見出し画像

Make itの話

熟語のmake itについて説明する。この熟語には、「たどり着く」「間に合う」「待ち合わせる」「出席する」「成功する」などの意味があるが、どうしてこういう意味になったのだろうか。まず、このことを説明する前に、kickとkick atの違いを確かめよう。一見無関係だが、実はこれがmake itの意味を解説することにつながるのだ。

She kicked me.「彼女は私を蹴とばした」
She kicked at me.「彼女は私を蹴とばそうとした」

他動詞の目的語と前置詞の目的語を比べると、一般に、主語の影響は他動詞の目的語のほうが大きく、前置詞の目的語のほうが小さい。上の例文では、She kicked me.だと「他動詞+目的語」となって、彼女の私への影響は大きく、つまり彼女は私を実際に蹴飛ばしているが、She kicked at me.となると「前置詞+目的語」となるので、彼女の私への影響は小さくて、要するに実際に私に触れたのかどうかは定かでなく、文脈から判断される。この原則はcatch「~をつかむ」とcatch at「~をつかもうとする」、hit「~をぶつ」とhit at「~をぶとうとする」、feel「~に触れる」、feel for「~を手探りで探す」も同じだ。そういえば、

A drowning man will catch at a straw.「溺れる者は藁をもつかむ」

という格言があるが、これもcatch atなのでこの人が実際に藁をつかんだかどうかは不明であり、厳密に訳せば、「溺れている人は藁をつかもうとするものだ」となる。このパターンで入試頻出のものといえば、searchとsearch for、reachとreach forであろう。

The police searched him.「警察は彼の所持品検査をした」
The police searched for him.「警察は彼を捜索した」

Searched himでは、警察の彼に対する影響が大きいので、実際に彼に触れて(何か怪しい物を持っていないかと)探しているので、「所持品検査をする」とでも訳される。それに対して、searched for himとなると、警察の彼に対する影響は小さく、彼はどこか遠い所にいる状態で警察は彼を探しているので、「捜索する」となる。

He reached the door.「彼はドアに届いた」
He reached for the door.「彼はドアに向けて手を伸ばした」

Reachもそうで、reach the doorならばドアへの影響が大きくて触れているのに対して、reach for the doorならば影響が小さくて触れたかどうかは不明となる。このようなことはloadという他動詞にも通用する。

A crane loaded the ship with boxes.
A crane loaded boxes onto the ship.

どちらも「クレーンが船に箱を載せた」と訳されるが、ニュアンスは異なる。Load the shipはthe shipが他動詞loadの目的語なので、クレーンの船への影響は大きく、船の全面に渡って箱が積み込まれている。それに対してload boxes onto the shipのほうはといえば、the shipは前置詞ontoの目的語なので、クレーンの船への影響は小さく、船の一部にのみ箱が積み込まれている。影響が大きいということは船の全面に影響を及ぼしているということであり、影響が小さいということは船の一部にのみ影響を及ぼしているということなのだ。このことはswim「~を泳ぐ」とswim in「~で泳ぐ」の2つも同じだ。

He swam the river.「彼は川を泳いだ(泳いで渡った)」
He swam in the river.「彼は川(の一ヶ所)で泳いだ」

The riverがswimの目的語ならば、泳ぎ手の川への影響は大きく、川の全面を泳ぐ、つまり川を泳いで渡るといったニュアンスがあるのに対して、the riverがinの目的語になった場合には、泳ぎ手の川への影響は小さいので、川の一部で泳ぐ、といったニュアンスとなるのだ。

さて、make itの話だが、その前にmake the portとmake for the portの違いについて。

The ship made the port.「船は港に着いた」
The ship made for the port.「船は港へと向かった」

Make the portのほうは、the portがmakeの目的語となるので、船は港への影響が大きく、つまりここでは船は港に着いたということであり(swim the riverで「川を泳いで渡る」という意味になるのと並行的だ)、それに対してmake for the portとなると、the portはforの目的語なので港への影響は小さく、つまりいまだ港へは着いていない。これはfeel「~を感じる」とfeel for「~を手探りで探す」の違いと似ているようだ。

He felt the pen.「彼はペンを感じた(≒ペンに触れた)」
He felt for the pen.「彼はペンを手探りで探した」

ちなみに、使役動詞にはmake, have, letの3つがあり、makeは強制と言われるが、強制ということは働きかける力が強いことになる。つまり、make the portもmake for the portも船が働きかける力が強いのであり、そうなると船はかなり力を出している、ということになる。だから、文脈によってはmake the portは「港へと急いで着いた」ともなれば、make for the portも「港へと急いだ」ともなる。要するに、自動詞のmakeは「急ぐ」という意味にもなるのであり、ここからmake awayやmake off(awayもoffも「離れて」という意味)がrun awayと同意となって「逃げる」とも訳されることになるのだ。

さて、make itである。これはもともとは「make+場所」という表現だったのが、目的語で表される目的地や目標を漠然とitで表したものだ。だから、本来はmake itは「力を出して目的地に着く」といった意味となり、そこから「たどり着く」「間に合う」といった意味になり、さらに発展して「待ち合わせる」「出席する」などの意味も生れたのだ。

では、ここからどうやったら「成功する」といった意味になるのだろうか。これは比喩なのだ。「一生懸命に頑張ってある場所にたどり着く」といったイメージが比喩的に用いられて、「一生懸命頑張って目標に到達する」→「成功する」となったのだ。

もう面倒なので(?!)、make itの例文は記さない。興味のある人は各自辞書で調べてみよう。以上、make itの話でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?