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籠の中の蛇

その道場には、国中から人爬たちが集まってきていた。
御前試合が開かれるのは実に三年ぶりのことである。
居並ぶ観客たちは皆、熱心に目の前で行われている試合を見つめていた。

爬の国はアガルタでも武芸の盛んな国として知られている。
それは、人爬というものが程度の差こそあれ、生まれつき闘争を好む性質を持っていることに由来するのかもしれない。
彼らは幼い頃から日常的に武術の鍛錬をし、肉体的な成長と共にその技術をも磨き上げていく。
強さこそ正義、強さこそ美徳。
人爬とはそういう種族だ。
爬の国がアガルタで軍事的優位を保つことができているのも、この種族としての性質によるところが大きい。

御前試合は、当代公家の首領を招いて行われる、爬の国で最も名誉ある武術大会だ。
そこで戦うことが許されるのは、血で血を洗うような戦いを勝ち抜いてきた歴戦の猛者たちに限られる。
優勝者には国のトップから最高の栄誉と勲章が与えられるとあって、選手たちは皆、この日のために過酷な修行を重ねてきたのである。

──そのアオダイショウ人爬の少女も、御前試合を観戦しに来た観客の一人だった。

著名な剣術家を父に持つ少女は、他の一般客よりも上等な席で試合を観覧していた。
選手たちの息遣いまで聞こえてきそうなほどの距離であった。
審判が開始を告げると同時に、至近距離で相対していた選手たちが間合いをとった。
二つの身体が弧を描き、お互いの隙を探るように移動する。
刀同士の切っ先が重なり合って、右へ左へと誘いをかけながら、ここぞという所で稲妻のような撃ち込みが走る。
そういうものが、少女には余すところなく見えた。

だが当の少女の方はといえば、お世辞にも真剣に観戦しているとは言えない様子であった。
先ほどから頻繁に試合から目を離し、隣にいる父母の顔を覗き見たり、後ろに座っている祖父に小声で話しかけたりしている。
実はこの時、少女はあまり武芸に関心を抱いておらず、もっと年相応な遊びの方に興味を示していた。
川で水浴びをするのも好きだし、野山を駆け回るのも好きだ。
少なくとも、ここで退屈な試合を眺めているよりは、その方がずっと楽しそうに思えた。

──あーあ、つまんない。

そんな内心の声が聞こえてきそうな娘の表情を見て、少女の父は密かにため息をついた。
正直、もう少し大人になって欲しいと思っている。
そろそろ剣術家の跡取り娘である自覚を持ってくれてもいい頃だ。
だが、それにはまだしばらく時間がかかりそうであった。
苛立たしく思った父親は、先ほどから隙を見ては孫娘をあやそうとしている彼の実父──つまりは娘の祖父──を注意をするために口を開いた。

事件が起きたのは、その時だった。

「誰か、その二人を止めろ!」

観客のうちの誰かが叫んだ。

「彼らは逆上している!」

何事かと思って振り向くと、そこでは先ほどまで試合をしていた選手たちがお互いに取っ組み合いの喧嘩をしていた。
後から聞いた話では、どうやら片方の選手が卑劣な手段を使って勝利しようとし、もう一方がそれに対して激昂したらしい。
掴み合いはすぐに殴り合いへとエスカレートした。
他の人爬が制止する間もなく、どちらともなく剣を抜きはらい、攻撃を開始した。

観客席から悲鳴が上がる。
喧嘩が殺し合いへと発展したのである。
二人の人爬はほぼ同時に地を跳ね、相手方へと殺到した。
両者の表情は、相手への怒りと憎悪とでどす黒く歪んでいる。
白刃がいくども閃き、金属と金属のぶつかり合う耳障りな音が響いた。
会場内はパニックに陥っていた。
観客たちは次々にその場から離れ、逃げ遅れた者は容赦なく突き飛ばされ、どのような身分であろうとも踏みつけにされた。
貴族たちはといえば、これは誰よりも早く姿を消していた。
暴走を続ける二人は、周囲の人爬の安全などまるで意に介していなかった。
二つの剣が弧を描き、あわやというところで観客席にいた少女の父親の鼻先をかすめた。

「……ッ⁉︎」

まずい、このままでは家族が巻き込まれる──そう思った父親は、慌てて腰の刀に手をかけようとしたが、刀の柄があるはずの場所には何もなかった。
迂闊にも、その時の彼は忘れてしまっていたのである。
防犯のため、武器はすべて事前に預けられていたことを。

「しまった──!」

気付いた時には、もう手遅れだった。
剣士たちの振るう鋭利な刃が、今にも娘の体を引き裂かんとしている。
咄嗟に前に出て庇おうとした父親の脇を、小さな影がすり抜けた。
それは他でもない彼の娘、アオダイショウ人爬の少女であった。
彼女は一切無駄のない動きで背を向けていた剣士に近づくと、長い胴体を首に巻きつけて一気にこれを締め落とした。

「あ、が……ッ⁉︎」

場内にどよめきが走った。
父も、母も、祖父でさえも、たった今起きた出来事に我が目を疑った。
だが、最も驚いたのは、いきなり崩れ落ちた剣士と戦っていたもう一方の剣士だっただろう。
わずか一秒にも満たない時間であったが、愕然とした剣士の動きが止まる。
それは隙とも呼べぬほど短い時間であったが、少女にはそれで十分だった。
アオダイショウ人爬の長い胴体がうねり、尾の先端が鞭のようにしなって剣士の手から武器を叩き落とす。
そのまま腕に巻きつき、痛みにうめく剣士の体を無理やり自分の方へ引き寄せると、先ほど締め落とした剣士から奪った刀を振り上げ、唖然としている左肩めがけて強烈な撃ち込みを放った。

「…………」

ぐしゃり、と骨が砕ける音がした。
撃たれた剣士の身体がぐらりと傾き、そのまま白目を剥いて倒れる。
しばらく場内は水を打ったように静まり返っていたが、やがて我に返った観客たちは、たった今自分たちの目の前で起こったことを正しく理解し始めた。
そして、驚くべき才能を見せたアオダイショウ人爬の少女──ナギを、拍手と歓声をもって称え始めたのである。

◆◆◆

この日を境に、ナギは己の中の秘めたる才能を完全に開花させた。
それは周囲の誰も、自分自身ですらも気付いていなかった才能だった。
相手の動き、自分の取るべき行動、どのように試合の流れを導き、どうすれば防御と防御の隙間を突けるのか──暴走する剣士たちを倒したあの日以来、彼女にはそういうものが手に取るように分かるようになったのだ。
ナギはそれまでとは人が変わったように真面目に稽古に打ち込むようになり、様々な形や戦法を身につけていった。
腕前はぐんぐん上達し、十代前半で武家貴族の令嬢の撃剣師範に任命されると、その数年後にはなんと史上最年少で御前試合大会優勝を成し遂げるという快挙を果たした。
その頃にはすでにナギの剣技は至芸と呼べる域に達しており、いかに腕に覚えのある強者であっても、この幼い少女の前に立てば、自らの未熟さと真の才能というものを同時に思い知らされることとなった。

