J2-第26節 愛媛FC対ファジアーノ岡山 2019.08.04(日)感想

 ボールポゼッションもロングボール戦法もこなすことができるファジアーノ岡山。前回対戦では武田将平選手が繰りだす長短のパスにふりまわされてしまった。その武田将平選手はベンチスタート。また、その試合で岡山移籍後初出場初ゴールを決めた中野誠也選手もベンチで出番を待つ。
 愛媛FCは前節、前々節からつづいて、西日本豪雨災害復興祈念ユニフォームを着用。このユニフォームを着てホームでの勝利を目指す。
 J2第26節、愛媛FC対ファジアーノ岡山の試合をざっくりとふりかえっていく。

 立ち上がり、愛媛はなかなか自陣からでられなかった。岡山が攻撃的なプレッシングをおこなってきたためだ。愛媛はGK岡本昌弘選手もビルドアップに参加することで岡山のプレッシングを回避できなくはないのだけれど、回避したあとのパスコースがなく、前線へロングボールを蹴ることになっていた。
 ただ6分にイ・ヨンジェ選手へのロングボールのこぼれ球を長沼洋一選手が回収すると、状況は一変する。
 長沼選手は岡山の選手たちに囲まれながらも中央をドリブルで単騎突破すると、ボックス近くで倒されるまで運びつづけた。岡山の守備の秩序を壊す長沼選手のドリブルによって、愛媛は相手陣内でのセットプレーと陣地とを獲得する。
 愛媛は全体が岡山陣内まであがれたので、ボール保持だけでなく、ボール非保持のときにも高い位置をとれるようになる。すると岡山もフォアチェックをかけるに適した高さまで愛媛をおしこめなくなり、ボール非保持のときにはハーフウェイライン付近でブロックをつくるようになる。ここから愛媛は持ち前のボール回しがじょじょに機能しはじめる。
 それなら別のやり方があると愛媛に流れを握りきらせないのが岡山。
 12分。GK一森純選手からのゴールキックを、タッチライン際にひらいた仲間隼斗選手がフリーで受ける。そのままサイドをドリブルで運ぶと、長沼選手との1対1を制してさらに深く進入。それから上田康太選手へパス。仲間選手の突破をとめるために山瀬功治選手もサイドにかりだされていたため、上田選手はフリーでかつ前をむいたままパスを受けられた。上田選手のクロスは前野貴徳選手がはじきだす。こぼれ球を関戸健二選手がひろってシュートを打つも枠の外だった。
 17分にもゴールキックから岡山がチャンスをつくる。赤嶺真吾選手を狙ったボールのこぼれ球は野澤英之選手が回収して下川陽太選手へ。しかし、下川選手の前線を狙った縦パスを喜山康平選手がカットする。愛媛は守るための準備ができておらず、中盤には山瀬選手がひとりだけの状況に。喜山選手は中央でフリーになっている仲間選手へパス。仲間選手はロングシュートを狙うも枠の左へはずれる。
 さらには21分。ゴールキックを今度は赤嶺選手が愛媛ディフェンスラインの裏へそらす。愛媛がボールを回収するが、すぐさま岡山はフォアチェックを開始。愛媛は躱しきることができず、前へ蹴りだしたボールを喜山選手にひろわれる。喜山選手から上田選手へ縦パスがはいると、これを上田選手がワンタッチで自身の真横へむかってのロブのクロスという離れ業。中央にいるのはふたたび仲間選手。しかし茂木力也選手が背走しながらヘディングでクリアーした。
 岡山は12分の場面ではサイドの突破から、17分と21分では切り替えのところから愛媛の2列めを崩してチャンスをつくっていた。
 さらに岡山はイ・ヨンジェ選手の裏抜けを再三狙っていた。前半のうち、イ・ヨンジェ選手の裏抜けはことごとくオフサイドになっていたが、いずれもぎりぎりなところで、オンサイドであれば決定機になりうる抜けだしばかりだった。解説の大西貴さんが、オフサイドになっているのではなく、愛媛ディフェンス陣がオフサイドをとっているとおっしゃっていたので、そうなのだと信じている。

