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「推しに推されるライター」そこにたどり着くまでの道のりとは?

ある日目にした、俳優・桜田通さんのインタビュー記事。桜田通さんは私の推しの存在です。ファンとして、取材記事もたくさん目にしてきました。しかし、そのときに見た記事には、これまで知らなかった魅力がたくさん詰まっていました。さらには、桜田さん自身のSNSで、「自分からそのライターさんに執筆をオファーしたんだよ」という発言を発見。推しに推されるライターさんってすごいな……と衝撃を受けました。

私は現在、インタビューライターとして駆け出し中です。
そしていつか「推しの魅力を引き出すインタビューライターになりたい」と夢を持っています。しかし、どうやったらそんなライターになれるのかよくわかりません。でもどうしてもなりたい。これが今私の目標です。

今回は、私がインタビューライターを目指すきっかけをくださった……そして、推しに推されるライター、東谷好依(とうや・すい)さんに、ご縁を頂き、思いきって現在のような仕事ができるようになるまでの道のりについて伺いました。

一度は違う道に進むも、諦めずライターにキャリアチェンジ


――まず、東谷さんの現在の仕事内容を教えていただけますか。

雑誌やWebメディアのほか、企業のオウンドメディア、広報誌、広告などさまざまな媒体で執筆をしています。ライティングだけでなく、企画や編集を担当することもありますね。得意なジャンルはエンタテインメント、スポーツ、テクノロジーなど。インタビューがメインですが、コピーやイベントレポート、コラムを担当することもある“なんでも屋”です。

――今はライターとして活躍されている東谷さんですが、もともとは別のお仕事をされていたと聞いています。どんなお仕事をされていたのですか?

ライターになる前は、イベント会社に勤めてました。ステージの運営や、セミナーの台本作成、事務などをしていましたね。

――そこからどうしてライターへのキャリアチェンジを考えるようになったのでしょう。

学生時代から本が好きだったから、「編集の仕事をしたいな」と思っていました。でも、就職活動の結果、編集の仕事に就くことはできませんでした。一度は違う道に進みましたが、やっぱり諦められず……。それで、イベント会社で働きながらライティングや編集を学べる講座を受講することにしたんです。

――当初は編集者になりたかったのですね。

はい。そもそも、ライターと編集者の違いをよくわかっていなかったんです。講座で学ぶなかで、「私がしたいのは、書籍や雑誌などの制作全般を担う編集の仕事でなくて、その要素となる記事を書くライターの仕事だ」と気がつきました。

講座の受講後は、5年ほど会社員と並行して副業でライターをしていました。フリーランスになったのはそれからです。


宣伝会議の「編集・ライター養成講座」。ここでの出会いが今も仕事につながっている

――いくら講座を受けたと言っても、未経験からのキャリアチェンジは大変だったと思います。どうやってその道を切り開いて行ったのですか?

おっしゃるとおり、講座で学んだからといってすぐに仕事がもらえるわけではなくて。最初は、映画好きな人たちが趣味で運営しているWebメディアに応募して、記事を書いていました。報酬はなかったものの、そこでライターの先輩たちから実践的な記事の書き方を教わりましたね。また、自分の書いた記事がメディアに掲載されたことで、それが実績となって少しずつお仕事をいただけるようになっていきました。

――ちなみに、最初はどんな記事を書いていたのですか。

映画のコラムのほか、1日に何店舗も飲食店をめぐって食レポをしたり、歴史小説を20冊読んでストーリーをまとめたり……。ライターを始めてから3、4年はそういった記事を中心に書いていました。

人との繋がりを大事に。少しずつ信頼を得ていくように


――今では著名人へのインタビューをよく担当されていますよね。

ライターとしての幅を広げたくて、仕事の合間を縫ってライターや編集者が集まる交流イベントによく参加していたんです。インタビューの仕事は、そこで出会った方から紹介していただきました。でも、最初からインタビューの仕事を紹介してもらえたわけではなくて。一緒に仕事を進めていくなかで少しずつ信頼を得て、その過程で……という感じですね。

――ちなみに、ライティングのなかでもインタビューをメインにするようになって良かったと感じる出来事はありますか?

いろんな人に話を聞いて、いろんな価値観に触れられることです。たとえば、以前“ブラインドサッカー”の広報誌を作ったことがあって。

――ブラインドサッカー?

