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「翁」を観る

先日のこと、大井町きゅりあんのリニューアルオープンということで、能を観に行ってきました。
今日はそのときの感想を。


「翁」を観る

能を観るのは数か月ぶりなのでうきうきします。

しかも、演目はこけら落とし公演にふさわしく「翁」と「高砂」です。

「能にして能にあらず」と言われる「翁」。
演者は上演にあたって精進潔斎し、当日は舞台裏に祭壇を設えて、舞台に上がる前に御神酒を飲み塩で身を清めるなど、演劇というよりは神事のような特別感のある演目です。

ぴんとはりつめた空気のなか、五色の揚幕あげまくから静かに演者が登場してきました。
翁役者が舞台正面にひざまづいて、客席に向かって厳かに拝礼するのを、固唾を飲んで見守ります。
「翁」を観るのははじめてとあって、期待と緊張感とでいっぱいでした。

が、しかし。

いつものことながら

とうとうたらり… と、呪文のような謡にのせて
鮮やかな青い衣の「千歳せんざい」役者が舞い、さていよいよ「翁」の舞がはじまる、となったあたりから例によって例の、脳みそをぐらぐらと揺さぶられるような感覚が…(要は眠いのです。笑)

はじめての「翁」なのに!
せっかく真正面の席なのに! と、眠気と闘う意識に、能管の高音が突き刺さります。

これが、実に、辛い。

白いお面に高雅な白い狩衣姿の翁が、いつしか自分の目にはダブって2人に見えるようになりました。いかんいかん、と懸命に眠気に抗ったものの、気がついたら翁の舞は終わっていました。

ああ… またしても眠気に負けた…

橋掛はしがかりを帰っていく翁の後ろ姿をがっくりと見送っていると、今度は三番叟さんばそうの激しい舞がはじまりました。

三番叟

いっきに目が覚めました。

翁のゆったりと荘厳な舞とは正反対に、足を大きく振り上げ掛け声を発しながら舞台上を激しく動き回る三番叟。
その激しさはかぶった烏帽子が緩んでずれるほど。
そして、この日三番叟を演じた方は、舞いながらではとても直せないと思ったのでしょう、額へとずれ落ちてきた烏帽子をばっと振り落としてしまいました。その思い切りのよさに、元々そういう振りになっているのかと思ったくらいです。
潔いな、と感心しました。

それはともかく、三番叟の舞はエネルギーが満ち満ちていて、所作の意味も言葉の意味も不明だけれども、ずうっと見入ってしまったのでした。

そうそう、衣装も素敵でした。
鶴の模様の黒い直垂、身ごろの脇からのぞく朱い小袖。
能は、装束を見るのも楽しみのひとつだと思います。

つけたり : 能の効用? 鬱気分の払拭

さて、能を見終わったあとは、頭の中のデブリがごっそりと片付いた感覚がありました。
さすが能…
で、頭がすっきりしたら謎の高揚感がやってきました(笑)
実を言うと、9月の後半あたりから心が風邪をひいたというか、ウツウツとしていたのです。秋ウツなのか初老ウツなのか、ずっと気持ちが沈んだままでした。
それがぱーっと晴れあがった感じ。
すごいな能…

人間なので、気分に上がり下がりがあるのはしかたないことです。
が、平均余命を生きるつもりならあと30年強はあるこの人生。ネガティブに傾きがちな心のクセに振り回されすぎずに、日々を穏やかに心豊かに暮らしていきたいな、と思ったのでした。


こんなサイトがありました。
「翁」に興味を持たれましたらぜひどうぞ。

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