天才だ。誰もがそう思った。
この少女は、いずれ爬の国の歴史に名を残す偉大な剣士となるに違いない。
だが、この時はまだ誰も知らなかったのである。
これから先、個人の力では到底抗えぬほど無慈悲で残酷な運命が、この幼い少女を待ち構えているということを。

──事件はナギの十六歳の誕生日に起きた。
両親が警察に逮捕されたのである。
それは武家貴族が爬の国の政権を奪取してしばらくしてからのことだった。
罪状は国家反逆罪。
ナギの両親が武家貴族の横暴かつ専制的なやり口に批判的であったのは事実である。
町の広場で行われている抗議集会にも何度か参加した。
だが、たったそれだけのことで逮捕されるなどとは、ナギも、彼女の両親たち自身も夢にも思っていなかった。
警官たちは有無を言わさず両親を連行した。
抗議を試みた父親は多人数によって暴行を加えられ、身の危険を感じた彼が武器を抜いて威嚇すると、重厚な真紅の鎧を身に纏った二刀流のムカシトカゲ人爬が現れ、数合の打ち合いの果てに父を斬り伏せた。
母親の悲鳴が上がった。
血を流して倒れ伏した父を見て、激昂して飛び出そうとしたナギを必死で制止したのは祖父である。
彼はすでに噂で知っていたのだ。今の警察に逆らった者がどうなるか。政権に批判的な者がどのような目に遭わされるかということを。
ナギは激しい怒りのこもった目でムカシトカゲ人爬を睨んだ。

「…………」

相手は真正面からその視線を受け止めたが、何も言わずに両親を引き連れて立ち去っていった。
救いを求め、彼女に向かって伸ばされた母の手を、ナギは取ることができなかった。

それからナギの生活は一変した。
彼女は反乱分子として警察にマークされることになったのだ。
ことあるごとに職務質問を受け、事情聴取と称しては特に理由もなく何時間も──時には何日も警察署内に拘束された。
その頃ナギは実家の剣術道場で師範代を務めていたのだが、門下生たちももれなく警察から嫌がらせを受けた。
道場は常に監視され、見張られ、周囲にはスパイがうろついていた。
辞める者が出るのは無理もないことだったし、彼女もそれを止めなかった。
やがて反乱分子が町の中心部に道場を構えているのはけしからんということで、警察によって強制的に周縁部に移転させられ、ますます人は減っていった。
かつて数十人いた門下生が、今ではたったの五人だけだ。
それでもナギは細々と道場の経営を続け、祖父と一緒に子供たちに剣術を教えていた。

◆◆◆

──危険!
コノ者不埒ナ目的ニテ我ガ国ニ侵入セシ間諜ナリ。
目撃者ハスミヤカニ最寄リノ警察ヘ届ケ出ルコト。
コノ者ニ話シカケタリ、何カヲ受取ル事ハコレヲカタク禁ズル。

掲示板に貼られた奇妙な手配書を眺め、買い出しからの帰り道であったナギは首を傾げた。
そこに描かれていたのは、得体の知れない生物の絵だ。
二足歩行はしているようだが、その身体は人爬族とは似ても似つかない。
色は茶褐色で、頭が大きく、関節が多い。
どちらかといえば人虫族に似ているような気がする。
間諜、つまりはスパイとのことだが、こんなに目立つスパイがいるだろうか。
これではすぐに捕まってしまいそうだとナギは思った。
捕まれば、二度とこの国を出ることはできない。
尋問され、拷問され、情報を搾り尽くされて処刑されてしまうだろう。
彼女の両親のように。

「…………」

ナギは冷たくこわばった顔のまま、唇を噛み締めた。
あの後、しばらくしてから両親は国家反逆者として処刑された。
通告も何もなく、彼女はそれを掲示板の貼り紙で知ったのだった。
親の死に目に会えなかったという事実は、ナギの心に深い傷跡を残すことになった。

「おい、そこで何をしている」

だしぬけに話しかけられて、ナギはハッと後ろを振り返った。
そこにいたのは見覚えのあるムカシトカゲ人爬だった。
かつてナギの父を斬り伏せ、連れ去って行ったあの人爬だ。
今は数名の部下に囲まれ、相変わらずの鋭い目つきでナギを睨みつけていた。

「そいつは虫の国のスパイだ。何か心当たりがあるのか?」
「……いいえ、何も」

ナギが否定すると、ムカシトカゲ人爬は疑わしそうな視線を向けてきた。

「本当か? では、なぜさっきから手配書を見ていた?」
「別に……ただ何が書いてあるのか気になって見ていただけです。いけませんか?」

ナギは努めて冷静に言い返して、相手のオレンジ色の瞳を沈着な様子で見つめた。
ここで感情的になるのは得策ではない。
そんなことをすればまた警察署に連行され、何日間も拘束されてしまうだろう。
それでは祖父に心配をかけてしまうし、門下生たちにも迷惑がかかる。

「……ふむ、まあ、余り疑われるような行動はとらないことだ。両親のようになりたくなければな」
「……っ⁉︎」

亡き父母の話を持ち出され、ナギの顔にサッと暗い影が走った。
顔面が紅潮していくのが自分でも分かる。

(あなたが、あなたたちが殺したんでしょうが……!)

冷たい怒りが無意識に握り拳を作らせたが、彼女はすぐにこわばったそれを開いた。
大きく深呼吸し、平静さを取り戻す。
落ち着いて、冷静に。
ここで怒ってはいけない。それでは奴らの思う壺だ。
警察や軍隊の連中は、ナギを逮捕したがっている。
彼女も両親と同じような反乱分子なのではないかと疑っているのだ。

「わかりました、気を付けるようにします」
「…………ふん、分かればいい。おい、もう行くぞ」

そう言ってムカシトカゲ人爬たちは去っていった。
その後ろ姿が見えなくなるまで、ナギは怒りと悲しみのこもった目で睨み続けていた。

◆◆◆

「先生、ありがとうございました!」
「はい、お疲れさま。今日はゆっくり休んで、明日の稽古も頑張ろうね」

その日の稽古を終え、ナギは門下生の子供たちを道場の外へと送り出していた。
元気よく挨拶して帰っていく子供たちに、笑顔で手を振って応える。
だが、その笑顔にはどこか陰があった。
ナギは子供が好きだった。彼らに剣の道を教えるのも。
そこに嘘はない。子供というものは素朴な好奇心と真っすぐな向上心を持って、与えられるものをどんどん吸収していく。
時には信じられないほど憎たらしい態度をとることもあるが、それも含めてナギは子供たちを愛していた。
だが──ふと思う時があるのだ。
本当にこれでいいのかと。
自分はこのままでいいのか。
かつてのナギは剣の道を極めたいと思っていた。強い相手と戦い、敗れ、また鍛えることでより自分を高めていくことを欲していたし、それが何よりも楽しいと思っていた。
だが、今では人前で自由に剣を振るうことすらできない。ナギは公式非公式を問わず、いかなる武術大会にも参加するを禁じられていたのだ。
それが反乱分子の遺族に対して国家権力が課した罰であった。
今のナギは翼をもがれた人鳥も同然だった。

