藤子・F・不二雄『ヒョンヒョロ』2周目を読む。

本稿は既読が前提です。必然、オチを含めた作中のネタに触れています

・ページは『藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編』4巻のものです。157pが1p目(表紙)に相当しています。

扱うのは本編中の描写のみに絞っています。

 登場人物一覧:

 マーくん(マーちゃん):空想癖のある男の子。字はまだ読めない。

 うさぎちゃん:宇宙人。ヒョンヒョロを入手すべく人間へ接触。

 ママ:マーくんの父。

 パパ:マーくんの母。

 警官:誘拐事件の担当。部下を多数率いる。語尾はほぼ「でしゅ」。


   ・うさぎちゃんと人間のすれ違い

 本作には様々なすれ違いが描かれているが、作品の把握にはまず、以下の一点をおさえるといいだろう。

・「ヒョンヒョロとは何か?」を、うさぎちゃんに対しどう確かめているか?

 この点について振り返ると、およそまともには聞けていない。聞けたのは唯一、マーくんだけでだ。しかしながら、そのくだりの結末はどうか。

「手紙 ヨンダデスカ?」
「ぼく字がよめない」
「コマルナア」
「なにがかいてあったのか、おしえてよ」
「自分ノ手紙ヲ ヨムナンテ! ソ、ソンナハズカシイコトガ!」
「?」
「地球人ニハ 理解デキナイ アリマスカ」

p164

 結局のところ、最後まで聞けなかった点では他の人間と同じだ。かくして、ある時はギャグ、ある時は文化の違いにより、作中でのヒョンヒョロの正体は長く謎のままとなる。

「だがいったい、このヒョンヒョロというのはなんでしゅ……」
「さあ……本人にきいてくれませんか」
「本人!? なんの本人?」
「ボク犯人」
「バ、バカな。犯人予定者が被害予定者の家に……しかもぬけぬけと警察官の前に!! 非常識な! あまりにも非常識な!!」

p176

 そして終幕直前。何気ない一コマに、決定打は仕込まれている。
 ヒョンヒョロが何か分からない父親は「金で換算してもらうよりしょうがない」と考え、うさぎちゃんへ「預金やら家内のヘソクリ」などの「あらいざらい」を渡そうとする……気が急いてか、約束の時間よりも早く。
 そんな父親に、うさぎちゃんは言う。

「マダ5分前」
「ルーズナコト好キナ人デス」

p184

 ここでのポイントは3つだ。

 1・うさぎちゃんは時間通りの行動を誠実さと見なしていること。

 2・ゆえに、時間より早く渡そうとした相手を「ルーズ」と判断したこと。

 そしてもうひとつが、

 3・事前に中身を確認できず、誤解をとく余地がなくなること。

 かくしてすれ違いは、ヒョンヒョロの正体を尋ねることで最大の山場を迎える。

「かんべんしてくれよ。それしかないんだ」
「いったいヒョンヒョロとはなにかね」
「ヒョンヒョロ ヲ シラナイ!? 宇宙最高最大ノ価値アル、アノ ヒョンヒョロ ヲ!?」

p185

 うさぎちゃんにとって非常識であるとの判断は、直前の「ルーズ」さと整合してしまう。必然うさぎちゃんは、警官の台詞をそのままなぞりつつ、この結論に達するのだ。

「非常識ナ! アマリニモ非常識ナ!!」」
「イーヤ 信ジラレナイ!!」

p185

 そして眼の前の相手が「信ジラレナイ」となれば、交渉は決裂するしかない。なぜなら、ヒョンヒョロの所持者である子どもを巻き込まないよう、既に約束しているからだ。

「これいじょう子どもを、まきこむのはやめてくれ」
「エッ ソレハチョット オカシイノデハ……」
「いやだというならこっちもノーだ!!」
「変則ダガ ヤクソクスルデス」

p180

 このシーンではうさぎちゃんだけ、子供がヒョンヒョロを持っていると知っている。台詞の意味を補完すれば、

・「(子供がヒョンヒョロ所持者なのに交渉から外すのは)ちょっとおかしいのでは」
・「(所持者を交渉から外すのは)変則的だが約束する」

 となる。約束を果たしたがゆえに、うさぎちゃんが取れる手段はひとつしか残されていない。


   ・エピローグ後

 うさぎちゃんが作中の手段に至らざるを得ないことは分かった。
 ではその後は、果たしてどうなるのだろうか。
 これについては作中情報で、ある程度まで絞り込むことが出来る。
 以下、該当箇所を見ていこう。

 まずは仮に、うさぎちゃんにヒョンヒョロを渡せた場合だ。これは以下の箇所が参考になる。

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