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舞台『ホールマン』を終えて

2020年12月3日〜13日。
@三栄町LIVE STAGE

本田明紀奈プロデュース
舞台「ホールマン」

10日間、全14ステージ。
長かったようで短かった、濃密な時間を今年最後に過ごすことが出来ました。

このご時世なので、2週間経った今、やっと無事に何事もなく終えられたと言えます。

ことのきっかけは、今回初演出であった本田明紀奈さんからお声かけ頂いたのが始まりでした。
前回の記事にも少し書いた通り、明紀奈さんとは昨年の11月に「ヘッド本」という朗読劇に共演してからの縁となります。
その時も私は"人前で朗読劇をする"ということは初めてで、演技経験のある方々の中にぽいっと放り込まれては死に物狂いで稽古をした記憶はまだ新しいものです。
今回もまた演技経験の長い方々の中にぽいっと投げ込まれ、まさかのヒロインを務めるという責任重大ぶり。
明紀奈さんに声をかけて頂いた時、正直なところ、私に出来るのだろうかと不安はとても大きかったです。でも、演技経験の長い明紀奈さんが、ヘッド本で共演した明紀奈さんが、私に「是非」とわざわざ声をかけてくださったのなら、私はその期待に応えるべきで、なにより可能性を見出してくれたのではないかと思い、出演することをすぐに決めました。



[11月11日 初顔合わせ]
役者の中には知っている人は誰一人おらず、みんながどんな人でどんな演技をする人なのか、とても楽しみでした。
本読みの時点で、役者陣の実力が高いこと、物語が面白いことを実感しました。
これは…足を引っ張れない…!吸収できるものはなんでもしてやろう…!と負けず嫌いの性格が疼きました。
緊張と不安とワクワク感とやる気と。これからいよいよ稽古が始まるんだ…!と色んな気持ちが交錯した瞬間でした。



[11月17日 稽古初日]
この日から2週間みっちり稽古をしました。
「人の指摘も自分にされていると思って取り組もう」とやる気だけは人一倍ある自信はあったのですが、全くの演劇舞台初心者はどんな風に稽古が進んでいくのかすら分からず…。見様見真似でやっていきました。

まずはみんなで台本を持ちつつ、動きを確認していきました。どこから入って出ていくのか。舞台の小道具(椅子やテーブル等)はどう動かしていくのか。

私は幼少期から10年間バレエを習っていたので、なんとなく舞台のどこにどう立ったら全体の見栄えが良いかの感覚はありました。
ですが、バレエは喋らないし、日常生活のようには動きません。
全く動き方が分かりませんでした…。
「この手は今どこにあったら不自然じゃないんだ…?」
とにかく手が迷子。
救いだったのは記者役だったのでペンとノートをほぼ終盤まで持てたということ。
だから尚更、雑誌記者ナタリーが主人公ドーリンに詰め寄っていくシーンでペンとノートを置いた瞬間、手のやり場が分からなくて。
稽古で復習用に動画を撮っていたのですが、まあそれはそれは舞台初心者であることがバレバレな動きをしていて、我ながら不自然すぎておかしかったです。本番までになんとか不自然でないように修正が出来て良かった…。


稽古を進めていけば自然とみんな台詞が入っていきます。覚えていくスピードがみんな凄まじいので、焦る焦る。たった2週間で私は台詞を叩き込めるのだろうか…?!と危惧していましたが、気付けば1週間もしないうちにあっという間に台詞は入りました。自分で自分にびっくり。こんなにすぐ覚えられるものなのか?と。
それだけ役に真剣になれた、という事ではなかろうかと自分ではそう思うことにしています。


日々の稽古では細かい動きや台詞の言い方一つをとっても、どうしたら面白くなるのか、どうしたら観客の皆様にストーリーを理解してもらえるかを突き詰めていきました。
今回の舞台の物語は伏線の多いお話しだったので皆様にどれだけ伝わるか、そして、コミカルなシーンで笑ってもらえるかが勝負だと思いました。

私がやらせて頂いたナタリーという女性は先にも書いた通り雑誌記者で、売れない漫画家である主人公ドーリンが語る穴の開いた男(ホールマン)との奇妙な"これまでの全て"を共に追っていく人物。そして最後の最後にどんでん返しが待っている……という、初舞台にしてなかなかの重役。
また再演される時のためにネタバレはあまりしないようにするとして。
今回の演出では、主人公並みにほぼ舞台上にいた役だったので、私はとんでもない役をもらってしまったなと内心思いました。しかし、その分やり甲斐もとても感じました。やりきったつもりはあります。
それでも、もっともっと考えていけば、ナタリーという人物をもっと輝かせることが出来たのではないか…終わった今ではそう考える時もあります。こうすれば良かった、ああすれば良かったなど、思ったところで後の祭りなのですが、少し離れてみるとそう思ってしまう。これはもう次の機会に生かすしかない。
しかし、今持ちうる私の中のナタリーは舞台で出されたあれが全てで、後悔はありません。

ナタリーのセリフ数は序盤は多くないものの、観客の皆様と共にドーリンの話を聞いていく立場なので、頷いてみたり、驚いたり、疑問を抱いたりと、所々でツッコミを入れていきます。
そして何より演じるにあたって私が悩んだのは、どれだけ毎回新しい気持ちでドーリンの話しを聞けるかでした。
台本があって、死ぬほど稽古もしていて、話の展開も次に何が起こるかも分かってしまっている中で、どれだけ新鮮な反応が出来るか…。
反応の先回りはタブー。エスパーでもない限り人の突発的な動きを予測できるのはおかしいことだから。
初舞台の私にはこれが本当に難しかった…。



