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「ママの小さい頃」

「ママと小さい頃」というタイトルのエッセイ集。

母方のおじいちゃんが付けていた日記を文字にして製本したものだ。
そういえば何年か前に祖父に貰ったなと、大掃除をしていて思い出す。

「ママ」というのはわたしの母親のことで、「小さい頃」なので、"ママ"が3歳の頃から始まる。
わたしの母親を"ママ"と呼ぶのは紛れもなくわたしなので、つまりそれはわたしに宛てられたエッセイ集ということになる。


筆者→祖父
鮎→祖母
由紀→母
ふみ子→叔母

◯昭和51年8月29日

私が黙っていると「おとうちゃんのはずかしがりや。」と言って鮎とスタスタ行ってしまった。


◯昭和55年1月8日

ふみ子はふとんに顔をふせながら、
「じゃあ、こうしているからやって。」
と、あきらめなかった。

◯昭和58年1月2日

母と娘の新しい関係の出発、いや、親と娘の新しい出発を意識しながら、私は少し緊張した。

◯昭和58年5月5日


お母さんが手を繋いで歩こうと言って2人で手を繋いで歩いた。
お父さんはなんとなく照れくさい。
お母さんはお父さんの心のうちを完全によんでいる。

◯昭和60年3月10日

ふみ子の声。
「おやすみなさい。」
父さんが
「おやすみなさい。」とこたえたら、ふみ子は、
「今、トシちゃんに言ったんだ。」

◯平成4年5月3日

私は、3日前の腹痛が気になり、「本日をもってタバコを吸わないことにした。」と言ったら、鮎が
「やってから、言ってください。」と言った。

わたしがおじいちゃんがタバコを吸っているのを1回も見たことがない。本当にこの日を境に辞めたのだろうか。



随分と日が空いてわたしの母親は就職し、叔母は結婚し、そしていとこが生まれている。

◯平成11年5月31日

そして、

◯平成13年3月21日

「まだ、名前がついていないあなたへ」

まもなく四時になります。
実は、今日、私と祖母の結婚記念日なのです。その日にあなたが生まれて、あなたの祖母はあなたと一緒に病院へ、私は1人でウイスキーを飲んでいる。あなたをめぐって今までにないことを体験しています。あなたの出生は、それほど重いのです。
お誕生、おめでとう。


わたしは秋田にいる祖父に電話をかける。

「おお、真由ちゃんか〜、声が似てるから由紀ちゃんかと思ったよ〜」

と毎回お馴染みのセリフを言う祖父の声、
電話越しにその白髪混じりの頭、歳の割に若くてはっきりとした顔と、
そんな祖父を呆れたように笑って見つめる祖母を想像する。



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