勇者ノベリットの冒険(抜粋版)


世界を『紡ぐ』のは何であるのか。
その問いに立ち返るなら、『人』と答えるべきなのだろう。
あらゆる命に意思があるなら、あるいは、
あらゆる存在に意思があるなら、
その観測する数多の事象は、ただそこに在るだけなのに、意味を見出そうとするものは、万物において『人』のみに過ぎないからだ。

故に人は紡ぐ。
他者と己の物語を。
故に人は問う。
他者と自分の均衡とその差異を。
故に人は問う。
己が何者であり何を為すべくしてそこに在るのかを。
故に人は問い、墜ちていく。
答えのない虚数の中に自らの価値を、意味を求めて、

其処に答えなどありはせず、それが故に、無間とも等しい己が内側の深い深い穴へと只管に落ちて征き。

そして、果てなく落下しつつ、なお人は問う。

『私はなぜ、そこに在るのか』と。

ならば、私は答えよう。
虚無であると応じるのはあまりに容易いので、
ただのひと言により、
刻んでしまおうと、

詰まりは、
それが、

「おこがましい問いであるとなぜ気がつけないのか」と。

足掻き、足掻き、藻掻いて藻掻く。
薄々気がついているはずの自らの存在意義を認めたくないばかりに。
盲(めしい)ているのではなく、見ないでいるのは、己が瞼を閉じている為なのに、
頑ななほどにそれを認めず、拒み、
譫言のように繰り出される言葉の羅列こそが、

そう、お前が紡ぐ世界の在り方で、
人の為す『業』そのものの、
高熱に浮かされるような、
陽炎のごとくに棚引き揺らめく儚い呟きこそが、

お前と、お前を取り巻く世界のすべてであり、

此処に在る遍く世界の法則であり、途であり、

果ての冷たさを抱え込んだ、

『記録そのもの』であるのだと、
いまこそ、
――汝は識るべきなのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?