落下傘CTOの30日を振り返る

この記事は Qiita x 日本CTO協会共催!あなたの自己変革について語ろう! Advent Calendar 2022 の25日目です。

こんにちは、日本CTO協会で代表理事をしている @matsutakegohan1 です。2020年のAdvent Calendarでは CTO(Chief Technology Officer)はアカデミックにおいてどのように議論されているのか? という記事を書きました。こんな記事を書いていたのに、今はJAISTを休学中です。何が起きたのか?

今回は自己変革がテーマということで、前職の代表取締役である自分に終わりを告げ、2022年にコインチェックという会社に落下傘CTOとして転職した30日を振り返ります。

コインチェック株式会社の前提情報

コインチェック株式会社は、「新しい価値交換を、もっと身近に」というミッションを掲げて、暗号通貨取引業を中心にNFTのマーケットプレイスを運営したり、B2B SaaSを提供しています。現在の開発者の数は正社員で60名程度、週5換算の業務委託の方で10名程度です。

入社前に考えていた半年のアクション

  1. 事前に採用活動を行い、事業の加速を担うキーマンの全体量を増やす

  2. 入社後可能な限り早く、技術と組織の構造を数字を始めとするファクトベースで理解する

  3. 事業が加速するための技術や組織ポイント、ボトルネックにたいして社内と1.の人材を持って向き合う

入社前にやったこと

入社前にやったことは3つです。

  • 技術のキャッチアップ

  • 業界のキャッチアップ

  • 入社前カジュアル面談

技術のキャッチアップ

コインチェックという会社は暗号通貨取引を主で営む会社です。そうです、ブロックチェーンです。しかしながら松岡はブロックチェーンを事業で扱ったこともなければ、遊びで触ったのも2018年の頃ですから相当古くなっています。

入社後にまとまった学習の時間が取れるはずなんて無いことは明白でしたので、急いで手を付けました。「詳解ビットコイン」「Mastering Bitcoin」「マスタリング イーサリアム」の3冊を宿題としていただき、一通り流し読みをしました。

これに加えて各所で推薦されている、crypt zombieを一通りやりました。crypt zombieはオンライン上でsolidityを書きながら学べるもので、私のような初学者にとって、とてもキャッチアップの効率を高めてくれました。

また、一つぐらいはノードを立てる経験が必要と考えまして、諸々検索した結果、Substrateのチュートリアルを一通り動かしてみました。振り返ると、なぜBTCやETHではなくてDOTのエコシステムのツールで初学者が学習したのだろう?と思うのですが、非常にドキュメントも整っており、初学者にとって詰まることなくチュートリアルをクリアすることができました。

業界のキャッチアップ

Web3業界は非常に変化が早く、どこから手を付けたものかと途方に暮れました。また、あまり触れてはいけないプロジェクトも多いと聞いていましたので、肌感を得るまでは自分が使うサービスは信頼できるものが良いわけです。

そこでいくつかのサービスを、コインチェック社の同僚となる方々から教わりました。

  • RabbitHole Learn to Earnのプラットフォーム。Web3を学習する上で触るべきサービスが色々リンクされている。

  • Uniswap DEX(分散取引所)で最も有名なサービス。なぜUniswapというサービスを始めとするDEXがすごいのか、どんなイノベーションが起きて成長したのかを学ぶことで、Web3の解像度が上がる。

  • Curve.fi ステーブルコインのDEXで有名なサービス。

  • クリプトスペルズ ブロックチェーンゲーム(BCG)の老舗。他の多くのサービスと異なり、無課金でプレイすることができるので初心者はとっつきやすい。

  • Metamask ブラウザウォレット。IDaaS+決済機能を持つブラウザ拡張。Web3のID周りに破壊的なイノベーションを起こした。

これらを一定使い込み、それぞれのサービスがどのように成り立っているのかの仕組みを考えてみました。また、それぞれのdiscodeに参加し、どのようにコミュニティが意思決定をしているのか?ガバナンストークンがどう配られてどう使われているのかを体験しました。

入社前カジュアル面談

ある程度シニアなマネージャーの重要な価値の一つに、「どれだけリファラルするのですか?」があります。入社後は爆発的に忙しくなることが想像できていたため、予め多くの方にプレ・カジュアル面談をお願いしました。200-300通ぐらいDMしたと思います。

初期のカジュアル面談というものは、自分の至らぬ点を明確に指摘していただけるツールです。カジュアル面談に対応してくださっている方々は、人生の決断ですから真剣に考えてくださり、それが故に良い質問をしてくださいます。

自分の状態は入社前のひどい解像度ですから、いろいろなことに対してちゃんと回答できません。それを一つ一ついただいて、調べ直したり社内で質問したりを繰り返し、自分の自社や業界の解像度を高めていきました。

プレカジュアル面談はおすすめです。採用もできるし、セルフオンボーディングにもなります。

初月にやったこと

初月やったことは主に3つです

  • 人の理解

  • システムの理解

  • 採用の加速

人の理解

どんな思いでどんな人が働いているのかを理解しないと、マネジメントなどできようはずもありません。そのためには接点を増やさないといけない。このため以下を行いました。

  • 毎日出社

  • 開発系を中心に社内の半数と1on1

  • 歴史の勉強

毎日出社

私は早くキャッチアップをしないといけません。このため最も効率的な方法として、ひたすら出社しました。出社は良いです、私はもともとリモート否定派です。圧倒的に人との接点の数が増えます。正直なところ顔と名前が一致したのかというとこの時期は曖昧ですが、多くの方にご挨拶させていただきました。

そしてテレフォンショッキング方式でひたすら人を紹介してもらいながらランチをしたり、いろんな定例会議にお邪魔させていただいて歓迎会を懇願するなどアクションを取りました。今の時代はリモート中心でどうしても疎になりやすいため、意識して懐に転がり込むアクションを多用しました。

その結果、3週間目にコロナ感染しました。リモート否定派の私でしたが、「今はハイブリットだな」と強く思いました。

開発系を中心に社内の半数と1on1

多くのマネージャーさんが、転職したら自分のチームと関連する人と1on1をすると思います。私もやりきりました。すでに社員数が200を超えており、プロダクト開発系の方々と、社内システム系の方々と、経営陣と、マネージャーさんやリーダーさんだけで100名を超えておりました。この項目に関しては1ヶ月では収まらず翌月までかかりました。

1on1でお話したアジェンダは以下のようなことです。

  • これまでのキャリアを教えて下さい

  • 今の仕事はなんですか?

