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お節介なおばさんと記念写真

梅の蕾もちらほらと膨らんで来た心地よい午後。
彼女は立春を前に近くの神社にお参りに行った。

かつては子供の七五三でお参りしたこともあるその場所は、彼女にとってパワースポットのひとつだった。


神社の入り口には大きなお多福。
節分、立春の時期だけお多福が現れる。
参拝者はこの口をくぐって参拝するのだ。

だからこの日も写真を撮ろうと多くの人がお多福の前で立ち止まっていた。

彼女がお多福の口をくぐって帰ろうとしたらちょうど写真を撮ろうとしている人たちがいた。

彼女が見る限り
ひとりはおばあちゃん。
ひとりはその娘さん。
ひとりはその娘さんの赤ちゃん。
親子三代でお参りに来たようだった。

おばあちゃんが孫を抱っこしてお多福の前でポーズをとっていた。
お母さんがその2人をスマホで撮っている。
その様子をお多福から少し離れた場所で見ていた彼女は、写真を取り終わったタイミングでお母さん声をかけた。

「せっかくだし3人揃った写真をお撮りましょうか?」

彼女は昔からお節介。
こんな場面に出くわすとつい声を掛けてしまうタイプの人だ。

お母さんは赤ちゃんをベビーカーに乗せようとしていたが、その言葉を聞くと自分のスマホを彼女に手渡した。
おばあちゃんが再び孫を抱っこする。
その横に立つお母さん。

お多福の横に親子三代。
しかも女性3人。
大人2人はスマホに視線を向けるが赤ちゃんだけはそうは行かない。

するとスマホを構える彼女の背後でパンパンと手を叩く音がした。
彼女が振り返ると一人の女性が赤ちゃんの視線をスマホに向けようと手伝おうとしているようだ。

彼女の知り合い?でもない。
ただの通りすがりの女性だ。

スマホを構えながら彼女が声をかける。

「お母さん、マスク外して撮りましょうか?」

(あ!)
と気づいたお母さんはマスクを外すと口元は飛び切りの笑顔になった。

ただ問題は赤ちゃんがカメラ目線にならないこと。

縦向きのアングルで1枚。
横向きのアングルで1枚。

この季節にしか取れないお多福との記念写真。
お節介なおばさん2人が関わった記念写真。

通りすがりの女性も一緒になって必死にカメラ目線にしようという努力も虚しく、撮影は終了した。


お母さんがお礼を言いながら駆け寄る。
おばあちゃんもお孫さんを抱っこしながら「ありがとうございました」と近づいて来た。
手を叩いていた女性も加わって女性4人で話しが弾む。

「何ヶ月ですか?」
「6ヶ月になります」
「可愛いですね」
「娘さんはカメラ目線になってないかも〜」
「いえいえ良いですよ〜」

赤ちゃん以外はマスク姿。
全員口元は隠れていたけど
みんな笑顔に違いなかった。


昨年生まれたばかりの赤ちゃんが迎えた初めての立春。
おばあちゃんにとっては初孫さんだったのかしら?



彼女は昔からお節介…。
子育てママに決まって掛ける言葉がある。

「ママもお身体大切にして下さいね」

お母さんがまず誰よりも心身共に健やかでありますように。
じゃないと余裕ある子育てって出来ないと思うから。
そしてそれは余裕のない子育てをして来た彼女自身の祈りでもあった。


お母さんは笑顔で
「ありがとうございます」
と答えた。


立春が終わった。
彼女の街を彩る花は
ゆっくりとしかし確実に
梅から桜へと変わって行く。




読んでくれてありがとう。
しあわせをありがとう。
出会えたご縁に感謝します。


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