「B面の私」はコロナ禍でもタフで優しい
昨年11月に出版した拙著、
『世界一かんたんに人を幸せにする食べ物、それはトースト』が、おかげさまで好調です。増刷が決まりました。
ありがとうございます！！！
声を大にして感謝の気持ちをお伝えしたいのは、
本が売れていることに対してだけではありません。
私が、料理家でもない、単なるフリーランスのディレクターであり
特に料理の技術や知識、確固たる信念なども持ち合わせない立場なのに
このようにエキサイティングな体験ができるなんて、
心から感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。
再度申し上げると、私の本業はディレクション業です。
新規レストランのオープンにあたって、シェフや器ブランドをつなぐコーディネーションを行ったり
ライフスタイルブランドや飲食ブランドの動画やカタログを作ったり
その合間に、飲食のトレンドを探し求めて夜な夜な食べて飲み歩く（今はダメですけどね）のが日常。
しゃかりきになって時間に追われ続ける私にとって、
そんな自分の“ご機嫌”を取るために、朝ごはんだけは楽しくしよう、
そう思ってやり続けているのが、トーストアレンジ。
いわば、「B面の山口繭子」が適当に趣味でやってることだったのでした。
コロナ禍が収束せず、飲食店は軒並み時短営業を余儀なくされ、
しかも、緊急事態宣言がまた発令されちゃったもんですから
「A面の私」のスケジュールはもう、めちゃくちゃです。
出張の予定が跳び、打ち合わせはよほどでない限りリモートになり、
プロジェクトが延期になったりイベントが中止になったり、
いやそんなことは別にもういいんですが
何よりも辛いのは、大好きなレストラン巡りが制限されるようになりました。
もっと辛いのは、お世話になっている飲食店の方々が
難しい表情を浮かべていたり、たぶん本意ではない営業形態（テイクアウトを激安で始めるとかね）に乗り出したりしてること。
コロナ、いつかは絶対に終わる
とわかってはいるけれど、
A面の私はけっこう生真面目なところもあるもんですから
この状況には、なかなか心を悩ませております。
海外案件はどうなるかな、来月のロケは決行できるかな、あのお店は大変そうだけど持ち堪えるかな……と、
考え始めたらキリがありません。
その一方で、朝遅く、ボサボサ頭で起きてきて
メガカロリーのフルーツやはちみつをどっさりトーストにのせて
テレビ眺めつつもぐもぐ食べているB面の私。
それだけで、簡単に元気がチャージされてしまうのが不思議です。
思えば去年の夏前、サンマーク出版の担当編集・池田るり子さんからご連絡をいただいた際も
そ、そんな、B面の活動を本にするだなんて……
と、最初はひるんだのでした。
つまり、
そんなことをして、A面の本業に差し障りは出ないだろうか、
プロの料理家やシェフの友人たちから「なんだコイツ」と思われないか、など
私なりに、ちょっとだけ躊躇したんです。
が、担当編集池田さんのご意見は明解でした。
トーストもディレクション業もどっちも繭子さんだし、「こんなこともやってるんです、えへへ」くらいの態度でいてもいいんじゃない？ と。
逆にこれをきっかけに新しい世界にも踏み出しちゃえ！と背中を押され、
そうかな、そういうのもありかな、でもどうせコロナで時間あるしまぁいいか、と、
外に子を出す親のような気持ちで、A面の私は、B面の自分が初めてトースト活動を趣味ではなくお仕事として取り組むのを決断したのでした。
それが今、B面のくせに予想外の頑張りを見せ始め、
ちょっと、自分でも驚いているんです。
採算とか納期とかKPIとか、そんな言葉を口にすることもなく
これ、美味しいですよ〜
誰にでもできます。子供でも！
などというユルいやりとりをインスタで交わす、B面の私。
メディアの方々からの取材依頼も、ありがたくお受けしています。
これまではメディア側としてお願いする立場だったのに
受けるとなると、不慣れだわ話すの下手だわで大変ですが、
それでも、楽しい。
おいB面、やるじゃないか！
こんなことになり、改めて他にも「B面の自分」を持つ人っているよねぇと思い始めました。
元ドラゴンズの山本昌投手は、ピッチャーとしても素晴らしい活躍で知られましたが、ラジコン好きでも有名で、ラジコンマニアとしても活動されています。
飲食の世界でも。二つ星を持つ人気和食店「傳」の料理長、長谷川在佑さんは、大の釣り好き。まさに「料理業界の釣りキチ三平」で、仲の良いシェフ仲間や業界外の方々とも、釣りが縁で新たな展開を様々されています。
一生懸命、ひとつの道を追い続けるのが美しい。
……という日本ならではの思想に異を唱える気持ちはありません。
が、こんな時代に常に自分をニュートラルな状態に置き、ご機嫌に過ごしてもらうようにするためには
B面の自分を持つこと
って、大事なんじゃないかなと思います。
ある日突然、意外な働きを見せ始めるかもしれないB面の私。
非常事態でも自分のテンポを失うことのないB面の私。
景気に左右されることなくご機嫌なB面の私。
あなたには、B面ってありますか？
フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。