  • 野望はなんですか?

  • 会社の強み、ご自身の強みはなんですか?

  • 会社の弱み、ご自身の弱みはなんですか?

私個人の趣味として、野望をいっぱい聞いていました。やりたいことがあるってとても素敵なことだと思っていますし、可能な限り会社の方向性やアクションとそれを合わせたい。マネジメントとは個別化ですから、ひとりひとりの野望をひとつひとつなるべく叶えられるために何をするのかということが大事だと考えています。

歴史の勉強

会社には歴史があり、創業者の思想があり、文化があります。
一つ一つの事柄について、なぜ、を理解するため古参の方々からは特に手厚く歴史上の事件や、それがどのように扱われみんなの心にどう残っているのか、ということを学びました。

こちらにつきましては文脈が深すぎるので、かなり簡素な紹介とさせてください。

システムの理解

CTOとしてどのレベルまでシステムを理解すべきかというのは、会社規模やCTOの資質等で大きく変わると思います。コインチェックは2014年から続くサービスですのでコードベースもかなり大きくなっています。このため全体を把握することは早々に諦めました。

アクションしたこととしては以下のようなことです。

  • オンボーディング系の資料を読み漁る

  • db-schemaを読む

  • awsの構成図を説明していただいてざっくり理解する

  • ある会社の重要なプロジェクトに関わるPRを追いかける

  • ホットウォレット、コールドウォレットについて構造のレクチャーを受ける

コインチェックを始めとする暗号通貨取引業はシステムがどうしても複雑です。60人のエンジニアチームで、証券会社のシステムと、東証のシステムと、ブロックチェーンのシステムを作り連動させねばなりません。東証のシステムに当たる部分などはひとけたmsにこだわった物作りが必要ですし、ブロックチェーンのシステムは技術的に自分にとって新しいことが多く、大変苦労しました(しています)

要求工学面においては、金融システムであるため深い形式知と暗黙知の理解が必要になります。正直なところ1月目のタイミングではこのあたりの深さを読み誤っていました。これらは今も関連団体のドキュメントや法令などの形式知を深めつつ、親会社の証券会社の方と会話の機会を作って日々勉強しております。

また、(かなり多くの)複数人が悪いことを考えても顧客資産が守られるための仕組みがあり、それはシステム的にも組織的にも疎な構造になっているので非常に把握が難しいということが特徴的でした。

本当に初月は大変でした。前職のコンサルティング企業を経営していた頃に、多くの企業様をクライアントとして向き合う機会をいただきました。時間やミッションの対価として安くない報酬を頂いていましたので、非常に早くその会社のシステムを理解する必要があります。この経験が良い訓練となりました。余談ですが自分の型としてこれのどれから手を付けるのですかと問われたら、とにかく最初にDBの構造を理解する、と答えると思います。

採用の加速

コインチェック社の課題の一つが、そもそも売上規模や全社員比率と比較しても、エンジニア数が少なすぎることでした。このためCSOの山田と連携して開発部門と人事部門の定例を開催しました。

エンジニア採用はTHE MODELをやりきるとできることと、それを超えたモメンタムを作っていくことの2つの軸があります。前者は再現性があり、後者は天地人が揃わないと難しいところがあります。このため前者のやりきりから手を付けることにしました。

入社一月で仕掛けたことは以下のようなことです

  • 採用KPI管理

  • 契約エージェント数の増加

  • エージェントさんとの握り直し

  • 自分自身のアクションとして、DMを売ったりリファラルしたり

翌月以降は中途エンジニア採用チームを組成して、その中で本当にいろいろなことをしているのですが、その話を書くと終わらないのでこのあたりで。一つなにかキーワードを残すとしたら、採用の時間的なKPIの単位は月でも週でも日でもなく、時間とか分までこだわるべき、ということです。

終わりに

もう入社して5ヶ月目ですので、そろそろ1月目のことを忘れつつありますのでまとめてみました。どなたか同じように、ある会社のCTOとしていきなり着任する方の参考になれば幸いです。

採用のお知らせ

私が代表理事を務める一般社団法人日本CTO協会では、「テクノロジーによる自己変革を、日本社会のあたりまえに」というミッションを掲げ様々なアクションを続けています。興味を持ってくださった方はぜひこちらからお問い合わせください

私がCTOを務めるコインチェック株式会社では、「新しい価値交換を、もっと身近に」というミッションを掲げWeb3関連の事業やB2B SaaSを営んでおります。ご多分に漏れずエンジニアさんを募集中でして、興味を持ってくださった方はぜひこちらをご覧ください

私が社外取締役を務める株式会社うるるでは、「労働力不足を解決し人と企業を豊かに」というビジョンを掲げ、BPOやクラウドソーシングからビジネスニーズを発見し、事業化することでこれを達成しようとしています。もちろんエンジニアさんを募集中でして、興味を持ってくださった方はぜひこちらをご覧ください

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