「……ふぅ」

やり場のない感情が、ため息となって漏れ出た。
時刻は夕暮れ。そろそろ祖父と一緒に夕飯の支度をしなければならない。
道場に併設された自宅に戻ろうとした時、門の脇に見覚えのあるものが貼られているのが目に入った。
謎のスパイらしき生物が描かれた、あの手配書である。
昨日まではそこになかった。おおかた警察かスパイあたりが貼っていったのだろう。このような嫌がらせは日常茶飯事だった。壁に落書きをされたり、ものをぶつけられたり……家の前で深夜から朝方まで大声で騒ぎ続けられたこともあった。
しかし周辺住民の誰も、そのことに対して苦情は言わなかった。言えば次は自分が嫌がらせの標的になることが目に見えていたからだ。そうなればもう二度とこの国でまともに生きていくことはできないだろう。ナギのように延々と監視と嫌がらせを受け続け、反抗すれば待っていましたとばかりに逮捕・拘束されて収容所送りだ。下手をすれば処刑されることもありえる。無いと言い切ることはナギにはできなかった。
今の爬の国とは、そういう国なのだ。もう以前とは違う。
この国で生きていたいならば、それを受け入れるしかなかった。
ナギは悔しさに唇を噛み、陰鬱な面持ちで壁に貼られた手配書を剥がそうとした──その時だった。

「下手くそな絵カニね。誰が描いたカニ?」

ナギは愕然として振り返った。
背後に誰かが近づいていたことに、声をかけられるまで全く気付かなかったからである。
ナギは武術の達人である。そんな彼女に一切気配を悟らせずに背後を取るなどとは、これはもはや不可能事と言っても過言ではない。
今ナギの背後にいる人物は、それをいとも簡単にやってのけたのであった。

(まさか、刺客? だとすれば一体どれほどの使い手が……⁉︎)

彼女の中の警戒心が、一気に最高レベルにまで引き上げられた。
全身から殺気を放ち、いつでも迎撃できるように態勢を整える。
だが振り返った視線の先にいたのは屈強な兵士でもなければ、見るからに危険な雰囲気を漂わせた殺し屋でもなかった。
茶褐色の外骨格に覆われた体、大きな目、ハサミのような手、背中に負われた赤いリュック──それは正に手配書に描かれた通りの姿をした謎の生き物であった。

「……え?」

予想外の事態に、ナギは思わず我が目を疑った。
まさか本当にこんな生き物がいるとは思ってもみなかったからである。

「こんちはカニ」
「あ、あなた、虫の国のスパイの……!?」

慌てるナギに、その生き物はふるふると首を横に振った。

「違うカニ。カニ人は人虫ちゃんでもなければスパイでもないカニ」
「か、カニ人? あなたカニ人っていうの?」
「そうカニ。そちら様は何というお名前カニ?」
「え……? あ、わたしはナギ。アオダイショウ人爬のナギよ」

ナギが答えると、カニ人と名乗った生き物は右手を差し出してきた。
どうやら握手をしたいということらしい。

「ナギ、いい名前カニね。よろしくカニ」
「あ、これはご丁寧にどうも……」

と、つられてつい差し出されたハサミを握り返してしまう。
どうも調子が狂うというか、行動が予測できない相手だ、とナギは思った。
だが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

「カニ人……さん、だっけ? あなたは人虫族とは違うの?」
「違うカニ。我々は地上からやって来たのだカニ」

カニ人の言葉は、さらにナギを驚かせた。
地上。それはアガルタに住む者にとっては、物語でしかその名を聞かないような遠い世界での話である。
それが実在することは科学的に証明されているが、実際に行った者は数えるほどしかおらず、昔から好奇心の強い人爬たちの憧れの的とされてきた。かくいうナギ自身も以前から地上世界には興味を持っていた一人である。
その地上から、このカニ人という生き物はやって来たのだという。

「我々はこの地に商売をしに来たのだカニ。お金儲けだカニ。何かいいネタはないかと爬の国をうろついてたら、いつのまにか入っちゃいけない所に入っちゃって捕まりそうになったカニね。それで逃げたらスパイ呼ばわりされる羽目になったカニ。実に心外カニ」

そう言ってカニ人はやれやれというポーズをした。
自分に非があるなどとは微塵も思っていないらしい。
その点については深く追求せずにナギは尋ねた。

「商売って、どんなことをするの?」
「色々あるカニよ。地上から持ってきたものを売ったり、似顔絵を描いたり、マッサージをしたり……でも今一番アツいのは闘技場カニね。虫の国でも大盛況だったカニ」

闘技場。その言葉の響きに、ナギの中で眠っていた何かがぴくりと反応した。
それはカニ人が新しく虫の国で始めた商売で、ファイターとして登録した人虫族同士を戦わせるというものらしい。
登録すれば誰でもファイターになれ、勝てば報酬が得られる。
客たちはお気に入りや戦績のいいファイターに金を賭け、その勝敗に一喜一憂するのだ。

「その時の試合の様子を描いた絵があるたカニ。よかったら見るカニ?」
「……っ、見たい! ぜひ見せて!」

カニ人がリュックから取り出したのは大きなスケッチブックだ。
中にはカニ人がこれまで旅した土地の人々や情景など、様々なものが描かれていた。
どれも感心するほど上手く、リアルなタッチだ。
カニ人というのは絵が上手い種族なのかもしれない。
パラパラとめくっていくと、お目当てのページがあった。
広いテントのような建物の中に、所狭しと人虫族がひしめき合っている。
群衆の中心には円形のリングがあり、二人の人虫──おそらくサソリ人虫とセミ人虫──が戦っている。
ファイターたちは、どちらも物凄い表情を浮かべて向かい合っている。
まるで本当の殺し合いをしているかのような、どちらも本気でお互いを潰そうとしている顔。
そしてそれを囲む観客たちもまた、誰もが自分の応援する選手の勝利を願い、熱狂に侵された者に特有の、一種陶酔したような表情をその面に浮かべているのだ。
その場に渦巻いていたであろう膨大なエネルギーがそのまま追体験できるかのような、それは凄まじい絵であった。

「…………すごい」

思わずナギはポツリと呟いた。
それは心の底から漏れた感嘆と羨望の言葉だ。
外の世界にはこんなにも面白そうなものがあるのか。こんなにも強そうな戦士たちがいるのか。
戦ってみたい。自分も、彼らと──闘技場のファイターとして、強者たちとの真剣勝負がしてみたい。
だが、今の自分にはそんなことができないのも分かっていた。
自分は籠の中の蛇だ。もう一生表舞台に立つことはできないし、人前で戦うこともできない。
そんなことをすれば捕まり、投獄されてしまうだろう。
両親と同じように処刑されるかもしれない。
そう思うと、心の中に芽生えた興奮が急速に萎んでいくのを感じた。
自分の人生は、この先ずっと暗いトンネルの中を歩いていくようなものだと、ナギはそう思っていた。
だがそんな陰鬱な気持ちを吹き飛ばすかのようにカニ人は言った。

