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母の形見リング

女にとってジュエリーは特別なものだと思う。
頑張った証であったり、自分に少し自信を
持たせてくれたり・・
お守りのようなものだ。

母も指輪が好きで、いつも身につけていた。
母の指輪がかっこよくて、
「いつか欲しい」と思っていた。
デザインが素敵なだけじゃなく、
母の歩んできた人生に、重ねてきた毎日に
力をもらえる気がして。

キズがついていて、チャームが取れていて、
形も少し歪んで見える母の指輪。
それが味になって、母の歴史に重なった。
なおさらかっこよかった。

母が病気になって、いつか他愛のない
会話のなかで指輪の話をしたとき、
「わたしが死んだらマヤにやる!」と。
欲しいけど欲しくない、複雑な気持ちと、
“そんな日”が遠い日であるように、と願った。


母の最期に立ち会ったとき、看護師さんから
「手がむくんでいたので指輪を外しました」と
小さな袋に入った指輪を渡された。

そんな日は意外とすぐにやってきてしまった。

いま、母の勲章をいつも小指に身に付け
力をもらう。
でもチャームの取れた一番素敵なゴールドの
指輪だけは、母が最期に外したまま
袋に入れて取ってある。

いつもよりパワーが欲しいとき、
もっとこの指輪に似合う自分になれたとき、
どうしようもなく寂しくなったとき、

「たしかにここに母がいる」と噛み締めて
この指輪をつけたいと思う。


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