ボールの音と声のコミュニケーションで行う、視覚障害者も楽しめるサッカーのことです。広報誌を作るため、ブラインドサッカーの選手に取材させていただきました。そのときに、「音しか情報のないフィールドを走り回るのは怖くないですか?」と質問をしたら……。「普段歩く道や駅のホームのほうが、段差や階段といった障害物が多いから怖い。その点、フィールドには障害物がないので、安心して動き回れるんです」という答えが返ってきました。

この言葉は、私の中にはない価値観で、当時は衝撃を受けました。取材をしなかったら、一生気づけなかったかもしれません。


1冊丸ごと編集・ライティングを手がけた「ブラインドサッカーマガジン」

――著名人に取材をすると、ファンから記事の感想が届くことも多いと思います。それについてはどう感じていますか。

記事にリアクションがもらえるのはすごくうれしいです!いただいたコメントは全部読んでいますし、数ヶ月、数年経ってから見返すこともあります。自分の記事が良かったのか悪かったのか、読者の知りたかったことをきちんと聞けているのか、ダイレクトに読者の反応が見られる。俳優さんやタレントさんといった、エンタメ系のインタビュー記事を執筆する醍醐味はそこかもしれません。

とはいえ、私は著名な方以外へのインタビューも好きなんです。職人さんや研究者、企業の中で活躍している女性など、自分の知らない世界や価値観に触れたとき、胸の辺りがブワッと熱くなって「この仕事をしていて良かったな」と心底思います。

CG映像の未来像を模索する(SONY B)

“10年で消えるブランド”をつくる(Me & THE EARTH)


地道に進むしかない。すこしずつ進むことで道が開ける


――東谷さんのお話を聞いて、さらに「推しに推されるライターになりたい!」と思いました。ただ、周りからは「そんな簡単になれないでしょ」と言われることも多くて……。「本当に私が理想とするライターになれるのか?」と悩むことも多いです。

講座に通っていた私が言うのもなんですが、「講座やスクールに通ったら自動的にプロになれるような、簡単な世界ではない」と思っています。結局、実践を通して地道に前に進むしかないんです。裏を返せば、講座やスクールに通わなくても、少しずつ実践していくことで、道は開けてくるんじゃないかな、と。

――実践というのは、たとえばどんなことでしょう。

ライティングを趣味ではなく仕事につなげるためには、まずはブログなど自分の文章を自由に発信できる場を作って、「こんな記事が書けます!」とアピールすることが大事。いまは誰でもメディアを持てる時代です。「いつかインタビューライターになりたい」と思うなら、ブログなど自分の文章を自由に発信できる場を作って、自主企画でインタビュー記事を掲載するのもいいですね。

――ブログに書いた記事は、どうやって仕事につなげていったらいいのでしょうか。いつか、東谷さんのようにタレントさんや俳優さんのインタビューを任されるライターになりたいと思っているのですが、地方在住の私にもできるか不安です……。

著名人にインタビューをしたいなら、やっぱり仕事の数は地方よりも東京の方が圧倒的に多いと思います。ただ、「いつか著名人にインタビューをするための準備」は地方にいてもできることはたくさんあります。まずは、ブログで書いた記事をポートフォリオにして、地元のメディアに自分を売り込む、とか。そうやって実績をコツコツ積み上げていくうちに、やりたいことが実現できるチャンスも増えてくると思うんですよね。

今は昔に比べてWebメディアも増えているし、オンライン取材も当たり前になってきています。以前より「地方在住」であることのハードルは下がっていると思いますよ。

――そろそろ本日のメインの質問に移りたいのですが……(笑)。俳優の桜田通さんには、どのような経緯で取材することになったのでしょうか。

桜田さんの主演映画の『ラ』の公開直前に、雑誌の編集部からインタビューのオファーをいただきました。

桜田さんのことはそれ以前からドラマで拝見していましたが、活動を追っていたわけではなかったので、取材前に入念に下調べをしたんです。それが功を奏して、桜田さんご本人から「こんなに調べてくれたライターさんは初めてです!」とおっしゃっていただいて。

そのお仕事の後、何か取材があるときにはマネージャーさん経由でご連絡をいただくようになったんです。桜田さんとは、かれこれ4年ほど一緒にお仕事しています。

桜田通、いまメジャーデビューを選んだ理由 分かち合いながら進むことの大切さも語る(リアルサウンド)


桜田さんに初めてインタビューした雑誌『Audition Blue』と、ロングインタビューを担当した写真集『The 27 Club』

――知りたい情報を丁寧に届けてくれるので、東谷さん執筆の記事はいつもファンの間で話題になるんですよ。私もいつか東谷さんのような記事を届けられるライターになりたいです……!

ファンの方からそう言っていただけてうれしいです(笑)。編集者から「明後日取材に行けますか?」と連絡がくることもあり、時間がとれないことも多いのですが、下調べをすればするほど確度の高いインタビュー・良い記事ができると思っています。

取材が決まったら、その人のことをとことん調べる。過去の出演作品やインタビュー記事はもちろん、ファンの方のブログやSNSを見て、その人のどんなところが好きなのか、どんなことを期待しているのかもチェックします。そして、丁寧に下調べをした仕事ほど、次に繋がっているんです。

ーーありがとうございました!


今回、憧れのライターさんにインタビューして思ったのは、ぽんっといきなりジャンプして進む人っていないんだなということ。コツコツと積み重ねてきたからこそ、今の活躍に繋がるんだな、と。私もモヤモヤしている時間はないし、考えるなら1つでもやってみよう。そしてそのやれること1つ1つを丁寧に積み重ねて進んでいこう、と決意を新たにした時間でした。貴重な機会をありがとうございました!

取材・執筆*久保田まゆ香
編集*仲奈々


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