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レビュー The Lyrics② 「A」

昨年発売されたポールマッカートニーの自伝的詞集「The Lyrics」を少しずつレビューする、不定期シリーズ第2弾。A〜Zのアルファベット順に並べられた本著から、「A」で取り上げられている曲(詞)のレビューを書いてみます。

今回の構成がABC順になったのは、編纂者ポールマルデューンのアイディア。年代よりも曲ごとの話を聞くことで、ポールの本質を表したり、埋もれている記憶を呼び起こせるのではという意図があったそうです。逆に言えば読者は、年代順の出来事をつなぎ合わせなければいけなかったり、似たようなエピソードが繰り返されることもありますが、イメージが刷り込まれていいかも?!

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「A」で取り上げられているのは、All My Loving, And I Love Her, Another Day, Arrow Through Me, Average Person の計5曲!
ビートルズ初期のマッカートニー代表曲から、ウイングス、ソロバランスがいい感じです。1990〜2020年代は該当曲がなかったのかなって考えてみたら、「New」のAlligatorとかAppreciate、「Chaos」のAt The MercyやAnywayがありました。Alligatorはアルバム発売時に、遠距離在住時にNancyに聴かせるために作った曲と語ってましたが、Anywayのエピソードは聞いてみたかったな。

さて、本著の中でも記憶鮮明に語られることが多いのがビートルズ以前〜初期のエピソード!
All My Lovingは、ロイオービソンとの共同ツアー中に、ポールにしてはかなり珍しく歌詞から書かれた曲であることが明かされています。

この曲は、歌詞から書いた数少ない曲の一つだよ。
普段楽器と行動を共にしてるから、こういうことは滅多に起こらない。
でもこれはツアー中のバスで詞を書きはじめた曲だ。

元々はカントリー&ウエスタン調の曲だったものの、レコーディングの終盤にジョンが3連符もどきのバッキングギターを添えるアイディアを思いついたため、より当時のツアー中の雰囲気が出たとポールは語っています。

この項ではさらに、ロバートフリーマンによる「ウィズザビートルズ」ジャケットの撮影エピソードや、初USツアーのエドサリバンショーで演奏した思い出も披露。

当時どんなに物事が急速に進んでいったかを考えてみると、All My Lovingはモスエンパイア巡業(ロイオービソンとの共同ツアー)からアメリカ征服までを約6ヶ月間で成し遂げさせてくれた。そしてその数ヶ月後に、僕は22才になった


続くAnd I Love Herでは、この曲を書いた恋人ジェーンアッシャーの家やその家族との思い出が語られています。

雑誌インタビューで出会ったジェーンとすぐに付き合いはじめたこと、(リンダも雑誌の撮影で出会ってると思うけど、そういう女性が好きなんかな、、)、ジェーンの兄ピーターの隣の部屋を貸してくれたこと、兄姉妹をオーディションに出す家庭なんてリバプール時代に付き合ったこともなかったけど、家族で温かく迎えてくれたので、母を喪って以来の家族の味わいがそこにあったこと。そして戦後復興時代のロンドンの街並みを味わえるメリルボン・ウィンポールストリートが、とても魅力的だったことなどなど。

ポールがジェーンの家の窓から撮った風景写真が残っていたり、当時この家から生まれた曲が数多くあることを考えると、ポールにとって落ち着く、インスピレーションのある環境だったことが伺われます。

何年も後になって、メリルボンからウィンポールストリートの病院に向かうときに、「ああ、あそこにいっぱい思い出があるな」なんて思いながらその家の脇を通り過ぎた。医者の家にたどり着いてベルを鳴らすとき、後ろに立ってる人がいたから振り返ったらジェーンだった。「なんてこった、ちょうど君と家のことを思い返してたんだよ」彼女に会ったのはそれっきりだけど、思い出は褪せない。

別の曲の項でも、ジェーンについて「ただパズルのひとピースが合わなかっただけ」と語るポール。ジェーンや家族との信頼と敬意が温かく伝わってきます。

曲については、EメジャーではなくF#マイナーから始まるメロディが気に入ってると話し、ジョージハリソンのイントロのコードの良さ、ジョージマーティンによるソロのキーチェンジをクローズアップ。二人のジョージが曲をより良くしてくれたと語っています。

Another DayAverage Personでは、自身の人間観察癖を披露。「あまりよくないのはわかってるけど、自然にやっちゃうんだ」と、またリバプール時代に社会活動として父に連れられて家庭訪問をした経験を語り、それぞれの人生やトラブルの話を聞くことで、みんなの人生にストーリがありまた心配もあることを学んでいったことを語っています。

その中で、
NYで暮らすリンダを思い浮かべて曲にしたのがAnother Day、TVでみたミュージックホールの窓清掃員らを思い浮かべて曲にしたのがAverage Person、ある独身のおばあちゃんを思い浮かべながら書いたのがEleanor Rigbyと。
ポールの物語調の歌詞のインスピレーションが分かって面白いですね。
そして、このそれぞれの人生にそれぞれのストーリーがあるという意識が、どんなに名声や金銭を得てもポールが常に地に足がついた状態でいられる秘訣のように思います。

さて、The Lyricsは写真が豊富なわりにその背景説明がなかったり非常に短かったりして、すべて専門家さんの解釈をつけてほしいところなのですが、Another Dayの歌詞は、手帳の1970年5月18日の欄にほんの一部が走り書きされています。
脱退報道・アルバム「マッカートニー」の発売から約1ヶ月後のポールの気持ちとはどんなものだったのでしょう。

ちょうどビートルズ解散直後で、ソロアーティストとして新しいレパートリーを作ろうとしていた。
解散後にソロ曲をリリースするのは一大事だったよ。スリリングだった、疼くような悲しみも同時にあったけど。

こんなふうに注釈説明のない写真の中に、ジョンの21才バースデイパリ旅行の写真が紛れてたり、ジョンと最後のスタジオセッションとなった日の写真が紛れてたりするので、ぜひぜひ本をお手にとって、開いてみてください😊


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