてる。

植芝守高『武道』より
第75、76図 徒手対刀

終末動作

体の変化、四方投げの鍛錬、相手を床まで倒さずに四方投げをする感じ、気力の養成として座り業呼吸法、崩しのバリエーションが指定されていたりする。

あとは養神館でもやっているという臂力ひりきの養成、これはいわゆる一教運動みたいなやつらしいが、口述するとしか書いてない。

植芝守高『武道』より

臂というのは空手の猿臂えんぴなんかで使われる漢字で、腕を意味するかいなとも読むそうだ。

そして最後は両手取で背中を伸ばす背の運動でシメ。

まとめ

今の合気道にあるような基本的な技の構成や形はほとんど出来上がっていると言える。

あとは前提となる条件が、常に対複数を意識するとか、相手がマジで攻撃してくることだったり、その攻撃を誘うように自ら進んで攻撃しようとするだったりというのが興味深い。

こうしたことが前提となって今の合気道の形ができているというのは知っておいてもいいだろう。

が、それを知る為だけにわざわざ読むほどでもない。武器技についても最近はだいぶ情報があるので、当時ほど貴重でもないんじゃないだろうか?

というのが自分の『武道』に対する感想。

どうしても気になるならマジで斎藤先生の方でいい。紙の方は中古価格5000円とかなので、電子書籍が一番お得!

全ての写真が転載されているわけではないが画質もメチャクチャいいし、斎藤先生が解説しているので原本に当たるよりも断然よいと思う。


マツリの合気道はワシが育てたって言いたくない?