「実は爬の国でも同じような商売を始めようと思っているカニ。もし実現したらナギもファイターとして参加してくれるカニ?」
「え……?」

耳を疑う話だった。
まるで内心の願望を見透かされたのかと思ってしまったほどの、それは彼女にとって非常に魅力的な提案だった。

「見たところナギはすごく強そうカニ。これまで色んな種族を見てきたから分かるカニよ。達人の気配がするカニ」

カニ人は腕組みをしながら言った。表情は分かりにくいが、どうやら自分を高く評価してくれているらしいとわかり、なんとなくナギは面映ゆい気持ちになった。
彼女を高く評価する言葉に、何となく面映ゆいものを感じる。
実際には、興行など実現不可能なことはわかっていた。ここは爬の国だ。虫の国とは違う。政府や警察の連中は絶対にそのような娯楽──特に賭博施設──を認めないだろうし、参加者は全員逮捕されてしまうだろう。
それは理解しているが、だがそれでもカニ人の誘いがナギには嬉しかった。

「ありがとう、カニ人さん。とても嬉しいわ。もし実現したら、必ず参加させて」
「よかったカニ。参加してくれたらカニ人が全面的に支援するカニ。きっとナギなら看板ファイター間違いなしカニよ」

嬉しそうにはしゃぐカニ人を見て、ナギは微笑んだ。
それからしばらく立ち話をした後、それじゃあ、と言ってカニ人は立ち去っていった。
商売を始めるために、色々と準備しなければならないことがあるらしい。

「用意が整ったらまた声をかけに来るカニ。それまでしばしのお別れカニよ」

そう言って、現れた時と同じように、あっという間にいなくなってしまった。
小さくなっていく後ろ姿を見送っているうちに、ナギは言い知れぬ寂しさを覚えた。
久しぶりに心が躍った。己の人生は永遠の闇に鎖されたのだと諦めていた彼女に、あの不思議な客人は一筋の希望の光を見せてくれたのだ。
それだけでも十分だった。たとえこのまま変わらない生活がずっと続いていくのだとしても、今日この日にあのカニ人と出会い、外の世界のことを知ることができたのは、自分にとって幸福だったとナギは思った。

「…………ありがとう、カニ人さん」

小さな異邦人に感謝の言葉を呟きながら、ナギは祖父が待つ自宅へと戻っていった──隣家の住人が先ほどから二人の会話を盗み聞きしており、最寄りの警察署へ駆け出したとは気付かないまま……。

◆◆◆

はじめに異変に気付いたのは、ナギ自身だった。
いつものように子供たちに剣術を教えていた彼女は、最初それを幻聴かと思った。
顔を上げて、ナギは耳を澄ませた。道場の扉は開いている。そのむこう側から、生温い風が吹きつけてきていた。
その風に混じって、地鳴りのような不気味な音が聞こえてくるのだ。

「な、なんじゃ、何事じゃ?」

遅れて物音に気付いた祖父がナギに尋ねた。
だが彼女はそれには返事をせず、足早に道場を横切ると建物の外へと出た。
得体の知れない音はしだいに近く明瞭になってきた。
ナギは、門のむこうから大勢の人爬たちが行列を作ってこちらにやって来るのを見た。

「あれは──」

警官と武装した兵士たちによって構成された捕縛隊だった。
それがまっすぐ道場に向かってきている。
ナギの両親を捕らえた時と同じように。
トラウマが蘇り、彼女の顔が苦しげに歪んだ。
捕縛隊はあっという間に道場の周りを取り囲んでしまった。
ざっと五十人以上はいる集団の中から、あの赤い鎧を身に着けたムカシトカゲ人爬が進み出てきた。

「ホオズキ一刀流師範代、ナギ。お前を国家に対する反逆の罪で逮捕する」
「な、なんじゃと……⁉︎」

叫んだのは祖父だ。
ナギ本人は唇を真一文字に結んでムカシトカゲ人爬を見つめていた。

「どういうことじゃ、うちの孫が一体何をしたというんじゃ……⁉︎」

祖父の叫びに、ムカシトカゲ人爬は淡々とした口調で答えた。

「貴様の孫娘は虫の国のスパイと通じているのだ。昨日、善良なる市民からの通報で、スパイと親しげに話をしている現場が目撃されている」
「……カニ人さんのことを言っているなら」

ナギは感情を押し殺して言った。

「彼は人虫族ではないし、スパイでもないわ」

明らかにまずい状況だった。カニ人と話をしたのは事実だし、そのことについては否定しようがない。
だがムカシトカゲ人爬たちは大きな勘違いをしている。そもそもカニ人と人虫族は別の種族なのだ。だから虫の国は関係がない。スパイというのも違う。来国の目的は、諜報ではなく単純な商売だ。
ナギはその点を説明することで己が身の潔白を証明しようとしたのだが、どうやらそれは逆効果だったようだ。
周囲にいた警官の一人が、気色ばんだ様子で怒鳴った。

「おい、カニ人というのはスパイの名か? どういう素性だ? 今どこにいる? 大人しく白状しないと、ひどい目にあわせるぞ」

その血の気の多い人爬は手に持った警棒を振りかざし、ナギの頭を殴りつけようとした。
だが、そんな見え見えの攻撃をわざわざ受けてやる彼女ではない。
わずかに身をひねるだけで一撃をかわすと、そいつは勢い余ってつんのめり、そのまま地面に転がってしまった。

「こいつ、抵抗したぞ!」

仲間の前で恥をかかされた人爬が、羞恥と怒りに顔を紅潮させて叫んだ。

「公務執行妨害だ! 逮捕して収容所送りにしてしまえ!」
「そうだ、捕まえろ! こいつの両親のように」

他の捕縛隊のメンバーたちも、そうだ、そうだと大合唱した。
だが、リーダー格と思しきムカシトカゲ人爬だけは、何も言わずに黙ってその様子を見つめていた。
わんわんと響く大きな声が道場内に木霊し、その異様な雰囲気に子供たちが思わず耳をふさいだ。
すると、先ほどナギを殴ろうとした警官が彼らの存在に気付き、道場内に土足で踏み込んできた。

「お前らもあの女の仲間か。署まで連行する。一緒に来い!」

そう言って、そばにいた男の子の腕を強く引っ張った。その子が思わず抵抗しようとすると、警官は持っていた警棒でその子の頭を勢いよく殴りつけた。

「あっ……⁉︎」

殴られた子供が床に倒れ込む。
その瞬間、ナギの中で何かがぷつりと切れた。
我慢の限界だった。
冷たい氷のような怒りが彼女の身体を支配する。
弾けるように伸びたしっぽが、再び子供を殴ろうとしていた人爬に巻きつき、猛烈な勢いで道場の壁へと叩きつけた。
そして、そのまま壁に掛かっていた愛用の薙刀を掴み取ると、一瞬にして手元へと引き寄せる。

「な、ナギっ……⁉︎」
「貴様──!」

驚いた祖父が叫ぶのと同時に、刀を抜き払いつつムカシトカゲ人爬が地を蹴った。
強烈な上段からの一撃をナギが受けると、そのまま鍔迫り合いの形になる。

「かつて天才とまで呼ばれたほどの者が、血迷ったか……⁉︎ これで貴様は死罪以外になくなったぞ」

ムカシトカゲ人爬の膂力は、アオダイショウ人爬のそれよりも強かった。
単純な力比べでは相手に分がある。
だが、それでもナギは渾身の力を込めて正面からムカシトカゲ人爬を押し返そうとした。
彼女の中で燃え立つ怒りの炎が、四肢に力を与えたのだ。
押し返されかけたムカシトカゲ人爬は狼狽した。

