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男子育休のススメ

「ススメ」とか言われても、うちの会社じゃとれないんだよ!とおっしゃるかもしれません。確かに、日本の男性育休取得率は2.65%(厚生労働省2015年度調査)。これでも過去最高です。しかもその内訳はというと、5日未満が6割。それって育休というか単なる有休なのでは...産後5日未満だと女性はほぼほぼ入院しております。つまり、がっつり育児にとりくむ長期の育休を取っている男性は、まだほんのわずか、というのがこの国の現状です。

でももしかして、本当は取ってみたいけど、実際取ってみたらどんなことが起こるのかよくわからず、わからないことをリスク取ってまでやらなくてもいいか...という気持ちがあって、取っていない方もいるかもしれません。男性がまじな育休を取るとどんなことが起こるのか、夫が4ヶ月育休をとった実体験から書いてみたいと思います。基本主張は「男性が育休をとるのは、本人にとっても、パートナーにとっても、そして社会にとってもよい!」(N=1)です。

と、その前に、本当に「うちの会社じゃとれない」のか。これは、ご存知かと思いますが、嘘です。労働者は法律によって、1歳未満の子どもがいれば「男女ともに」育休を取る権利を有しており、1年以上働いているなど要件を満たす労働者が育休取得を「申し出た」場合、事業者はそれを拒否することはできません。しかも男女が共に育休を取った場合は「パパママ育休プラス」という制度があり、育休を合計で1年2ヶ月まで延ばせます。女性が1年の育休を取っても、男性は「会社に申し出れば」2ヶ月までは取れるということです。(注:保育園に入れなかった場合は、最長2歳まで延長できます。)

もちろん権利があるのは知ってるよ。育休を取れる「空気」がうちの会社にはないんだよ...ですよね。でも、「空気」って、案外自分を含めた少数の人たちの行動で、ふっと変わったりするものなのかな、とも思います。夫も同世代の同僚、しかも社内でさわやかに活躍している人が2ヶ月の育休を少し前に取っていたのが、大きかった。そして夫が4ヶ月取ったことで、他の人もさらに取りやすくなってきている、はず。

あ、あと、給料が、という心配もあるかと思いますが、育休取得前6ヶ月の残業代込みの平均給与の67%(6ヶ月以降は50%)が雇用保険で補填されまして、かつ社会保険料などは控除されるので、額面ではほとんど変わらないかも。

前置きが長くなってしまいましたが、男子育休によって何が起きるのか。まとめてみます。

① 育児スキルに男女差が生まれない 

初めての子どもの場合、だっこ、オムツ替え、ミルク作り、沐浴、あやしなどなど、ベビーにまつわる全てのことは、女性にとっても初めて。つまり最初は男女間にベビー扱い能力格差はありません。この段階から一緒に育児に関わると、能力が同じぐらいのスピードで高まっていきます。むしろ力がある男性の方がうまくできることのほうが多い。だから安心して任せられる。任せられることでますます能力は磨かれる。母親にしかできないことなんて、母乳育児の場合の授乳ぐらいだなあ、ということを日々実感しています。

一方、この時期にあまり男性が育児に関与しないと、日夜ベビーと過ごす女性との間に能力格差が生まれ、「任せると不安だから、自分がやってしまおう」と女性がやり続け、さらに能力格差が増大するというループに入ります。そして、ループが回るのと同時に女性側のストレス度も増大する。

もちろん途中からだって、ある程度腹を決めて男性に任せる、とかやれば、能力格差の是正は可能かもしれません。でも最初から能力が同等であれば、自然と男女ともに育児に主体的に関与するようになっていきます。うちは「ご主人(注1)が協力的なんだね」と言われると、「協力してもらっているとか、サポートしてくれる、とかじゃなくて、そもそも二人でやってるからなあ」という感じで、違和感を覚えるぐらいです。

注1:主人、旦那、という言い方には反対ですが、「夫」のニュートラルな敬語表現が思いつかないので、ここではよく言われる呼称を書いています。

② ベビーがより可愛く思える

夫を見ていると、ベビーと時間を過ごす程に可愛さをより感じているようです。生物学的なことはわかりませんが、親子であることをもろに物理的に感じる経験をしている女性より、時間をより長く過ごすことで可愛さが増す、というのは、男性の方が傾向が強いのかもしれません。

どんどん可愛く思えてくるから、育児に関わる全てがやらなきゃいけないタスクではなく、むしろ楽しい日々の小さなイベントのようなものになっていく。オムツ替えなんかも、毎日やっていると、毎回の変化がわかるので、「今回はどうかな」と思ってむしろ替えるのが楽しくなったり。かける時間そのものが大切なものになっていきます。