 流れをつかみきれなかった愛媛だが、21分にイ・ヨンジェ選手の裏抜けをオフサイドにとれたところから、しっかりとボールを保持できるようになる。前線の選手たちが2ライン間から下がってボールを呼びこめるようになったので、岡山の2列めをゆさぶることができていた。
 22分には前野選手が2列めの中央を貫く斜めのパスを近藤貴司選手へだす。近藤選手はなんとターンしながらボールを受けてみせた。このプレーによって前をむけるだけでなく、寄せてきた喜山選手を躱してフリーになることもできていた。近藤選手が選択したのはシュート。強烈なシュートはしかし、GK一森選手の好守とバーに拒まれてしまう。
 決まっていたらまず間違いなく今節のベストゴールにはなっていただろう。愛媛FCの歴史に残って語り継がれていくゴールになったかもしれない。妄想はふくらむ。8月のベストゴールにもなって、シーズンオフにはJ2の年間ベストゴールにだって選ばれて、Jリーグアウォーズで近藤選手がスピーチする姿だってみえて、そして一躍注目されてJ1の――
 直後の23分には、最近めっきり減っていた山﨑選手からのロングフィードを藤本佳希選手が2ライン間に落とし、ひろった近藤選手がふたたびシュートを放つ。山﨑選手のロングフィードが復活したのでうれしかった。
 29分には前野選手からディフェンスラインの裏へロングパスがでて、吉田眞紀人選手が抜けだす。ゴールライン際からクロスをあげ、これはブロックされるもコーナーキックをえる。このコーナーキックで愛媛はショートパスを選択。相手が寄せの判断を迷った一瞬を突いて、パスを受けた近藤選手が縦へ切りこみ、ゆるくクロスをあげる。山﨑選手がしっかりヘディングでおしこんで1-0に。
 36分に愛媛は追加点を決める。このゴールは前節のⅤ・ファーレン長崎戦の4点めのように、長いボール保持を経てのものだった。
 32分56秒。愛媛はスローインをえてボール保持をはじめる。GK岡本選手もビルドアップに参加して数的優位をつくりつつ、中央でフリーになる野澤選手を経由してボールを前進させる。
 33分47秒に下川選手がボックス横からグラウンダーのクロスを入れる。これは岡山のブロックにあうがこぼれ球をひろってふたたび岡山陣内でボールをもつ。
 35分00秒に茂木選手から下川選手へのロングサイドチェンジがでる。茂木選手のサイドチェンジがJ1級で尊い。パスを受けた下川選手が間をつくり、そのあいだに近藤選手が裏へ抜けだす。スルーパスを受けた近藤選手がグラウンダーのクロスを入れ、待っていたのは吉田選手。ワンタッチでシュートを放つも、GK一森選手が好セーブをみせる。しかしこぼれ球を藤本選手がおしこんで古巣相手にゴールを決め、2-0に。35分08秒。
 愛媛は約2分ものあいだボールを保持しつづけてゴールを奪ったことになる。たぶん。下川選手のクロスがブロックされたり、吉田選手のシュートをGK一森選手が防いだりしたので、パスをつなぎつづけたとはいえないのかもしれないけれど。

 追加点を奪われた岡山だが、38分にきわどい攻撃をみせる。
 上田選手が左サイドでボールを受けて前をむくと、すぐさま仲間選手がサイドをかけあがっていく。つづけて左サイドバックの椋原健太選手もオーバーラップをかける。すると不意に、仲間選手が内側へ絞った。この動きに長沼選手もついていったことで、大外で椋原選手がフリーのままあがっていける状況に。上田選手の縦パスを受けた仲間選手から椋原選手へパスがでれば、一気に愛媛をおしこめる展開になっていた。だが仲間選手のワンタッチめがズレたことで長沼選手がボールを奪う。さらに長沼選手はそのままドリブルをしかけて今度はボックス手前からシュートを放った。残念ながらポストだった。
[5-4-1]のブロックで中央を固める愛媛にたいして、2列めの選手たちをひきつけてからサイドを突破し、最後は空きがちな2ライン間へのクロスで仕留める、という狙いを岡山はもっていたのかもしれない。サイドのトライアングルでの攻撃を繰り返されると、かなり危うい感じがした。