「くっ……こいつ……!」
「血迷っているかですって? 冗談じゃないわ、それはあなた達の方でしょう! いつまで狂っているつもりなの? 他人の話に耳を傾けず、白も無理やり黒にして、火のない所に煙を立てて……あなた達のせいで、これまでに一体どれだけの無実の人々が犠牲になったと思っているの……⁉︎」
「おのれ、言わせておけば──!」

ムカシトカゲ人爬も負けじと叫び、全身に力を込めてナギを押さえつけようとする。
両者の力は完全に拮抗していた。
その隙に、他の人爬たちが二人の周りを取り囲み始めた。
逃げ場をなくし、一気に捕らえてしまうつもりなのだ。
それを察したナギは、完全に包囲網が形成される前にムカシトカゲ人爬の拘束を振り切り、背後に跳びすさりつつ薙刀を下段に構えた。

「逃げたぞ!」

包囲に失敗した捕り手たちは、己の失敗を挽回するため、一番近い者から我先にとナギに向かって突っ込んでいく。
だがそれは余りにも隙だらけで未熟な攻撃だった。
長い胴体がうねり、強靭な筋肉がぎちぎちと音を立てて収縮する。
次の瞬間、そのエネルギーを一気に解放し、矢のような速度で横一文字に捕り手たちを薙ぎ払った。

「わああぁぁぁっっ──⁉︎」

目で追えぬほどの速さと威力に、捕り手たちは悲鳴をあげるのが精いっぱいだった。
防御姿勢をとる暇もなく、真一文字に身体を切り裂かれた者たちが、血を流して倒れていく。
人爬は強靭な生命力を持っているため、この程度の傷で死ぬことはない。
だが、しばらく動きを止めるには十分すぎるほどの負傷だった。

「よし、このまま……!」

ナギはこの場から離れようとしていた。このままここで戦いを続ければ、いずれは子供たちにまで被害が及ぶ。そうなる前にできるだけ捕り手たちをひきつけながら遠くへ行き、そのまま逃げて身を隠すつもりでいた。
だが門にむかって駆け出そうとしたところで、背後から叫ばわる声が聞こえた。

「動くな! こいつらがどうなってもいいのか⁉︎」

ナギは思わず足を止めた。
見れば先ほど壁に叩きつけた警官ショックから立ち直り、子供たちの一人に背後から短刀を突きつけていたのだ。捕らえられたのは先ほど殴られた男の子だ。その子は恐怖に顔を歪ませ、涙を流しながらナギの方を見つめている。

「……っ、やめなさい! その子たちは何も関係──」

助けに向かおうとしたナギの背後から、大勢の人爬が捨て身のタックルをかましてきた。子供に気を取られて油断していたナギは、それをかわすことができない。何人もの人爬にしがみつかれ、身動きがとれなくなってしまった。

「くっ……この、離しなさい……!」

振り解こうともがいているナギの目の前に、いつのまにかあのムカシトカゲ人爬が近づいてきていた。
次の瞬間、強烈な一撃がナギの頭を襲った。
振り上げられた刀が、猛烈な勢いで彼女の頭に叩きつけられたのだ。
祖父や子供たちの悲痛な呼びかけも虚しく、ナギはそのまま意識を失った。

◆◆◆

ガシャンという耳障りな音がして、ナギは目を覚ました。

「起きろ、売国奴。誰が睡眠をとってもいいと言った」

薄目を開けた視界に、見覚えのあるシルエットが浮かび上がる。
ムカシトカゲ人爬が牢屋の外にいて、刀の鞘で鉄格子を叩いたのだ。
ナギは爬の国の中心部にある収容所に捕らえられ、様々な拷問を受けていた。
まずは人爬としての尊厳が剥奪された。入所と同時に衣服を剥ぎ取られ、それ以降の生活は全裸を余儀なくさせられる。食事はカビが生えた野菜が数切れと、腐りかけた水が一日に一回与えられるだけ。入浴などもちろんできないので、ほとんどの囚人が全身垢まみれになる。
待遇に文句を言えば鞭で打たれ、体調を崩しても鞭で打たれる。
怪我をしても治療は受けられない。自力で治すしかないのだ。
負傷が悪化して死にゆく者はそのまま放置された。
睡眠妨害も有効な拷問の一つだ。
極度の疲労と緊張に耐えかねて眠ろうとすると、先ほどのように邪魔されてしまうのだ。
これが延々と続くのである。
ナギはもう三日もまともに寝ていなかった。

「そろそろ吐いたらどうだ。虫の国のスパイはどこにいる? お前は奴と何の話をしていた?」

それはこれまでに幾度となく繰り返された問いかけだった。
対する彼女の答えも同じである。

「この国の外の世界の話よ。とても心躍る、楽しいお話」

ムカシトカゲ人爬は鬱陶しそうに顔の前で手を振った。

「やめろ、その戯言は聞き飽きた。いい加減に本当のことを話せ。嘘をつけばつくほどお前の刑期は長くなるんだぞ」

これもお決まりのやり取りだった。
何を言ってもムカシトカゲ人爬たちは信じないのだ。
なぜなら、彼女たちは真実が知りたいのではないからである。
彼女たちが聞きたいと思っている答え以外は、例外なくすべてが「戯言」なのだ。
そのあまりの馬鹿馬鹿しさにナギは思わず笑い出した。
それを目敏く見つけたムカシトカゲ人爬が詰問する。

「何が可笑しい?」

ナギは冷たい声で言った。

「どうせ私を出すつもりなんてないんでしょう」
「……なんだと?」
「初めから生きて返すつもりなんてないんでしょう、って言ってるのよ。収容所に入れられたら最後、無事に出てきた者はいない。この国の人爬なら子供だって知ってることよ」
「それは根も葉もない噂だ。釈放された者の記録は残っている」
「死ぬ直前まで痛めつけて放置することを『釈放』とは呼ばないのよ、普通」

そこまで言ったところで、ナギの左目に激痛が走った。
ムカシトカゲ人爬が鉄格子の隙間から刀を差し込み、鞘で彼女の目を突いたのだ。

「お望みなら今みたいに心ゆくまで痛めつけてやるぞ。明日の取調べが楽しみだな」

ムカシトカゲ人爬は冷たい声でそう言い放つと、痛みにうずくまるナギを残し、踵を返して立ち去っていった。

「う……うぐぅ……!」

ナギは痛みよりも悔しさに頬を濡らした。
自分はなんと弱く、惨めなのか。
何が天才なものか。理不尽に抗うことすらできずに、こうして無様にうずくまっていることしかできない、己はただの無力な一個の人爬ではないか。
ナギの頭の中で様々な思考が渦を巻いた。よぎるのは祖父のこと、門下生たちのこと、それから──あのカニ人のこと。
自分がここにいるということは、恐らくあのカニ人はまだ捕まっていないのだろう。
どうか無事に逃げおおせて欲しいとナギは思った。
爬の国から脱出し、自由な冒険を続けて欲しい、と。
籠の中の生活は、きっと彼には似合わないだろうから。

