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「これから」が「これまで」をつくる:アストロスケール岡田光信さんとの対話

"DHBR Fireside Chat" Podcastの第2回目のゲストは、「宇宙のゴミを掃除する」事業を展開するアストロスケール創業者・CEOの岡田光信さん


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岡田さんとのご縁は約20年前、マッキンゼーで働いていた時まで遡ります。私は新卒、光信さんは財務省主計局からの中途での入社。プロジェクトでご一緒したことはありませんでしたが、なんとなく親近感を覚えて(彼に対して親近感を持たない人はいないのですが...)仲良くなり、互いにマッキンゼーを離れた後も、時々近況を報告しあったりしていました。

すっごく優秀で、でもそれ以上にものすっごい大きなハートを持っている人。官庁から経営コンサルティング、海外ビジネススクール留学、IT企業の経営、投資ファンドと、いろんな分野を渡り歩き、話を聞くたびにすごいなあと思っていました。気づけばシンガポールに住んでるし。でも、岡田さんは既存の様々な組織を転職するという中におさまりきらない人なんだろうなと、どこかで感じていたのも事実です。

そんな岡田さんがこれからの人生をどう生きようか迷っていた40歳の時に出合ったのが「スペースデブリ(宇宙ゴミ)」問題。この超難題の解決に取り組むために立ち上げたのがアストロスケールです。

そんな大きすぎる問題、どうにもできないのでは、という多くの人の疑念をよそに、宇宙ゴミ除去の技術を開発し、衛星を打ち上げる企業との連携を深め、錚々たるメンツがあつまる世界の宇宙業界の中枢に食い込み、会社をグローバルな企業へと育て...今年の3月には世界初のデブリ除去衛星ELSA-dの打上げ・軌道投入に成功されています。

第一回のゲストの禅僧の藤田一照さんから、10歳の時に見上げた星空から人生の問いが降ってきた「星空体験」のお話を伺った時、なぜか岡田さんの顔が浮かびました。

一照さんは、非常に個人的な問い、でもだからこそ人類普遍の問いを星空から受け取った。岡田さんは、「宇宙をきれいにする」という人類の課題を宇宙から受け取った。そこに何か共通するものがあるように思ったのです。

このPodcastはあらかじめ計画を立ててそれに沿って進むのではなく、毎回のインタビューに私たちも没入し、そこから立ち現れてくるものを深々と味わい、そして見えてきたものに従って動いていく、というスタイルをとっています。一照さんとのお話の中で思い付いてしまったので、第二回のゲストはもう岡田さんしかいない!ということでお願いして、受けていただきました。

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「コモンズの悲劇」を事業で解決する

宇宙空間は「コモンズ(Commons, 共有資源)」です。誰でもその空間や資源を利用してよい、その代わり構成員が共同で管理する、というもの。

ここで起きるのが「コモンズの悲劇」。共同で管理・維持すると言えど、明確な責任を持つ人は誰もおらず、そこでの行動に罰則を課す権限も誰も持っていないとなると、結局誰も管理・維持しないということになります。利用者が増えてくると、ゴミは増え、資源は枯渇していき、最終的にはコモンズ自体が利用できなくなるところまでいってしまう、という問題です。

そして宇宙で今まさに「コモンズの悲劇」が起きつつあります。国や企業が打ち上げる衛星の数が増えるにつれ、利用されなくなった衛星、切り離された衛星やスペースシャトルの部品など、宇宙ゴミが増えてきている。でも、宇宙環境の整備に責任を持つ機関はなく、ゴミを出したとしても責任は問われないため(そもそもそのゴミがもともと誰が打ち上げた衛星だったかなんてわからない)、ゴミは処理されずに宇宙空間を漂い続け、ゴミ同士が衝突してさらなるゴミを生みますます衝突しやすくゴミが出やすくなる、という事態になっています。

このまま何もしないと、指数関数的にゴミが増えて、地球は宇宙ゴミがぐるぐる回っている壁に閉じ込められ、人類が宇宙というコモンズを使うことすらできなくなっていくかもしれません。

市場に任せるだけではだめ。でも世界統一政府といったものがないので公共の力も届かない。宇宙ゴミは、市場や政府という人類がこれまで生み出してきたシステムでは解決できない、人類にとっては未到の問題。これを解決しよう、というのが岡田さんの創業したアストロスケールです。

ちなみに私がハーバード・ビジネス・スクール(ハーバード大学経営学大学院、HBS)で働いていた時、「コモンズの悲劇」に取り組む企業はないか、あるならその企業のケース(教材)を書きたいという教授がいたので、岡田さんのアストロスケールを紹介し、アストロスケールがHBSのケースになりました。今でもその教授の授業で使われています。

体が勝手に動いていた

男子校に通う「もさもさした」高校生の頃、NASAのジュニア向けプログラムに参加し、毛利衛さんなどそこで出会った人々のかっこよさに感銘を受け、そこから心を入れ替えて勉強するようになったという岡田さん。

40歳となり、これからの人生をどう生きていけばいいか迷っていた時に、「宇宙というもの出合った時、自分はぴしゃ!としたなあ」という記憶が蘇り、今宇宙業界で何が話題になっているのか、徹底的に調べ始めました。その時たまたま、スペースデブリ(宇宙ゴミ)についての4年に一度の専門会議が4月後半にドイツで開かれることを知り、ドイツに飛びました。

