見出し画像

番外編3:『薄暮』から考えるパロディ(第一部)


 山本監督本人から『薄暮』には『私の優しくない先輩』からの「セルフ」パロディもあることが判明。これを機にパロディについて考えたので駄文を一つ。

*今回は『薄暮』筆頭に関連する作品群のネタバレを多数含みます。
以後は執筆意図をご理解頂ける方のみお読み下さい。

序章:「パロディ」の定義

「有名な様式や作風をこっけいにまねた模倣作品。」というのが辞書の意味。
「有名」「こっけい」の解釈には感情を含み、また客観的な論証が難しいため今回の「番外編3」に於いては単に「他作品に影響を受けた要素の模倣が一部シーンに登場した事象。」とみなします。

第一部:山本監督編

【1】『私の優しくない先輩』からのパロディ

 元ネタはたこ焼きの屋台が登場したシーンでしょう。屋台の上部に書道作品が5点掲示されていてその一部しか見えていない点も踏襲しているので間違いありません。
 ただ、
・元ネタ側は実写作品の為、カメラを動かして様々なアングルから撮影するのはお手のもの。従って一枚絵の背景であるアニメとの関連性が見出しにくかったのでしょう。
・そもそも『薄暮』の側では3秒にも満たないシーンだったので瞬きしていれば見逃していても止む無しです。

【2】『Wake Up, Girls!』からのパロディ

 アニメキャラである久海菜々美と片山美波によく似たキャラが登場します。遠野双葉(とおのふたば)と川村明里(かわむらあかり)という名前のようです。とはいえ『薄暮』劇中では舞台である昌平高の制服を着用しポニーテールとおさげの髪型をしており、元ネタの存在を抜きにしても実際にいわき市内にいてもおかしくない容姿をしています。

 ちなみにその二人の劇中の活躍はというと
1・『薄暮』主人公である雉子波祐介と小山佐智が仲良しである光景を目撃する。
2・音楽部・弦楽四重奏のメンバーとして小山佐智とは関係があるひぃちゃんに上記の旨を報告。
3・文化祭に向けて夜遅くまで練習している場に現れる。
4・文化祭の音楽部弦楽コンサートの場に現れる。(注:他の出席者と同様瞬き、口パク共に一切無し)
で以上です。

 ここで突っ込み。2に関するシーンではその二人の台詞は無くひぃちゃんの一人語りの末に変に気合の入った作画での怖顔と共に終了。
 そのひぃちゃんの台詞を起こそうにもイマイチ聞き取り辛く、また原作小説には該当するシーンが無いのでこれ以上の解釈は無理。というか3からするにその二人も音楽部メンバーでしょう。本番に向けて切羽詰まっている最中に部外者を入れての「音楽部見学会」はしないでしょう。
 にも拘わらずひぃちゃんと会話交すことがないのはなんなのだろうか・・・。

【3】『らき☆すた』からのパロディ

 当方連載第102回に書いた通り鹿野草平氏作曲『吹奏楽のためのスケルツォ 第2番 «夏»』を語るには『らき☆すた』主題歌である『もってけ!セーラーふく』の存在抜きにはできません。
 かつその上で『もってけ!セーラーふく』の作曲者である神前暁氏の存在は
「無かったこと」にされました。
 『らき☆すた』原作から独り歩きした出来事なのでパロディではありませんが、これだけは。『薄暮』挿入曲として登場するシーンは10秒以下であり、そして大好評の「佐智のモノローグ」で音楽がかき消されました。お店のBGMとして流れるのならば店員・客らの会話で聞き取り辛くても仕方ないけど演奏の場で「声」を入れようとする発想が何か変。

 ・・・挿入楽曲がこのような扱い方をされれば次からのオファーは「お引き取り願います」となっても仕方ないというのに

山本監督の次回作にも快く参加してくれたほどの鹿野草平氏の「いいひと」ぶりには涙が出ます。

【4】『涼宮ハルヒの憂鬱』からのパロディ

https://oldmacuser.blog.fc2.com/blog-entry-571.html

より

「ハルヒ」キャラクターである長門有希が終盤の文化祭のシーンで出てます。
文化祭の長門有希コスプレ設定で通るんですかね?
原作小説に長門有希コスプレするキャラが描かれていれば良いのかもしれませんが、ないのでは?

 上記引用文が今回のnoteを書こうと思ったきっかけです。先ず該当するシーンについて整理

・長門有希と同様の衣裳を身に着けた女子が5人
・ハルヒシリーズの主要人物が通う県立北高校制服を身に着けた男子が3人

 まあ後者の方々は別の高校からやって来た人として納得できます。問題は前者。一人だけがコスプレするのは解りますが全員が同じくするものですか?
 普通に考えれば文化祭で来場者応対を行っている人々は出展する側のため昌平高生徒です。また高校生ができるのはせいぜい衣裳を用意することぐらいでしょう。しかし、緑・茶色の髪にしたという人もいるほどの気合の入れ方。
 こんな文脈の中悪いですが追い打ちを。これまたシーンの尺への追及。ハルヒパロディに該当するシーンは3秒以下です。

第一部のまとめ

 本稿はパロディを全網羅する趣旨ではない但し書きとともにここでまとめ。
 山本寛監督作品からのパロディをふんだんに取り入れるのはまあいいとしてもその大半が短く、有効に機能しているとは言い難いものです。そしてここまで書いた上で思いました。「パロディにする意味無いんでね?」と。
 昌平高生徒として理解できる【2】以外は思い切ってシーン自体を削っても話の理解に支障は無いし、【3】に至ってはモノローグによる権力で吹奏楽部が体育館を占拠してしまったことになったのだろうと。
『弦楽四重奏曲第14番 第7楽章』を演奏披露するため多く見ても10分程度の時間すら譲れないほど吹奏楽部が頭の固い人々だと思う私はひねくれものです。

 そして更にまた書きます。私からの『薄暮』への率直な感想は「人のいない世界。」
アニメ『ラブライブ!』シリーズが「男のいない世界」と評されることを受けてのもの。
 確かに『薄暮』では授業を受けるシーンがあり、またサッカーを行う人々の遠景が出ていた等例外もありましたが、オープニングの後にいわき駅に佐智しかいないシーンが出ていたことから初っ端からつまづいた印象を受けました。その後も校内の場面なのに後ろ姿でもモブキャラはおらず単なる一枚絵背景の垂れ流しに終わるシーン等観客への淋しさが増長してもおかしくありません。
 再度最初から見直すと序盤にあった佐智の迷言
「私がこの高校生活で一番気に入ったのは、帰り道。」
と共に田園地帯でも定期的な農作業を行う方々とすれ違うことすら無い光景から私はトドメを刺されました。

 昌平高内では弦楽四重奏メンバーと僅かに部長が登場した程度に過ぎないほど学園ものにしては寂しい雰囲気によって話が展開したのが『薄暮』です。しかし文化祭にはいつの間にやら校内生徒の姿がいくつか。邪推で言えば「偉大なる山本寛監督作品からのパロディシーンですよ~!どうぞ盛り上げるためにやって来てくださ~い。」
 と普段は人通りが少ない場所を舞台にした実写物でのエキストラ募集依頼を思い出すようです。

(第二部につづく)

(謝辞)記事引用の許可を頂けた
「ヤマカン関連の覚え書き」(https://oldmacuser.blog.fc2.com/)
著者・昔マック様に感謝致します。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?