そしてこれは女性にも返ってくる。いくら可愛くても、一人で一日10回オムツを替えてたら「あー、またうんちした...涙」と思ってしまうのは当然。二人でやっていると、純粋に一人当たり交換回数が半減することもあり余裕が生まれるため、「あー、またうんちした!」と、女性にとっても日々の楽しいイベントと化していきます。

③ 朝から晩まで夫婦で一緒に過ごすかけがえのない時間となる

社会事業をバリで経営している尊敬する知人。彼は奥様(注2)と事業を立ち上げ、現在も共同経営者として働いています。バリ訪問の際に、オフィスと自宅を訪問させていただき、仕事場では共有する理念のために働き、5時になったら一緒に車で家に帰り、家に帰ったら料理してお子さんとご飯を食べる、という姿を見て、「なんかいいなー」と思いました。かけがえのない人生を本当に一緒に創っている感じが。

注2:主人、旦那と同様、奥様という呼称には反対ですが、「妻」のニュートラルな敬称表現がわからないので便宜的に使用。

育休は、夫婦が共同経営者として事業をやるのと少しだけ似ていると思います。朝から晩まで一緒に過ごしながら、ベビーのケアという共通の目的を持って、もろもろの仕事を得意分野に合わせて役割分担してこなしていく。どっちかが動けなくなったら、もう片方がいつも以上に動いて、穴をあけないようにする。そしてベビーの成長を共に喜ぶ。

うちは「どすこい」ベビーでえらく落ち着いているため、今までえらそうに書いてますが、実はそんなにやることがなく、夫婦でHuluの24を全シーズン観てしまった!という感じで、単に一緒にだらだらしただけだった気もしますが...あと、行きたい場所に行きたい時に家族総出で行けます。生後5ヶ月時点で、飛行機3往復、新幹線1往復してます。そんなことできるの、育休中ぐらいかと。本当に贅沢な、密度の濃い4ヶ月でした。

結論:男子育休は女性をハッピーにする。それが世界を明るくする

ワンオペ育児を描写したおむつのCMが話題になりましたが、ベビーがいて自分一人だと、お風呂に入るとかトイレに行くなんてことすら、かなり難関。そりゃ、ストレスたまります。そこにもう一人誰かいてベビーを見てくれるだけで、別に何もしなくても、精神的に圧倒的に楽になるのです。さらに書いてきたように、能力格差が生まれず育児が完全共同作業になるため、物理的にも楽になる。だから日々ハッピーです。男性の育休は、女性を幸せにするのです。

あと、男性の育休は、社会のためにもよいです。私は在職していればこれから産休という絶妙なタイミングで退職して独立したため(単なる人生予想ミス)、産休も育休もなく、産後1ヶ月半後ぐらいから執筆や講演・講義などの活動を再開していました。夫が育休をとっていなかったら、ほぼ何もできなかったと思います。

ハーバードビジネスレビューの6月号に東日本大震災の被災地、宮城県女川町が震災後どのような変容を遂げたのかということについてまとめた「復興を超えた社会エコシステムの創生」という論文を掲載していただいたのですが、それも私の取材に付き添って家族総出で東北に行ってくれたから、そして夜中にひーひー言って書いている間ベビーを夫が見てくれたから、書けました。論文を読んだ時、夫が「これは多くの人が読むべき論文だ。育休をとってよかった」と言ってくれたこと、一生忘れません。夫の育休のおかげで、自分の力をしかるべき形で社会に使い続けることができました。

それと、肝心の本人ですが、男性の育休は男性のためにもよい(はず)です!ある5000世帯・18000人以上のデータに基づく学術研究によると、妻の幸福度は夫の幸福度と無相関だけれど、夫の幸福度は妻の幸福度と相関する、という結果が出たそうです。つまり、夫は妻がハッピーなら自分もハッピー、なんだそうな。学術的に。(Deborah Carr "Happy Marriage, Happy Life? Marital Quality and Subjective Well-being in Later Life" Journal of Marriage and Family 2014)

最後になりましたが、夫に「育休とってどうだった?」と聞いてみました。

「とてもよかった。○ちゃん(娘の名前)とはすっかり仲良しで、顔見て笑ってくれる。仕事以外の自分の人生を考える時間もできた。映画(Hulu)もたくさん見れて、ピアノもめちゃくちゃ練習できたし。あと二人でこれだけ時間を一緒に過ごせることなんて、人生でもうないだろうし」


ということで、まとめ再掲。

「男性が育休をとるのは、本人にとっても、パートナーにとっても、そして社会にとってもよい!」

ということになります。会社にとれそうな「空気」が少しでもあったら、ぜひがっつりと育休を取ってみることを、一人でも多くの方が検討してくれたら、うれしいです。





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