そこでわかったのは、宇宙ゴミは本当に深刻な問題、でも誰もまだ解を持っていない、ということ。

昼休みに会場を抜け出して近くの文具店へ行き、そこでアルファベットを並べながらASTROSCALE(アストロスケール)という社名を考え、astroscale.comのドメイン名を取得。そしてシンガポール帰国後の5月4日に会社を登記。宇宙ゴミという問いに出合ってからわずか2週間足らずで創業、というとてつもないスピード感です。

この間、考えて動くというよりは「体が勝手に反応して動いている」感じだったそうです。

NASAや欧州宇宙機関といった才能もお金も溢れているところですらまだ解けていない人類の問題に、ただの一個人として、しかも事業を通じて解決する決断をするというのは、外から見たら「ひゃー、そっちへ行くの?!」とどきどきしちゃう話です。

でも、一照さんのお坊さんへの転身のお話もそうでしたが、そうした大きな決断も本人にとってはいたって自然、むしろ「そっち」一択、ということなんだなあ、と改めて思いました。

これからがこれまでを決める

コモンズの悲劇とは、市場も政府も今のまま動いていたら解決できない問題です。逆に言えば、今ある市場・政府の力をフルで使って、その上でいろんな新たな工夫をしていく必要がある、ということでもあります。フルで使うには、市場についても政府についてもわかっていないといけない。

デブリ除去の技術の研究開発、それを実現するサプライチェーンマネジメント、衛星を打ち上げる企業との連携、前例のない分野でのビジネスモデルの確立、それを支える資金調達、組織作り、NASA・欧州宇宙機関・各国政府などへの働きかけ...戦線があらゆる方面に広がるわけです。

そうなった時、岡田さんの一見バラバラなキャリア、財務省、経営コンサルティングを経て、事業会社の経営・再建に携わり、ビジネススクールで勉強して、投資ファンドでも働く、というすべての経験が生きてくる。

岡田さんは「これまでがこれからを決めるのではなく、これからがこれまでを決める」とおっしゃっていました。

人生って、これまでこういうことをやってきたからこれをやっていく、ということではなくて、自分はこれをやるというのが決まった時に、これまでやってきたことが全て意味を持つ、ということなのかな、と。線にすることをあらかじめ決めて点を打つのではなく、振り返れば結果として点がつながって線になっている。

岡田さんは、その時その時の仕事に真剣に向きあい、でもそこに自分の人生をかけるのは違うなと思って、別の仕事へとうつる。それを何度か繰り返し、40歳になって、さてこれからどうするのか、と本気で自分に問いかけたタイミングで、「宇宙ゴミ」という、これまでの機関や仕組みでは解決できない問いに出合った。その瞬間に、これまでの全ての経験、そして魂や情熱といった「全」岡田さんが発動したのではないか、と思うのです。

だからこそ、頭でいろいろ考えることなく、体が勝手に反応して動いた。そして、創業して8年、技術開発、組織作り、「使った宇宙はきれにしよう」という世界レベルの意識醸成、事業化など、あらゆる方面から難易度マックスの球が投げ込まれても打ち返し続け、前に進むことができているのだと思います。


一照さんの回に続いて、学びと感動いっぱいの最高の時間でした。そしてその歩みを友人として見守ることができるってなんて幸せなんだろう、とも思いました。

ぜひ岡田さんの人類の課題への挑戦、そしてその味わいある人生の物語を聴いていただけたらうれしいです。

DHBRのサイト、またAppleやSpotifyなどのPodcastのプラットフォームでDHBRと検索いただけたら、そこからも聴けるようになっています。

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Nobu Okada

1973年生まれ。兵庫県出身。東京大学農学部卒業。米国パデュー大学クラナート MBA修了。 スペースデブリ(宇宙ごみ)の観測・除去、軌道上サービスに取り組む世界初の民間企業アストロスケールホールディングス(Astroscale Holdings Inc.)創業者兼CEO。国際宇宙連盟(IAF)副会長、英国王立航空協会フェロー(FRAeS)、世界経済フォーラム(ダボス会議)宇宙評議会共同議長等を兼務。

大蔵省(現財務省)主計局勤務後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて経営コンサルティングに従事。その後IT会社ターボリナックス社をはじめSUGAO PTE. LTD.等、IT業界で10年以上グローバル経営者として、日本、中国、インド、シンガポール等で活躍。高校1年時に、NASAの宇宙飛行士訓練プログラムに参加し、「宇宙は君達の活躍するところ」という手書きのメッセージを毛利衛宇宙飛行士からもらう。以来、宇宙への想いを胸に創業に至った。現在も日本を拠点に世界を飛び回る。

米国パデュー大学の150周年祭典では、卒業生起業家として「Burton D. Morgan Entrepreneurship Award」を受賞した他、Forbes JAPANが選ぶ「日本の起業家ランキング2019」 第1位、過去BEST10に3度選出された起業家として、歴代殿堂入りを果たした。その他、Space News 2020リーダー・オブ・ザ・イヤー(Small/Medium Business部門)、ネテックスプロ2020 グランプリ受賞、世界経済フォーラム(ダボス会議)テクノロジーパイオニア賞2017、ファストカンパニー社「世界でもっともInnovativeな会社Top10」、グッドデザイン賞2016、APEC Global Innovator Award(2015) 等、数々を受賞。また、アストロスケール社の事業モデルは、ハーバード・ビジネス・スクールの教材として2回選出されている。著書に『愚直に、考え抜く。』(ダイヤモンド社)


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