◆◆◆

数日後、ナギはもはや力尽きかけていた。
肉体の衰弱はもとより、気力、精神の方が限界であった。
心身が耗弱し、もはやどのような意志もない。
彼女は自分の人生に絶望していたのである。
すべてが嫌になり、投げやりな気持ちだった。
このまま死んでしまえたらいいのにと彼女は思った。
看守たちの蔑むような視線も、毎日のように加えられる拷問による苦痛も、今のナギにとってはどうでもいいことだった。

囚われてからちょうど三十日目を迎える夜、ナギは独房でじっと耳を澄ましていた。
どこか遠くの方で、何か小さな生き物が動き回るような、かすかな物音が聞こえたような気がしたのだ。
聞き覚えのある音だった。
時間が経つにつれ、その音はしだいにはっきりと聞こえるようになり、続いて重くて柔らかいものが倒れるような、どすんという鈍い音がした。

「やっと見つけたカニ。大丈夫カニ?」

鉄格子のむこうから、ナギを呼ばわる声がした。
思わず顔を上げたその表情が、一瞬、信じられないものを見る驚愕と、求めていた者に邂逅できたはげしい喜悦に輝いた。
その時の光景は、何年経った今でもナギの記憶にしっかりと焼きついている。
そこにいたのは、なんとあのカニ人であった。

「カニ人さん! どうしてここに?」

ナギが小声で叫ぶと、カニ人は牢の中に入ってきながら言った。
彼らの身体は小さいので、人爬用の鉄格子の隙間なら普通にくぐり抜けられるのである。

「闘技場開催の段取りがついたから、約束通りナギを迎えに行こうとしたのだカニ。そしたら捕まったって聞いてめちゃくちゃびっくりしたカニよ。というわけで助けに来たカニ。ここから逃げるカニ」

そう言うと、カニ人は背負っていたリュックから特殊な形状をした金具を取り出し、それをナギの身体を繋ぎとめている手錠の鍵穴に差し込んだ。
しばらくカチャカチャやっていると、あっけなく鍵は開いた。
まるで脱獄犯のような手際の良さである。

「……なんか、やけに慣れてない? こういうこと」
「地上で生きていくには必要な技術なのだカニ」
「そ、そうなの? 案外治安の悪い所なのね、地上って……」

ナギが独房から出ようとすると、カニ人が手を挙げてそれを制した。

「ちょっと待つカニ。暗いからよく分からなかったけど、よく見たらナギはすっぽんぽんカニ。うら若き乙女がそれではいけないカニ。着替え用のおべべを持ってきたから、これを着るといいカニ」

その時になってはじめて、ナギは自分が一糸まとわぬ姿であることを思い出し、思わず身体を手で覆った。
カニ人から着替えを受け取ったその顔は、火でも噴きそうなくらいに真っ赤になっている。
軽さと丈夫さをあわせ持つ不思議な素材の衣服に袖を通すと、ナギは先ほどまで失われていた活力が、ようやく自分の中に戻ってくるのを感じた。

扉の外には看守が倒れていた。
死んではいない。よく見れば規則的に呼吸している。
どうやらカニ人によって眠らされたらしい。

「この日のために色々と準備したのだカニ。でもそのせいで助けに来るのが大幅に遅れてしまったカニ。すまなかったカニ」

カニ人が謝罪すると、ナギは静かに首を横に振った。

「いいえ、謝らないで。あなたは私の命の恩人なんだから。あなたが来てくれなかったら、遠からず私は死んでいたと思う」

ナギはカニ人に誘導されて収容所の廊下を進んでいった。
窓から見える外の景色はすでに夜のものだ。
しばらく走ったところで、にわかに周囲が騒がしくなり始めた。
通路の両側に並んだ独房の扉が次々に開き、収容されていた囚人たちが外に出てきたのだ。
囚人たちは最初、いずれも起きている状況が呑み込めていないようだったが、やがて冷静さを取り戻し、そこに看守も警備兵もいないのを見てとると、皆一斉に出口めがけて走り出した。

「仲間が上手くやったようカニ。これでここは大混乱になるカニ」

どうやらカニ人たちは収容所のすべての独房の扉を解放したらしい。
逃げ出した囚人たちと看守たちとの間で乱闘が起こり、現場は一瞬にして争乱状態へと陥った。
凄まじい混乱が収容所を覆った。
一切の秩序がその瞬間に崩れ去り、原初の世界、血と闘争の世界が再びその場に現出した。
囚人たちは雪崩をうって出口に殺到し、それを押しとどめようとする看守たちと揉み合いになった。
絶叫が聞こえるのにそれほど時間はかからなかった。
誰かが誰かを傷つけたか、あるいは殺してしまったか。
そこから先はもう、滅茶苦茶だった。
その大混乱の隙間を縫ってナギたちは必死に走った。
とにかく出口へ。一刻も早く外へ。
もたもたしていると騒ぎを聞きつけて警官や兵士たちがやって来てしまう。
今の彼女は衰弱しているし、何より丸腰だ。
そうなる前に、なんとかしてここを脱出しなければならなかった。

広い中庭に出ると、すでにそこも多くの囚人たちと看守たちとの争いの場と化していた。
飛び交う怒号と悲鳴。互いに殴り合う音と、何かが激しく壊れる音。
血だらけになった囚人がよろめきながら逃げようとし、杖を構えた看守がそれを追う。
それはまさに混沌と表現すべき惨状であった。
ナギはそれらの争いに巻き込まれないように注意しつつ、カニ人の誘導に従ってひたすらに走り続けた。
発光性の鉱物の光がぼんやりと行く手を照らしている。
二人が大きな蔵のそばを通りがかった瞬間、いきなりナギは身を翻して宙を舞った。

「カニィィィ!? どうしたカニ?」

ナギの手を握っていたカニ人が驚いた様子で叫ぶ。
見れば、先ほどまでナギがいた場所には、真紅に塗られた槍が深々と地面に突き刺さっていた。
死角を巧みにとらえた攻撃である。
気配を察し、ナギが頭上を見上げると、屋根の上で何かが動いた。

「上に誰かいるカニ。アホそうなシルエットカニ……きっとアホのアサシンカニ!」
「うるさい、誰がアホよ、そこの変な虫!」

カニ人の暴言に思わず叫び返してしまったのは、収容所の警備を務めるヤモリ人爬だ。
彼女たちは「ファンデルワールス力」という特殊な力を利用する術を有しており、切り立った壁を這い上がったり、天井からぶら下がったりできるクライミングの名手である。
縦横無尽に空間を駆使できる特殊な能力を持った人爬が、二本目の槍を構えてナギに狙いを定めていた。
その恐るべき投擲を喰らわぬよう、ナギは滑るように移動すると蔵の壁にぴたりと背中をつけた。
ちょうど相手からは死角になっている場所である。
ヤモリ人爬は狙いをつけようとして場所を移動するが、その隙にナギは蔵の壁を垂直によじ登り始めた。
アオダイショウ人爬の胴体には腹板と呼ばれる細長い板状の鱗が並んでおり、それを凹凸に引っかけることで垂直の壁でも容易く登ることができるのだ。
ヤモリ人爬が槍を放とうとする頃には、当のナギはその背後へと回り込んでいた。

