ポール・グレアムのエッセイの抜粋

でも朝の容赦ない光の中で、自分の考えの再検討を忘れないでほしい。人々はこれにお金を払うだろうか? これは私たちが提供できるもののうち、人々がいちばん多くお金を支払いたがるものだろうか?
「カネは糞の中にある」不愉快な仕事は儲かるっていう意味だ。そして重要なのは、逆もまた真なり、ってことなんだ。人々が好きな仕事は需要と供給の関係でたいして儲からない。最も極端なケースはプログラミング言語の開発だ。プログラミング言語の開発は一文にもならない。みんなそれが大好きで、ただでやるからだ。
私が言いたいのは、何かクールなことをする会社を始めようっていうなら、目標を「クールで、できれば儲けたい」じゃなくて「儲けて、できればクールになりたい」にしておけってことさ。
もしあなたが、当時の私たちに「電子商取引のビジネスに参入しろ」と言っていたら、私たちはそのアイデアを恐ろしいと思ったかもしれない。そんな業界は、まちがいなくベンチャーキャピタルから5億円ずつ支援されているような恐ろしい会社が独占しているだろうから。「ギャラリー向けのサイト作成」という競争の少ない分野なら、なんとか生き残れると強く思いこんでいたんだ。
私たちはあまりに安全にこだわりすぎた。結局、ベンチャーキャピタルに支援された会社はそんなに怖くなかった。彼らはお金を使い切るのに忙しくて、ソフトウェアを書いてるヒマなんてなかったんだ。
1995年の電子商取引ビジネスは、業界紙を見るとすごく競争が激しいように見えたけど、ソフトウェアという点で見れば、さして競争は激しくなかった。ぜんぜんそんなことはなかった。
Open Market社(脳みそが腐ってる)のような大会社は、製品を作っている会社のフリをしていたコンサルティング会社であり[5]、実際に市場で提供されていたのはPerlなら200~300行程度のシロモノだった。Perlだから200~300行なのかもしれない。事実、それらはC++やJavaで書かれており、何万行にもなっていた。
思い切って電子商取引の世界に飛び込んでみたら、実際は競争は驚くほどラクだとわかった。
これらの間違いをまとめると、私たちがくだらない会社のアイデアにハマったのも不思議じゃない。・最初の考えにハマった ・ビジネスへの取り組みがどっちつかずだった ・競争を避けるあまり、不毛なマーケットを選んだ
Summer Founders Programに寄せられたアプリケーションに、これら3つの特徴すべてを見ることができる。でもダントツで1番目の問題が多い。アプリケーションの大部分に対して私はこう問わずにはいられない。「お金を稼ぐあらゆる手段のうち、これは最高のものなんですか?」と。
顧客が何を欲しがっているのかを知るのが難しいのは、それを見つけ出さなければならないからだ。でもそれはすぐに学ぶことができる。それはいろんな見方ができる絵のもう1つの解釈を知るようなものだ。だれかが「アヒルじゃなくてウサギがいる」って言ってくれれば、すぐに気づくだろ。
ハッカーがいつも解いている問題に比べりゃ、顧客が何を望んでいるかを知ることなんて簡単だ。最適化コンパイラを書くことができるなら、意識をそこに絞りさえすれば、ユーザを混乱させないユーザ・インターフェイスの設計もできるだろう。そして、いちどあなたの知力を、小さいけれど有益な問題に注ぎ始めたら、すごい勢いで金持ちになれる。
これが起業の本質だ。才気あふれている人々に、それにふさわしい仕事をさせておくこと。大企業はまともな人間を雇おうとする。ベンチャーが勝つのは、大企業がしないことをするからだ。ベンチャーは大企業で「研究」しているすごく賢い人々を引き抜いて、その代わりにもっと緊急の、俗っぽい問題を解かせる。アインシュタインに冷蔵庫を設計させるようなもんだね。[7]
人々が何を望んでいるかを学びたいなら、デール・カーネギーの「人を動かす」を読んで欲しい。[8]友人がこの本を推薦したとき、私は「ふざけてる」と思った。でも彼は、その本は良いと言うから、私は読んだ。そして彼は正しかった。その本は人間にとって最も難しい問題を論じている。ひとりよがりではなく、いかに客観的に物事を見るか、だ。
ほとんどの賢い人々は、それほどこれが得意じゃない。でも生の頭脳にこの能力を加えるのは、銅にスズを加えて青銅にするようなものだ。ずっと硬くなって、まるっきり違った金属のようになるんだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?