鶴田真由
流れゆく景色を眺めながら心に浮かぶ言葉を紡ぐ。物理的に移動する旅もあれば、たったひとつの言葉から心の中の風景が流れることもある。その気になればいつでもどこでも旅は出来るのだ。海辺で貝殻を拾い集めるように手のひら分の、いや、時にはそこから空へと飛び立つような音を集め、ここに詩を記す。
華道家の杉謙太郎さんと福岡でやった「花と朗読の会」の波乱にみちた制作過程を記しました。どうぞご覧下さい。
「プロメテウスの涙」 点火によって生まれた炎は 瞬く間に怪物を生み出し 空間を燃やしながら破壊し続ける 立ち上がる炎は幾重にも重なり 傍観するものの目を焦がす
「春狂乱の舞風」 桜が咲き乱れ キラキラと空中に舞う あたり一面を桜色に染め 人々を酔わす
名付けると生まれるもの 名付けると生まれるもの 名付けると失うもの 名付ける前の物語 名付けた後の物語
「落ち椿」夕暮れ時 椿林で一人佇む 花々が一斉に語り始める時間 背後でポタリと音がする ひとつの生命がこぼれ落ちる瞬間
龍の演舞は風と共に 山が燃えるよ 山が燃えるよ 火が列をなして 山が燃えるよ ゆらめく炎が大地を進み 次なる季節の糧となる
目に見えぬ景色の向こう側に咲く花 秘めて膨らむ 春の兆し 小さく香る萌黄色 色づく枝は赤みを帯びて 桜花咲く時を待つ
ベルトコンベアーで運ばれてゆく凝縮された時間 時間が凝縮されて 目の前に積み上がる
水の如く寄り添い流れ 冷たくなったガラス戸に セピア色の木漏れ日が 影となって木々の揺らめきを映し出す
ホウホウと鳴く鳥が生まれる時 気持ちが急(せ)いて時が外れると まぁるい卵にひびが入り出す 生命の球はバランスが崩れると あっという間に壊れる
<雪の降る街は銀色の宇宙船> 沢山の星がちらちらと 天から地へ 天から地へと 降り積もる 音を消して 色を消して
星のカケラは生命のミナモト 心に星のカケラを持ちながら くるくる回る
カウントダウンの声が聞こえている カウントダウンの声が聞こえている 最近まで100だったのに 気がついたら10を切っていた 10・9・8・7・・・・・
<世界の種が土の中で眠るとき> 明るい日差しの中に 冷たさが香る頃 木々は少しずつ葉を落とし 籠りの準備をする
中秋の名月に生まれる一杯の茶の湯 金色に縁取られた満月のごとく 茶面は天地を照らし 液体は気体のごとく宙に旅立つ
足元に咲く薬箱 ずっとずっと変わらずに ずっとずっとあなたはそこにいたのに ずっとずっと気づかずにごめんね
「宇宙絵図の転写」