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"私"の小話

それはうっとおしいほど太陽が照った夏の話。
とある出来事が私の身に起きたのです。

その話をする前に。
まずは、私の話をしてもよろしいでしょうか?
私が生まれたその家は他の家と比較できないほど有名でございました。
私が物心を抱いた時には、たくさんの眼差しに囲まれておりました。
誰もが揃って私に期待を向けていたのです。
なんでも、私は"詩歌"である前に
"与謝野晶子の末裔"だったのだとか。

「詩歌ちゃんは与謝野の子だから」

初めてその言葉を聞いたのはいつだったでしょうか。何度聞いた言葉でしょうか。残念ながらそのどちらも、もう覚えておりません。

私は与謝野の子。
だから、優秀でなくてはならない。
だから、優秀でないはずがない。
私はその期待に応えようとしました。応えようと、努力致しました。ですが、どこまで行っても私は"凡人"でした。周囲の眼差しは、私が成長するにつれ離れていきました。
「お前はうちの子じゃない」
ついに柱に記された線が154センチを数えた時、
私は誰にも期待されなくなりました。

藁にも縋る気持ちで「スター」を養成するという「聖ヒエラルキー学園」に入学致しました。その頃の私は、自暴自棄になりながら学校を選んだ気がします。

春になれば私の意思など関係なく、高校生になりました。身体だけは立派なオンナノコになりました。そこでも私へ向けられる最初の眼差しはいつも通り。聞きなれた言葉を言われ、期待の目を受け、その期待に応えられない劣等生。
そりゃあそうでしょう。
今更何かが変わるはずがない。

この学園には“カップに注がれた白い希望”と呼ばれる夢の飲料がございます。それはヒエラルキー上位者だけが手を伸ばせるもの。手を伸ばす資格すら、私には最初から最後まで存在しない。当然そう思っておりました。


「ねぇ、新入生?あっ…ご、ごめんなさい!急に知らない人に声掛けられたら怖いよね!!すみません!!」

いつも通り下を向き、目つき悪い私に声をかけたのは、嫌に自信が無い少女でした。よく声をかけてきたな、と思いつつ制服を見れば3年生のようで。
「あの、さ。マイクでのし上がって、あの希望を、さ。ひとくち、飲んでみない?!」
おどおどと泳いでいた彼女の瞳は、とてもまっすぐに私を見ました。初めて受けた眼差しでした。その瞳に惹かれて、この手を引かれて、向かった先の備品室には二人の少女が待っていました。
「おぇ?一年生~?」
「汝、何者だ?名を名乗れ」
それはうっとおしいほど太陽が照った夏の話。
死にかけたセミの鳴き声が騒がしい
そんな夏の終わりの話。
「これで揃った!私たち4人でMicrophone Soul Spinnersだ!」

私を置き去りに呆気に取られる私に、彼女は笑いかけたのでした。たったそれだけ。私を救ったのは、そんな彼女にとってはなんでもない出来事。そんな単純な宣言で救われました。世間に、両親に拒まれたことなど、その言葉のおかげでどうだって良くなってしまいました。

今は、この高校で過ごす時間だけは、全てを忘れて[ここだけが居場所だ]なんて嘯き給いても良いでしょうか。⾔の葉を紡ぎ織り歌う者になれたその時こそ、それは許されるでしょうか。

そんな、夢をみてもいいでしょうか。

馬鹿げた夢を鼻で笑って、
私はマイクを———




























この先は……まだございません。
ここから先はこれから
私と"あなた"で作っていく物語。
ちっぽけな少女の、たった一度の人生を。


#さめの詩歌
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