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夜空が綺麗なのは、涙で星明りが滲むから

ある週末。
職場を出る直前まで、帰りに観る映画を決めあぐねる。二本で迷い、先に公開された方を選ぶ。もう一本もどうせすぐ観に行くし。
そう思いながら映画館に到着。金曜の夜、いつもよりほんの少し人が多い

「ただいま全てのお席が空いております」

チケットカウンターの笑顔が素敵なお姉さんに座席表を見せられながら言われる。いつもと変わらない後ろから二列目の通路側を選ぶ。私の指定席。

劇場に入ると誰もいない。まあマイナーっぽい映画だし、公開から1週間たってるし、と誰に言い訳するでもなく頭の中に言葉を並べる。

結局席についてから再び席を立つまで、劇場には私以外が入ってくることはなかった。

一人で大画面を占領していると、なんだかとっても不思議な気持ちになる。
親に内緒でこっそり深夜にリビングのテレビでアニメをみたり、布団に潜り込んでゲームをやった、あの時の感覚と似てる。薄暗さとワクワク感は、今も昔も、私を非日常へ連れて行ってくれる。

駅への道すがら、何となく開いたネットニュースの記事で、とある俳優の訃報を知る。大好きな作家が書いた大好きなシリーズで、大好きなキャラクターをたくさん演じた俳優。

彼が演じる金田一耕助が大好きだった。

ダニエル・パウターの「bad day」を聴きながら駅まで歩く。
今の仕事を半年ほど休職する直前、毎日この曲を行きも帰りも聴いていた。
毎日、毎日。
復職してからは聴くことがなくなった曲が、たまたまYoutubeのおすすめに出てきたのが、偶然にしては出来すぎている気がした。

訳もなく仕事中涙が出て、激しい運動したわけでもないのに心臓がバクバクして、視界がぐるぐる回ってふらついて、そんな自分を見ないふりして。

今日はついていなかっただけ。
たまたま今日だけ。

言い聞かせるように繰り返し、繰り返し。
この曲は、このクソみたいな世界に私を引き留めた命綱。

あの頃を思い出して、少しだけ視界が滲んだ。

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