ベテランの方々からたくさんアドバイスを頂き、様々なことに気付きや学びをもらえた中でも一番はっとしたのは、
腹に落ちていない台詞は嘘くさくなること。
この時その人がどうしてその言葉を発したのか。
それが理解出来ていないと不自然な会話になるということ。
普段の会話がどれだけ無意識で、自分の意見として発しているのか。そしてそこに付随する体の動きがいかに自然なものなのか。とても身を持って体感しました。嘘がバレるのはそういうことなんだなと。(笑)
だからこそ、与えられた台詞を台詞でなくさなければならないと感じました。
それでも落としきれなかった台詞はいくつかあって。そういった台詞はやはり録音を聴いていても違和感を覚えました。
役になりきるというのは、本当に難しかったです。
正解のない世界を追求していくことの難しさを実感したし、だからこそ、ベテランの方々や演出の明紀奈さんに演技を褒めてもらえた時は本当に本当に嬉しかった。
自分の努力を認めてもらえるのはとてもありがたかったです。


[12月1日・2日 小屋入り]
稽古でもたくさん通しをしてきましたが、やはり劇場に入って音楽と照明がついたらどう変化するだろうとワクワクしていました。
今まで稽古場でしてきたことがより一層魅力的になる瞬間はやはり感動します。
それと同時に色んな問題も浮き出てきました。
やれることやれないことが分かりやすく明示されるので、それを無くしていく作業。
こんなに心から楽しい!と子供のようにはしゃぐ気持ちになったのも久しぶりでした。



[12月3日〜13日 本番]
始まってしまえば一瞬でした。
10日間、14公演もあったのに。
嵐のように駆け抜けていきました。

初日は心臓が口から出るのではないかと思うほど緊張しました。最初の公演が終わってしばらくしても興奮で手が震えてしまって。
初日は自分のことでいっぱいいっぱいで、舞台上で何が起きていたか、正直なところ記憶がありません…。そんな頭の片隅で思ったのは、皆んなもド緊張しているなということ。あんなに稽古をしたというのに、カチコチに固まっているなと新人ながら思いました。
上手くできたか否かではなく、終わった後の私は無事に終わって良かった…という気持ちでした。

2日目から不思議な程に緊張しなくなりました。
今まで稽古でしてきたことを精一杯やる。
相手の話をきちんと聞いて会話する。
それが一番大事なことだと思いました。
舞台はナマモノ。
毎日毎日少しずつ違いが出る。
上手くできなかったなと思うところも、ここは今までで一番最高だ!と思うところも出てくる。それがとても楽しかった。
次はもっと良くしていこう、気を付けよう、と思うところがあると糧になる。
そして、役者の皆んなへの信頼感も強まっていく。


千秋楽日。
これで終わりだという実感がまるでありませんでした。
稽古から数えれば約一ヶ月共に過ごしてきた仲間と今日で最後……?と。
でもA班もB班も良い終わりを迎えられたのではないかと思います。全力を出し切れたはず。
私も、みんなも。

終演後、お客様とお話しできる時間が少しありましたが、その場で感想を聞けるのはとても嬉しかったです。
私のお客様は初めて小劇場に訪れる人が多く、どんな感じなんだろう?と思いながらの観劇だった中で、面白かった!考察するのが楽しい!繋がった瞬間、鳥肌が立った…!と言ってもらえたのは嬉しかったです。
初舞台とは思えなかったよ!と言ってくれる人もいて、まだまだ役者の端くれにもなれていないと思いますが、私は頑張って良かったと心から思いました。

***

今回のこの舞台で、私はまた表現の幅を広げることが出来ました。演技をすることはこんなにも楽しいことだったと、バレエの舞台に立って以来、改めて感じました。このような機会を頂くことが出来て、幸せだったと思います。
お声をかけて頂けて本当に嬉しかったです。
私の初舞台が明紀奈さん初演出の舞台で、
「ホールマン」という作品で、
このメンバーで参加することが出来て
良かったです!


そして何より、舞台に限らず表現者というものは観客の皆様が居なくては成り立たないもの。

コロナが猛威を奮うこのご時世の中、また師走の忙しい時期の中、お時間を作ってご来場くださることが、どれだけありがたいことか。
本当にありがとうございました。
また、会場ではお会いできなかったけれど、応援のお声をかけて頂いた皆様、本当にありがとうございました。
この場を借りて心より御礼申し上げます。

感想や考察を伝えてくださるのもとても嬉しかったし、台本が良いと言ってもらえるのも嬉しかったです。
更には差し入れまでしてくださった皆様、本当にありがとうございました。
その時間まで割いてくださったと思うと心がきゅうっとなります。
この御恩は必ずや返していきます。

また、これを機に役者としても活動していけたらと思っています。
今後また舞台に立てる日が来た時には是非ご来場をお待ちしております。
その時にはシールドやマスクのない世界になっていることを願って。

またホールマンの再演があったら
観客としても観たいなぁ!


それでは。
ここまで長らく読んでくださり
ありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう。

繭乃

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