「なっ、いつの間に──!?」

驚くヤモリ人爬めがけて、ナギは全体重をかけてタックルをかました。
そのまま地面へと叩き落とす作戦だ。
しかし対するヤモリ人爬もなかなかの使い手であり、背後からの奇襲にも動じずに中段に槍を構えると、凄まじい速さで突きをくり出してきた。
普通の人爬であればヤモリ人爬が勝利していただろう。
だが、必殺の穂先が喉笛を貫く直前、ナギの体はまるで見えない手に掴まれたかのように急停止した。
しっぽで屋根の破風を掴み、渾身の力で自分の体を引き留めたのだ。

「なにっ……!?」

突き出されたまま停止した槍の柄を、ナギがしっかと掴んだ。
ヤモリ人爬は慌てて己の武器を引こうとするが、そう簡単に手離すはずはない。
二人はもつれ合った挙句、ヤモリ人爬は屋根の下へ、ナギは体にしがみついていたカニ人もろとも観音開きという小さな扉から蔵の中へと落下した。
うずたかく積まれていた物品の山の上にもろに落ち、それらがガラガラと音を立てて崩れていく。
すぐさま起き上がったナギの手が、何か硬いものに触れた。

「痛ったた……あれ、これって……?」

一方、地面に落ちたヤモリ人爬は大声で仲間を呼び集めていた。その声を聞きつけてやって来たのは、武装したオオトカゲ人爬やヨロイトカゲ人爬たちだ。合計六人ほどで取り囲むと、蔵の中は不気味に静まり返っていた。ヤモリ人爬がおそるおそる扉に近づくと、いきなり激しい音と共に蝶番がはじけ、中から薙刀を構えたナギが飛び出してきた。

「うわぁっ──!?」

どうやらその蔵は囚人たちから没収した武器などを保管しておくためのものだったようだ。
偶然にも愛刀を取り戻したナギは蔵を包囲していた人爬たちに斬りかかり、瞬く間に全員を打ち倒した。
どのような抵抗も、さして意味をなさなかった。
ナギは疾風のように移動しながらヤモリ人爬の足の健を断ち、オオトカゲ人爬の槍を弾き飛ばし、ヨロイトカゲ人爬の堅固な鱗の隙間を見切って腕や胴体を突き刺した。
あっという間に、周囲には戦闘不能になった六人の捕り手たちが転がっていた。

「うーむ、大したものカニね。やはりカニ人の目に狂いはなかったカニ」

地に倒れ伏している人爬たちの上に仁王立ちしつつ、カニ人は呟いた。
その称賛に対し、ナギははにかむような微笑みで返事をした。

「この先に行くと壁があるカニ。そこを越えればもう外カニよ。ここに来る前に用意しておいた逃走経路があるけど、そこまで行かなくても大丈夫そうカニね。よじ登ればいいカニ」
「ええ、でも急いだほうがいいかも。そろそろ騒ぎを聞きつけた警備兵たちがやって来る頃だと思うから」
「それはそうカニ。そうと決まればさっさとずらかるカニ。善は急げ──」

そこまで言った時、何かに気付いたようにカニ人の動きがぴたりと止まった。
ナギの背後を見てぶるっと体を震わせる。
そして──。

「後ろカニィィィっっ!」
「──っ!?」

間一髪、カニ人の尋常ではない様子を見て何かを悟ったナギは、背後を確認しないまま無理やり体をひねって薙刀を振るった。その斬撃は気配を殺して忍び寄っていたムカシトカゲ人爬の刀にぶつかり、星のように激しい火花を散らした。

「ちぃっ……!」

不意打ちに失敗したムカシトカゲ人爬は、舌打ちしつつ距離を取り、間合いをはかった。
ナギの隣にいる小さな茶色い生物に気が付くと、不快げに顔を歪ませた。

「そいつは……やはり貴様、スパイと繋がりがあったのか。何が無実だ。何が冤罪だ。よくも今まで白々しい嘘をつき通してきたものだな、この売国奴め」

激しい怒りを滲ませながらムカシトカゲ人爬は唸った。
それに対し、ナギは何も言わずに薙刀を構えた。
問答は無意味だということが分かっていたからだ。
どうせ何を言っても信じてもらえないだろうし、彼女らに信じてもらいたいという気持ちももはやない。
ナギはこの国を出るつもりだった。
幸い、祖父や門下生たちの身に危害は及んでいないとカニ人が教えてくれた。
彼らと二度と会えなくなってしまうのは寂しいが、かといってこのままここに残っても同じことなのだ。
どうせ殺されるなら逃げ出してやるつもりだった。
そのための最大の障害となるのが目の前のムカシトカゲ人爬だ。
彼女は決して自分を見逃したりしないだろう。この人爬の頑固さと融通の利かなさのほどはイヤというほど味わわされている。囚人の脱獄を見逃すくらいなら自ら死を選ぶに違いない。
ならば──と、ナギは薙刀の柄を慎重に握り直した。
対峙する二人の間に、一触即発の空気が流れる。
そんな剣呑な雰囲気をぶち壊したのは小さな茶色い生物であった。

「いやいや、カニ人はスパイじゃないカニよ。何回言ったらわかるカニか。もしかしてあいつアホカニ?」

それがカニ人という種族の性質なのか、彼らはたとえどんな危機的状況に陥っても決して軽口を叩くのをやめないらしい。
今もまた、まるで年来の友人に挨拶するような気軽さでムカシトカゲ人爬の前に立ち、アホカニ? もしかしてアホカニ? とひたすらに相手を煽り続けている。
鉄面皮であるはずのムカシトカゲ人爬のこめかみにピクピクと太い青筋が立ち始めた。
まずい、と思ったナギが咄嗟にしっぽを伸ばしてカニ人の体をかっさらうのと、一切の予備動作なしに抜き放たれたムカシトカゲ人爬の刀が空を切るのとは同時だった。

「か、カニィィィィ!? 危ないカニ! 死ぬかと思ったカニ!」
「……ちっ」

舌打ちしつつも、内心ムカシトカゲ人爬は先ほどのナギの動きに驚愕していた。
完璧なタイミングとスピードだった。自分の居合より早く動いて獲物を掠め取れる人爬がいるとは……なにより、約二週間に渡って過酷な拷問を受け続けた者の動きとは到底思えなかった。

(やはり自分の予想は正しかった。こいつは極めて危険な人爬だ。絶対に、今ここで仕留めなければならない)

そう思ったムカシトカゲ人爬は、改めて油断なく刀を構えた。
それを見て怯えたようにカニ人は言う。

「ナギ、外はすぐそこカニよ。こんなヤバい奴はほっといて、さっさと逃げた方がいいカニ」
「……無理ね。きっと逃げられないわ」
「どうしてカニ?」
「あいつにその気がないからよ。背中を見せたら確実に追いつかれて殺られる」
「じゃあどうするカニ? 戦うカニ?」

