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ボクの家族







 気付いたらせまいオリの中だった。



どのようにして生まれたのかも覚えていないし、お母さんや兄弟のことも知らない。
そもそもボクに家族があるのだろうか。


 ある日、ついにボクはオリの中から出た。
ボクは初めてオリの中から見えなかった外の世界があることを知った。
目に入るものぜんぶが不思議だった。
ボクは楽しくてキョロキョロしてしまった。


そして、ボクは車というものに乗せられた。
どのくらいの時間がたったかわからないけれど、車が止まるとボクはおろされた。
そして、リードをガードレールにしばられ、ボクを連れてきた人は、また車に乗って去っていった。



 もうどのくらい待ったのだろう。
むかえに来てくれるものだとばかり思っていたけど、ココにボクを連れてきた人は来てくれなかった。


 おなかもすいたし、のどもかわいた。
だんだん何も考えれなくなっていく。
ボクはとても悲しい気持ちになった。


 気がつくと目の前にだれかがしゃがみこんでボクをのぞきこんでいた。
ボクが起きあがると、
『昨日からずっとココにいるけど、あなたをむかえに来てくれる人はいないの?』
ボクは、この人に悲しい気持ちが伝わってほしいと思った。
ひっしにその人のひざに顔をすりよせた。


『かわいそうに。こんなにゲッソリやせてしまって。おなかもすいてるでしょうね。
あなた、うちに来る?』
と言いながら、その人はガードレールにしばられていたリードをほどいてくれた。

ボクは、うれしくなってハァハァと笑いながらその人の胸に飛びこんだ。
その人は、そんなボクを受けとめて、涙をポロポロ流しながら笑った。
『そんなにうれしいの?
今までつらい思いしたんだね。うちに行っておいしいもの食べようね。』



そして、ボクはその人に抱っこされて、その人の家へ行くことになった。

『今日からココがあなたのおうち。そして、私があなたのお母さん。
ここにはお友達もいるのよ。』
そう言いながら、お母さんはボクにゴハンを食べさせてくれた。




これまでずっとひとりぼっちだったボクに、初めて家族ができた。
お母さんはボクに『ハント』という名前を付けてくれた。


この家にはボク以外にも2匹のいぬがいた。ボクは2匹といっしょにあそび、ゴハンを食べ、寝て、また起きて。
そして、お母さんにいろんなことを教えてもらった。



 なんせボクは、ずっとオリの中だったのでなんにも知らなかったのだ。
自分がいぬだということも。
ちなみにお母さんは、いぬではなく人間なのだそうだ。


オリの中とちがい毎日が楽しくて仕方なかった。
何よりボクはお母さんが大好きだった。
いつもハグしてくれて、なでてくれて、
『ハント大好きだよ。』
と言われ、生きててよかったとさえ思えた。
いつまでもお母さんといっしょにいたいし、いれるものだと信じてうたがいもしなかった。




ボクがハントになって10年。
ボクはだんだんと前のように走れなくなってしまっていた。
起きている時間も短くなってきた。


 そしてある日、ボクの体はとうとう動かなくなってしまった。
他の2匹が心配そうにボクをのぞきこんでいる。お母さんは、出会ったときのようにまた涙をポロポロ流している。前のような笑顔が今はない。

お母さん泣かないで。
ボクは、お母さんに出会えて、ハントという名前をもらって、本当にうれしかった。
 ボクは、これまでの楽しかったこと、うれしかったことを思い出していた。


そして、目の前のお母さんを見て、よくわからないけど、お別れをしないといけないということを悟った。
『ハント大好きだよ。』
お母さんのその一言を聞いて、ボクは静かに目を閉じた。




ありがとう大好きなボクの家族。




⋈♡*。゚⋈♡*。゚⋈♡*。゚⋈♡*。゚⋈♡*。゚


こちらは、ENEOS童話賞に応募するために以前書いたものです。


私が里子として迎え、家族として10年間一緒に過ごしたフレンチブルドッグの男の子・ハントをモデルに創作して描いたお話。
ハントは、悪徳ブリーダーの元に生まれ、皮膚病になったため棄てられたと思われます。
皮膚病は伝染するようなものではありませんでしたし、治療をすれば治るものでしたが、その医療費をかけたくなかったのでしょう。


飼い主の都合の良い解釈でしかないかもしれませんが、少なくともハントと過ごした10年間、私はとても幸せでした。
私がハントによって救われていました。


ENEOS童話賞ではなにも賞をとることはできませんでしたが、せっかく書いたのでnoteに残しておこうと思い、意を決して投稿してみました。


高齢社会になりつつある昨今、ペットを迎えるお家は益々増えていることと思います。
その裏で哀しい現実があることも事実です。


これから動物を家族として迎えようと考えている方がいらしたら、ペットショップではなく、まずは里親募集サイトなどをご覧になって欲しいのです。
パピーから里親募集されている子は少ないですが、そこに救いを待っている子たちはたくさんいます。


皆さまにきっと良き出会いがあることを願いつつ꙳★*゚




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