平成エドウッド表紙タイトルなし

平成エドウッド 第四話

それから更に10分経っていた。

水玉パジャマで手術台に拘束されていたのは、蕎麦配達員の方だった。
蕎麦野郎の数々のパワハラに耐えかねていたエリーゼの地下マグマがここにきて炸裂したのだった。
その勢いは凄かった。
1.5秒の早業で蕎麦野郎を昏倒させ、4秒でマルコメを開放し、3秒でパジャマを脱がせると5秒で蕎麦野郎に着せ替え、手術台に拘束したのだった。


マルコメは自分の服に着替え、枕元になぜか置いてあった蕎麦湯を蕎麦野郎の顔にぶちまけた。
濃厚な蕎麦湯にむせながら、蕎麦配達員は目を覚ました。

「どうして俺を拘束した。田舎蕎麦野郎!」

マルコメはさらに蕎麦配達員の顔に唾を吐きかけ、そして問いつめた。

蕎麦配達員は冷たい視線を投げかけたまま答えた。

「…おまえの悪事が街中に広がっていることくらい、知ってんだろ。警察は極秘裏に、おまえの首に賞金をかけた。未成年だから裏をかいて渡さないといけねえんだよ。まさかエリーゼに造反されるとは思わなかったけどな」

彼はそして、またにやりと不気味に笑った。

「俺の負けだ。でももう警察はこっちに向かってるぜ」

「ふん、だからなんだてんでぃ!おれをなめんな!エリちゃんいくぜ!」


表に飛び出すと、そこはたそがれ天国蕎麦街道。
イグニッションを捻ればカブのエンジンは軽快に吹き上がり、マルコメとエリーゼは一瞬にして夜の闇に消えた。
エリーゼといえばキャリーボックスにしがみついている。
その握力には、マルコメも舌を巻いた。

後ろを振り返ればなぜかテケテケとターボババアとサイボーグウサイン・ボルトが続いている。
そして更にその後ろには無数のパトカーがサイレンを鳴らし、こちらに迫ってきている。
このまましばらく高速百鬼夜行を続けたいところであったが、いかんせんカブの燃料が残り少ない!
するとそれを察してか、突然エリーゼとテケテケとターボババアとサイボーグウサイン・ボルトが、走りながらもマルコメをカブごと担ぎ上げた。

「わっしょい!わっしょい!わっしょい…」

「そこの神輿、止まれ!」

後列のパトカーが拡声器で怒鳴る声が繰り返し聞こえてくる。
マルコメはその騒音に苛ついた。
野グソにたかる蠅みたいな奴らだ。
先を見ると、路が2通りに別れている。
はて?
……左手側は車両進入禁止だ。


☆☆☆

ここで、登場人物をおさらいしておこう。

マルコメ:主人公。ブラッディー・カブの二つ名でB級都市伝説級に怖れられる火の玉ボーイ。

ルチン・プラズマ:未だ名前で呼ばれることの無い蕎麦屋配達員。正式にはルティン。手足を手術台に拘束されたままなので、実は危機に瀕している。蕎麦とYAMAHAメイトを操ることにかけては右に出る者は居ない。親が警察。

エリーゼ:稲妻柄のアロハシャツを着たハワイアンリーゼントの男。繊細で気弱だが、ぶち切れるとユダヤ古流武術ABIRの奥義をマスターしたもうひとつの人格が現れる。その脚力も底知れない。

テケテケ:偶然、黄昏蕎麦街道にいた妖怪。

サイボーグウサイン・ボルト:黒い稲妻の二つ名を持つジャマイカ人。元人類最速の男だったが、義体化することで永遠の速さを手に入れた。

ターボババア:ボルトをサイボーグにした科学者兼錬金術師。研究のために自らの体も義体化している初期型サイボーグ。


☆☆☆

「以上が第1話、こんな感じです!」

都心にそびえ立つ、ある大型TV局の会議室。
右手にカチンコ、左手にメガホンを握った「彼」は自信満々の表情で、自作の脚本をデスクに置き、意気揚々と話し始めた。


「近未来の日本がベースのSFを織り交ぜたサスペンス・ホラー・アクション・ロードムービーそして恋愛全ての要素を取り込んだ、御社の9時ドラとしては画期的な骨太冒険絵巻です!主人公のマルコメには神木隆之介、ルティン役には菅田将暉を配置すれば、しょっぱなから女性層をガッチリ掴めると思いますし!マルコメの相棒のエリーゼ役には思い切って岸辺一徳さんなんかはどうでしょう?あははは。第2話からはね、地球を侵略しようとするスーラッタ星人が埠頭に現れちゃって、三つ巴の戦いが始まる構想です!視聴率も取れて、打倒すべき裏番組『世界海老天ニュース』も潰せますよ!」

彼の名は東青田苅男。32歳。10年以上のキャリアを持つフリーの脚本家であるが、さっぱり芽が出ないダメ作家である。
てんで荒唐無稽な脚本ばかり書くため業界からは「平成のエド・ウッド」と呼ばれ恐れられていた。




文:くされ悦会(ETSU・KOSSE・KAW・寿プロ)
挿絵:KOSSE


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