それしかなさそうね、とナギは呟いた。
次の瞬間、ムカシトカゲ人爬は裂帛の気合と共に踏み込んできた。
白刃が闇に閃き、薙刀がそれを受け止めたが、ナギはこれを外し、しばらく攻防が相次いだ。
ムカシトカゲ人爬は右へ左へとすばやく移動し、ナギが隙を見せるのを虎視眈々と狙っている。
広場を縦横無尽に駆け回りながら二人は攻撃を重ねた。
刃が重なる瞬間、生じる火花によって一瞬だけ周囲が明るくなる。
凄まじい撃ち合い。どちらかが体勢を崩した瞬間に、もう一方が必殺の一撃を放ってくる。
一瞬でも気を抜けば、即座に首が飛ぶだろう。
猛烈な攻撃に、ナギは防御するのが精いっぱいで、なかなか反撃に転じることができなかった。
その様子を見てとったムカシトカゲ人爬が、嘲笑うかのように叫ぶ。

「どうした、かつての天才も所詮はその程度か!?」
「──っ! このっ!」

挑発の言葉に怒りを覚え、ナギは無理やり攻撃に転じた。
だが、それは相手の作戦であった。
ムカシトカゲ人爬はナギの攻撃を外すと、だしぬけに身を翻し、そのまま右回りに身体を一回転させて強烈な斬撃をくり出した。
すでに攻撃態勢に入っていたナギは、咄嗟にこれを防ぎきれない。
遠心力によってエネルギーが増幅されたカウンターをまともに食らい、たまらずナギは十メートルほどの距離を吹っ飛ばされた。

「あっ──!」
「ナギ、大丈夫カニ……!?」

地面に転がるナギに、すかさずムカシトカゲ人爬が追い打ちをかけようと地を蹴った。
ナギはすぐさま態勢を立て直そうとするが、相手の方が速い。
間に合わない。数秒後にはナギの首は無惨に地面に転がっているだろう。
万事休すかと思われたその時、それまでナギの体にしがみついていたカニ人が、接近するムカシトカゲ人爬めがけて飛びかかった。

「ナギはやらせないカニ!」
「なにっ──!?」

銀色の閃光が弧を描いて、カニ人の体は頭から真っ二つになった。

「あ」

左右に分かれた体が、そのままパシャリと地面に落ちる。
ナギにはそれがひどくゆっくりに見えた。

「あ、ああ……」

思わず動揺して刀を振るったムカシトカゲ人爬だったが、それは一瞬のことだった。
すぐに平静さを取り戻し、真なる獲物──つまりはナギを仕留めようと刀を頭上高く振り上げた。
その白刃の光が目に入った瞬間、ナギの中で何もかも焼き尽くすような激しい怒りが爆発した。

「ああああああああああ!!!」

咆哮と共に下からすくい上げるように弧を描いた薙刀は、一撃でムカシトカゲ人爬の左手を斬り飛ばした。
驚愕に目を見開いたムカシトカゲ人爬が、己の腕の行方を目で追う。
だが、追うべきでなかった。
目の前の存在が一瞬にしてどれほどの脅威と化したか、この時に至ってなお彼女は正しく認識できていなかったのだ。
正面に目を戻した瞬間、その右目が薙刀によって深々と抉られた。
続いて右の第一後脚が、左のわき腹が、右首筋が、それぞれ一瞬にして斬り裂かれた。

「がっ──!?」

うめき声を上げる暇もなかった。
まるで暴風のようなナギの連撃に、防御すら間に合わず、ムカシトカゲ人爬はただ致命傷だけは避けようと頭部や腹部を守ることしかできなかった。
だが、ふいにその攻撃がやんだ。さしもの天才も体力の限界に達したのであろうか、にわかに攻撃の手が緩んだのである。
ムカシトカゲ人爬はその一瞬を見逃さなかった。
次の攻撃までの力を蓄える、わずか一秒にも満たないその瞬間。
刹那に等しい隙を逃さず、渾身の力を込めてナギの心臓に強烈な突きを放った。
完璧なタイミングと間合い。
並の剣士であれば反応すらできず、そのまま心臓ごと体を貫かれて絶命していただろう。
だが、それはナギの仕掛けた罠であった。
いつのまにか自身の鼻先まで迫っている薙刀の刃に気付いて、ムカシトカゲ人爬は文字通り心臓が止まるかと思うほど驚いた。
咄嗟に身をひねってかわさなければ、顔面が縦に引き裂かれていただろう。
ムカシトカゲ人爬が突きを放ったのと同時に、ナギは己の武器を投擲していたのだ。
ギリギリのところで薙刀をかわすことには成功したが、その体勢は大きく崩れた。
そこへすかさずナギの長い胴体がうねる。
尾の先端が鞭のようにしなって、ムカシトカゲ人爬の手から武器を叩き落とした。

「しまっ──」

同時にそのまま相手の腕に巻きつき、強靭な筋肉でその身体を無理やり引き寄せると、目では追えないほどの速度の右ストレートを顔面めがけて叩き込んだ。

「あ…………」

あごの骨が、ぐしゃりと砕ける音がした。
ムカシトカゲ人爬の体がぐらりと傾き、そのまま白目を剥いて倒れる。
ナギはしばらく残心して倒れた相手を見つめていたが、起き上がってこないのを見ると即座にカニ人のそばに駆け寄った。

「カニ人さん!」

半分になった体を抱き上げ、大声で呼びかける。
なぜか血が出ていないが、それはあまりにも無惨な死にざまであった。

「カニ人さん……カニ人さん……」

いつのまに涙があふれていた。
ぼろぼろと流れてくるそれが腕の中のカニ人の遺体に触れると、ふいにそれがピクリと動いたような気がした。

「──なんだか冷たいカニ。雨でも降ってるカニ?」
「っ……!?」

その時のナギの驚愕をどのように表現すればよいだろう。
半分に分かれたカニ人の体が別々に動き出し、再びくっついて元通りになったのだ。

「だ、大丈夫なの⁉︎ 体、半分に切られちゃったけど」
「なんのなんの、これくらいならしょっちゅうカニ」

心配ご無用とばかりにカニ人は笑い、パンパンと体に着いた砂埃をはらった。
それ見たナギは驚いたらいいやら喜んだらいいやらわからず、最後には泣き笑いの表情になって、そのまま地面にへたりこんだ。

「ナギ、どうして泣いてるカニ?」
「あなたが死んじゃったと思ったの。それで悲しくなって」
「ナギは心配性カニね。でもありがとうカニ。カニ人はこの程度へっちゃらカニよ」

それから二人は収容所の壁をよじ登った。
高い所から見下ろすと、遠くに小さな光が見える。
発光性の鉱物が輝きを増し始め、地下世界に光をもたらそうとしているのだ。
アガルタの夜が明けようとしていた。

「カニ人はここではお尋ね者だから、別の国で商売を始めるカニ。ナギも一緒に来るカニ?」

その誘いに、ナギは嬉しそうに頷いた。

「ええ、ぜひご一緒させて……わたしもここではお尋ね者になっちゃったからね」

そうして二人は爬の国の外へと旅立っていった。
やがて闘技場の興行主として成功したカニ人と、その妻にして子持ちでありながら看板ファイターとして活躍する凄腕の薙刀使いの噂が地上世界に広まることになるが、それはまた別の機会に語ることにしよう。

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