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爽流

地球の南側にもまた、同じように街が広がって、人々は背の高い摩天楼の下をありんこのように歩いて過ごすようです。私の勘違いでしょうか、この街の日の差し方は、東京とも、ベルリンとも、ソウルとも少し違うような気がします。ブエノスアイレスというカタカナの堅物な印象は、この街に似合いません。Buenos(良い)Aires(空気)と直訳されるように、この街で流れる大気中の分子たちは、すごく爽やかで光に満ちています。

アメリカは西海岸のような町並み、アメリカより味深い文化と、温かい人たち。かと思えばドイツの高級住宅街を思わせる坂道、香港のような灰色のアスファルトに染み付いた活気、高度経済成長が生み出した灰色のビル群、景気後退が生み出した、米ドル高騰。ベルリンのようなカフェでコーヒーを片手にタバコをふかす男女。飾り気のない真っ直ぐなバラードバンド。あなたに溶けていけばいくほど、私とあなたが一緒になって、何がなんだかわからなくなります。何故9月なのに春なのか、12月が夏になるのか、私が赤道を超えて来たことも、チカチカする日本創作料理店も、なにがなんなのかたまにわからなくなります。ワクワクします。

これまで滞在した都市たち全てが溶けて、溶けきれなくて、分離して、都市のあちらこちらで花を咲かせているようです。文化の島を渡り歩いて来た私たちにはとても居心地がいい街です。

着いた当初はアメリカから10時間もかかるなんて、なんて辺鄙なところに来てしまったのだろう!とドラマチックなことを考えたりもしましたが、家のない私たちにとってここはとても家らしい街です。今まで4ヶ月ずつ暮らした街たちに、住んでいた、と胸を張っていうことはできません。滞在していた、くらいがちょうどいい塩梅です。これから夏に向かっていく明るいこの街で過ごす4ヶ月が、爽やかでありますように。

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