 岡山は同じ形を繰り返すわけではなかった。シュートへ至るカウンターを打たれたため、そのことを気にしたのかもしれない。ただ、しだいにボールを保持したまま愛媛陣内まで攻めあがっていくようになる。
 すると42分。椋原選手から赤嶺選手めがけたロングフィードがでる。これは逸れたがこぼれ球を仲間選手がひろってチャンスをつくった。岡山のロングフィードにたいして、愛媛がオフサイドをとれなくなってきたのは、印象としてはこのあたりからだろうか。45+1分にはイ・ヨンジェ選手が裏抜けを成功させている。
 すこしずつ岡山が修正を施しつつあったが、愛媛は0失点のまま前半をのりきった。前半終了間際にみせた、最終ラインでのパス交換から長沼選手の裏抜け一本はすばらしかった。しかし椋原選手に寄せられてシュート機会でおくれをとると、渾身のシュートもGK一森選手にビッグセーブされてしまった。

 後半立ち上がりから岡山はイ・ヨンジェ選手めがけたロングボールを入れ、こぼれ球をしっかりと回収する。
 後半から、岡山の前線へのロングフィードがより効果的になっていた。イ・ヨンジェ選手は裏抜けでオフサイドにかからなくなったし、こぼれ球をひろって愛媛陣内でのプレー時間を増やしていった。愛媛はおしこまれぎみになるので、オフサイドがよりとりづらくなり、オフサイドがとれないとさらにロングフィードでおしこまれて、と苦しい展開に。さらにハーフタイムで赤嶺選手に代わって出場した中野選手が、2ライン間で前をむいてプレーする場面が目立ちはじめ、前回対戦で決められたゴールのイメージもちらつきはじめる。
 ただ岡山が前にでてくる分、愛媛は藤本選手のところで時間がつくれるとカウンターの機会になっていた。ということで後半は岡山がボールをもち、愛媛がカウンターを狙うという、前半とは真逆の様相を呈していく。
 67分には長沼選手が岡山最終ラインでのパスをカットしてゴール前に迫ると、途中出場していた丹羽選手へスルーパス。ゴールキーパーと1対1になった丹羽選手のシュートはしかし、GK一森選手が防ぐ。GK一森選手は73分の愛媛のコーナーキックのときにも、丹羽選手のシュートを防いでいる。
 勝利を手繰り寄せる3点めを決めきれない愛媛。75分にはミスからボックス内で岡山にボールを奪われて大ピンチを迎える。ここはGK岡本選手の果敢な飛びだしで事なきをえた。
 こうしたピンチを招いたものの、愛媛はビルドアップの場面でほかに集中を欠いたプレーをみせなかった。ゆえにボールをハーフウェイライン付近までは運べていた。しかしそこから前線へパスがとおらない。後半愛媛が岡山の2ライン間を突く機会はあまりなく、中盤でボールを奪われて攻めこまれてしまうことがおおかった。たいして岡山には2ライン間をどんどん突かれてしまい、そこからサイドへ展開されてクロスをあげられてしまっていた。
 ただ愛媛は苦しみながらもシュートを打たせない守備をつづけることができ、2-0のまま試合を終える。今季3度めのクリーンシートでの勝利。そして初の連勝となった。

 復興祈念ユニフォームを着てホームで勝利できた愛媛FC。前節茂木選手の存在感ゆえに右サイドからの攻撃が圧倒的だったのに、今節ではふたたび左サイドからの攻撃が主になっていたのが興味深かった。負傷交代した吉田選手が気がかり。
 5連勝を逃したファジアーノ岡山。しかし試合中の修正力はさすがで、後半は終了間際のいちどしかオフサイドをとられていない。
 そのため愛媛はおしこまれつづけた。つくられたチャンスに比してシュートを打たれる割合はすくなかったが、それは紙一重のところだったとおもう。わずかに最後合わなかっただけ、みたいな。もし75分に愛媛の最終ラインでのミスから失点していたら――
 夏の夜にふさわしくハラハラドキドキするおもしろい試合だった。
 最後までお読みいただきありがとうございました。

 試合結果
 愛媛FC 2-0 ファジアーノ岡山 @ニンジニアスタジアム

 得点者
  愛媛:山﨑浩介、29分 藤本佳希、36分
  岡山: